―弦楽四重奏曲第15番ニ短調K421のかたわらで
死とはモーツァルトが聴けなくなること
・・・といった人がいた。
そうか うまいことをいうと感心し
しばらくそのひとことを握りしめていた。
裏の藪を鳴らし 風が通り抜けていくのに耳をすましている。
モーツァルトの弦楽四重奏を聴いた耳と同じ耳で。
彼はいつまでたっても35歳のままだが
ぼくはもうずいぶん 年をくってしまった。
昨日が明日へとスリップし いたるところで
事故が起こっている。
記憶という名の 錆びた螺旋階段を胸の片隅に後生大事にかかえ
持ちかえてはかかえながら
ときどき後ろ向きに歩いている。
銀のスプーンとフォークがぶつかって音を立てる。
その音が弦楽器のうつくしい のびやかな響きの端っこを騒がす
ほんの少し。
死とはモーツァルトが聴けなくなること。
音楽のかたわらに横たわって
目をつむり
瞼の裏側を通りすぎていくものを見送っている。
何かが終わり 何かがはじまる気配。
それが大きなうねりとなって涙腺を刺激する。
宿命の色濃いニ短調 あれは
あれは結局何だろうと自分に問いかけながら。
リビングのCDから流れでて 12帖の空間を満たし
くるくるとび跳ねたり うずくまったり
手招きしたりするもの。
それらはすべて音だし
音とは空気の振動に過ぎないことを知っている。
なのに なのにしばらく胸のふるえが止まらない。
OFFにしたスイッチをすぐにONにし
美しすぎるい短いパッセージに聴き入る 食事するのも忘れて。
モーツァルトをつかまえることなんて
だれだってできはしない とわかっていても
ぼくの手はつかもうとする。
いま通りすぎたばかりの短いパッセージを。
死とはモーツァルトが聴けなくなること
・・・といった人がいた。
そうか うまいことをいうと感心し
しばらくそのひとことを握りしめていた。
裏の藪を鳴らし 風が通り抜けていくのに耳をすましている。
モーツァルトの弦楽四重奏を聴いた耳と同じ耳で。
彼はいつまでたっても35歳のままだが
ぼくはもうずいぶん 年をくってしまった。
昨日が明日へとスリップし いたるところで
事故が起こっている。
記憶という名の 錆びた螺旋階段を胸の片隅に後生大事にかかえ
持ちかえてはかかえながら
ときどき後ろ向きに歩いている。
銀のスプーンとフォークがぶつかって音を立てる。
その音が弦楽器のうつくしい のびやかな響きの端っこを騒がす
ほんの少し。
死とはモーツァルトが聴けなくなること。
音楽のかたわらに横たわって
目をつむり
瞼の裏側を通りすぎていくものを見送っている。
何かが終わり 何かがはじまる気配。
それが大きなうねりとなって涙腺を刺激する。
宿命の色濃いニ短調 あれは
あれは結局何だろうと自分に問いかけながら。
リビングのCDから流れでて 12帖の空間を満たし
くるくるとび跳ねたり うずくまったり
手招きしたりするもの。
それらはすべて音だし
音とは空気の振動に過ぎないことを知っている。
なのに なのにしばらく胸のふるえが止まらない。
OFFにしたスイッチをすぐにONにし
美しすぎるい短いパッセージに聴き入る 食事するのも忘れて。
モーツァルトをつかまえることなんて
だれだってできはしない とわかっていても
ぼくの手はつかもうとする。
いま通りすぎたばかりの短いパッセージを。