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◆書評 ◎しょひょう ▼BOOKREVIEW □書評●
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空前の難民の襲来に、EUの政治は路線変更を余儀なくされた
テロと報復と移民制限と、その行き着く先は「考えるだに恐ろし」
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川口マーン惠美『ヨーロッパから民主主義が消える』(PHP新書)
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欧州はアフリカと中東からの難民を抱えて、移民排斥の声が次第に強くなり、「どこまでも面倒をみる」と主張したメルケル首相の人気は突然下降しはじめた。これでは次の選挙を戦えないと与党は、厳しい条件を付け始める。
本書はEUへの歩みを理念としてのギリシア神話から説き起こし、簡単に過程を振り返りながらユーロへと到った道筋を示す。
「いまヨーロッパで起こっていることは、共産主義にも匹敵する人類最大の社会実験がガラガラと崩れていく事態である。テロ、難民、財政問題、そしてナショナリズム・・・・ドイツは、そしてEUは現在どうなっているか」。
シリア内戦からISのテロリズムが吹き荒れ、トルコが難民をギリシアに押し出すような措置をとると、どっと百万前後の難民がギリシアの離島や陸路を経て、マケドニア、モンテネグロ、コソボ、クロアチアなどを経てセルビアからハンガリーへ入境し、最終的にはドイツを目ざす。
これはトルコがEUへの意趣返しを籠めて、規制を緩めたからだ。イスタンブールは西側に背を向けたのである。
なぜドイツなのか。
難民を申請すれば八ヶ月から一年ほどの審査決定までの期間、食事のほかお小遣いも支給され、そのうえ医療は無料となるからだ。
語学研修センターも開設されたが、ドイツ語習得は覚束なく、それでいて難民と認められなくとも強制送還にはならないケースが多い。当初は、不足する労働力を補えるとばかり、にんまりしたドイツ財界だったが、そんなことを言っている場合ではなくなった。
ドイツだけで百万人の難民が蝗の大群のように押し寄せ、それは周辺の国への受け入れ割り当てという流れとなる。ドイツが悪いという大合唱がおこる。
ドイツでは移民問題に敏感となり、ハンガリー、オランダでは右派の政権が誕生し、英国にUKIP、フランスは国民戦線が第一党に躍進し、そしてドイツでも、ペギータ運動が誕生し、活発化している。難民キャンプへの放火事件もあとを立たなくなった。
今後、どうなるか
。
フランスが非常事態を宣言し、まるでワイマール体制と民主主義のもとに、ヒトラーが誕生したように、オランド仏大統領は右展開し、移民排斥色濃い政策に路線を転換させ、IS空爆に参加、空母シャルルドゴールヲシリア沖に展開した。
ドイツも米仏英の空爆を支援する偵察機を飛ばすうえ、地上部隊の派遣準備を整えた。まるで戦争、いやまさしく「第三次世界戦争は開始された」と後世の歴史家はかくことになるかもしれない。
なぜならEU諸国からも民主主義が消えつつあるからだ。
このような危機的状況をドイツ在住の川口さんは、臨場感溢れる筆致で、活写する。文章には躍動感がみなぎり、現場にいるような錯覚に襲われるほどだ。
そしてEUへの猛烈な自省がおこる。
本書の最大の眼目は、このEUが解体へ向かって走り出したのではないかと大局的な分析になる。
もうひとつ忘れてはならないのはロシアだ。
「二十年前までワルシャワ条約機構のメンバーとしてソ連のもとでNATOに敵対していた国々が、すべてごっそりそのまま宗主替えをしたのである。いわばEUがロシアの脇腹にナイフを突きつけても同然だった。そしてこれが、EUとロシアのあいだに禍根を残すことになった。現在のウクライナ問題も、もとはといえば、ここに原因がある」
そして主眼のもう一つは日本への教訓である。
第一に国家運営に『ユーとビア的視点を持ち込むのは棄権』ということである。
第二に教訓として移民排斥を訴える極右政党が力をましたらどうなるかを日本は考える必要に迫られている。
第三はテロ対策である。著者は「2020年の東京五輪が最大の危機」となると予測し、繰り返しての警告を発するのである。
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