ノーベル経済学者ジョセフ・スティグリッツが警鐘「トランプが勝てば、資本主義は“自滅”しうる」

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2001年にノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・スティグリッツ(81)。長年異端とされる主張を繰り返してきた彼は、自らを「改革が必要な資本主義を支持する進歩主義者」と呼ぶ。 【画像で見る】世界の経済を変えてきた「異端の学者」 いまも世界で大きな発言力を持つ彼は、著書や講演会を通じ、40年間続く新自由主義による悪影響を批判し続けている。講演のためにマドリッドにやってきたスティグリッツから、スペイン紙「エル・パイス」が話を聞いた。
「トランプ現象」とはなんなのか
──2024年は世界各地で選挙がありますが、争点になっているのはどこも経済政策ではなく、スキャンダルや文化戦争です。 経済はそうしたものの背景にあります。新自由主義が40年間続き、多くの人々は大変な困難を強いられました。グローバリゼーションや技術の変化によって、脱工業化が進んだのが原因です。新自由主義において取り残された非常に多くの人々が守られず、絶望するようになりました。これは特に米国で顕著です。
──トランプや極右の政治家たちは、この状況を利用しています。 トランプは、この疎外感や絶望感につけ込みました。昔から政治にはアイデンティティにかかわる要素がありましたが、トランプはそれを主軸としたのです。人々がAかBのいずれかのチームに属しているかのように信じてしまう状況を作りました。そのため互いに相手の主張は間違っていると捉えるようになったのです。また、ソーシャルメディアによって、それぞれが異なる空間に住めるようになり、状況はさらに複雑になっています。
──分極化しているのですね。 隣人同士であっても、それぞれが異なる世界に属する社会になっています。チームAに属す者が、チームBに属す者と出会うことはほぼなく、その逆もしかりです。
──ご指摘の通り、新自由主義は約束されたように社会を豊かにすることはありませんでした。しかし、西側諸国では、それをさらに推進しようとする右派や極右に投票する有権者が増えています。それはなぜでしょう。 感情的な反応でしょう。ただ、トランプが利用しているのはナショナリズムです。彼は現状に不満を持つ層と、ビジネス界のリーダーたちという奇妙な連立を形成しました。ナショナリズムになびく前者と違って、後者はグローバル化を支持してきたというおかしな状況です。トランプはご都合主義者であり、不満を抱える人々と億万長者たちの間に連立を形成するチャンスを利用しています。
──このような不自然な連立はどう実現したのでしょうか。 大企業の経営者たちの多くが、物質的な富だけを重視するためです。彼らは低税率を強く求め、それを約束するトランプを支持するのです。彼の政治が民主主義を破壊することになっても、税の優遇を受け、環境規制を緩和してもらうために、悪魔と取引しているかのようです。
──それは有権者のためにはなりませんが、なぜトランプは支持されるのでしょう。 1つは、アイデンティティです。トランプは自分たちの味方で、リーダーとして「悪者」になって権力に向かって真実を言い放っているのだと、信じさせています。それが何を意味するかはさておきね。 トランプの支持者は、彼が経済に良い存在だと思っています。バイデン政権の下でインフレ率は低下し、人々の賃金は上がりましたが、人々はまだ物価が高いと感じています。自分の経済状況は悪くなくても、国の経済は悪いと多くの人が調査で答えています。
──それはどう説明できるのでしょう。 現実より、特定の言説のほうが支配的になっているのでしょう。トランプの支持者は自分たちのチームのほうが優れている、バイデンの経済政策は非常に悪く、自分たちは難を免れているが、自分たちは例外に違いないと思っているのです。