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2022年10月、幕張メッセで開催された「第5回 医療・介護・薬局Week [東京](通称 メディカルジャパン)※」では、医療機関経営や人材マネジメントに関する多数のセミナーが開催されました。当連載では、多くのセミナーのなかから、とくに医師の皆さまにお役立ていただきたいトピックスだけを厳選してお届けします。今回のテーマは「目指すべき『かかりつけ医』の近未来 制度化のポイントは?」です。
※2022年10月12日から14日、幕張メッセで開催。来場者数は約1.4万人。病院設備、医療機器、クリニック向け製品、介護製品、看護用品、薬局支援システム、感染対策など医療・介護・薬局分野に必要な最新の病院・介護・クリニック・薬局・感染対策に関わる製品・サービスが一堂に出展。セミナーの内容は、医師向けに一部編集、再構成しております。
【講師】
武藤 正樹先生 (福)日本医療伝道会衣笠病院グループ相談役
【抄録】
かかりつけ医の制度化が始まろうとしている。制度としてのかかりつけ医について以下を見ていこう。定義、登録制、成果払い方式の導入、地域フォーミュラリーの導入、標準電子カルテ。オンライン診療など。そしてその制度化の時期についても考えていこう。
外来患者数の減少は、コロナ禍以前の2015年から始まっている
新型コロナウイルスの流行によって、日本の医療のさまざまな欠陥が露呈し、その中でもプライマリ・ケアの重要性というのが非常に強調されました。本日のテーマは目指すべき『かかりつけ医』の近未来 制度化のポイントですが、かかりつけ医機能については、新経済財政再生計画や骨太の方針2022などで話し合いが進んでいます。第8次医療計画等に関する検討会でもかかりつけ医について議論がされていますが、第8次医療計画が2024年度から開始されることをふまえると議論の時間が足りません。かかりつけ医を医療計画に乗せるというのはもう少し先になるかもしれません。
さて、まず日本の外来医療の現状についておさらいしましょう。外来患者の数は1日あたり約720万人、入院患者は1日あたり約130万人です。このように患者数で見ると外来のボリュームというのが非常に大きくなっています。しかし医療費で見てみると、外来は全体の約34%、入院は38%とほぼ同等。医師の数で比較してみると、外来を担当する医師は10~11万人、入院を担当する勤務医は約20万人といわれています。
みなさんもご存じのとおり、新型コロナウイルスによって受診動態は大きく変化しました。2020年の3~5月は外来に患者さんの姿はなく、コロナで約70万人の患者さんが減りました。しかし外来患者の数は、じつはコロナ禍以前から既に減り始めており、特に65歳未満の外来患者はこれから急速に減少していくと予想されています。2015年以降多くの都道府県で外来患者数はピークに達し、以降減り続けているのです。
そこで2015年頃から、全世代型社会保障構築会議等で議論が続けられて、病床数200床以上の病院は専門化し、200床以下の病院はかかりつけ医機能を発揮するという方向で話が進んでいます。200床以上の病院の中から、「医療資源を重点的に活用する外来」をどの程度実施しているかの基準を設け、紹介患者を中心に診療する「紹介受診重点病院」を設定。2023年4月頃には明確になる予定ですが、約4割がこれに該当するとされており、紹介状なしで受診した患者は初診で7,000円を負担することになるでしょう。
日本の家庭医構想が世界に30年遅れた理由
話は1980年代にさかのぼります。その頃、「家庭医に関する懇談会」が開かれ、これが大失敗に終わりました。当時の日本医師会会長が、米国の家庭医制度に興味を持ったことをきっかけに、国立病院の医師をプライマリ・ケアを学ばせるため米国に派遣。その流れで厚生労働省が1987年、有識者や医師会幹部を集めて、「家庭医に関する懇談会」を開いたのです。
そこで国家統制の強い英国の家庭医制度GPを参考にしたらいいのではないかという話が出たのですが、これに対し、米国推しだった当時の日本医師会が大反対。家庭医のあるべきモデルを打ち出しただけで終わり、制度構築には完全に失敗したのです。これによって日本の家庭医構想は世界に30年遅れたうえ、「家庭医」という言葉は使われなくなり、日本医師会が提唱した「かかりつけ医」という言葉が定着するようになりました。
実は私は当時、国立病院で働く外科医だったのですが、家庭医の勉強をするためニューヨークに留学しました。それが1988年に帰国したら、「米国で家庭医の勉強をしてきました」なんて、とてもじゃないけれど言えるような雰囲気ではなかったんです。帰国後は日本で総合診療医として働いてみたいという希望を持っていましたが、留学の経験を生かすことはできず……。地下に潜伏する“隠れ家庭医”として過ごすことになったのです。
ようやく流れが変わりだしたのは新医師臨床研修制度によって、各診療科のローテーションがおこなわれるようになった2004年。さらに2018年には新専門医制度によって、19番目の基本領域に「総合診療専門医」が位置付けられました。これをきっかけに、ようやく日本でも家庭医、かかりつけ医の制度化が少しずつ前進し始めたのです。