
(2018年9月、前橋)
1
あんなにたくさんのポピーがゆれている
色鮮やかな 光の水たまり。
おや 窓辺にすずめがやってきた。
もう正午は過ぎたのだ。
2
まぶたの裏側のふるえるカーヴが
昨日きみがすわっていた
木陰の白い椅子のほうへつづいている。
そこからあふれてくる幼き日の記憶。
音と香りは夕暮れの大気に漂う。
3
さっきまでウォーミングアップしていたおじさんは
どこへ消えたのだろう。
明日も出かけようとニコニコしていたな
おたまじゃくしの公園へ。
4
耳にイヤホンをさした老夫婦とすれ違った。
もうなにも話すことはないのだ。
「明日もごはん食べるの?」
「ああ 食べなきゃなるまい」
音と香りは夕暮れの大気に漂う。
5
日常からはみ出した気分を
どこかそのへんのベンチに忘れてきた。
かさばったもの 重たいものは
荷厄介だな なくても困らないから。
6
一人称なしで詩を書くって
なんてすがすがしいのだろう。
ぼくは ぼくはといい過ぎる。
とうの昔に“ぼく”には飽きたっていうのに。
音と香りは夕暮れの大気に漂う。
7
来週はどうします コンサートにこられますか?
・・・とドビュッシーがしわがれた小さな声でたずねる。
だれが演奏するのかというと
草や木 雨や雲だという。
ほう そうですか それならぜひ。
※ 「音と香りは夕暮れの大気に漂う」は、ドビュッシー前奏曲の中の一曲。
※ Les sons et les parfums tournent dans l'air du soir
はボードレール「夕べの階調」からの引用だそうです。
1
あんなにたくさんのポピーがゆれている
色鮮やかな 光の水たまり。
おや 窓辺にすずめがやってきた。
もう正午は過ぎたのだ。
2
まぶたの裏側のふるえるカーヴが
昨日きみがすわっていた
木陰の白い椅子のほうへつづいている。
そこからあふれてくる幼き日の記憶。
音と香りは夕暮れの大気に漂う。
3
さっきまでウォーミングアップしていたおじさんは
どこへ消えたのだろう。
明日も出かけようとニコニコしていたな
おたまじゃくしの公園へ。
4
耳にイヤホンをさした老夫婦とすれ違った。
もうなにも話すことはないのだ。
「明日もごはん食べるの?」
「ああ 食べなきゃなるまい」
音と香りは夕暮れの大気に漂う。
5
日常からはみ出した気分を
どこかそのへんのベンチに忘れてきた。
かさばったもの 重たいものは
荷厄介だな なくても困らないから。
6
一人称なしで詩を書くって
なんてすがすがしいのだろう。
ぼくは ぼくはといい過ぎる。
とうの昔に“ぼく”には飽きたっていうのに。
音と香りは夕暮れの大気に漂う。
7
来週はどうします コンサートにこられますか?
・・・とドビュッシーがしわがれた小さな声でたずねる。
だれが演奏するのかというと
草や木 雨や雲だという。
ほう そうですか それならぜひ。
※ 「音と香りは夕暮れの大気に漂う」は、ドビュッシー前奏曲の中の一曲。
※ Les sons et les parfums tournent dans l'air du soir
はボードレール「夕べの階調」からの引用だそうです。