二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

夕暮れの大気に漂うもの(ポエムNO.3-57)

2020年05月08日 | 俳句・短歌・詩集
   (2018年9月、前橋)




あんなにたくさんのポピーがゆれている
色鮮やかな 光の水たまり。
おや 窓辺にすずめがやってきた。
もう正午は過ぎたのだ。


まぶたの裏側のふるえるカーヴが
昨日きみがすわっていた
木陰の白い椅子のほうへつづいている。
そこからあふれてくる幼き日の記憶。

音と香りは夕暮れの大気に漂う。


さっきまでウォーミングアップしていたおじさんは
どこへ消えたのだろう。
明日も出かけようとニコニコしていたな
おたまじゃくしの公園へ。


耳にイヤホンをさした老夫婦とすれ違った。
もうなにも話すことはないのだ。
「明日もごはん食べるの?」
「ああ 食べなきゃなるまい」

音と香りは夕暮れの大気に漂う。


日常からはみ出した気分を
どこかそのへんのベンチに忘れてきた。
かさばったもの 重たいものは
荷厄介だな なくても困らないから。


一人称なしで詩を書くって
なんてすがすがしいのだろう。
ぼくは ぼくはといい過ぎる。
とうの昔に“ぼく”には飽きたっていうのに。

音と香りは夕暮れの大気に漂う。


来週はどうします コンサートにこられますか?
・・・とドビュッシーがしわがれた小さな声でたずねる。
だれが演奏するのかというと
草や木 雨や雲だという。

ほう そうですか それならぜひ。



※ 「音と香りは夕暮れの大気に漂う」は、ドビュッシー前奏曲の中の一曲。

※ Les sons et les parfums tournent dans l'air du soir 
  はボードレール「夕べの階調」からの引用だそうです。

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