〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和三年(2021)12月6日(月曜日)参
通巻第7149号
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ロシア17万5000の兵力で2022年初頭にウクライナ侵攻か
プーチンは乾坤一擲の賭けにでる構え。バイデン政権はうろたえる
****************************************
スターリンはグルジア人だった。フルシチョフはウクラナイ人だった。そしてトロツキーもブレジネフも、ウクライナ生まれである。ウクライナはロシア人から見れば切っても切れない、「スラブの兄弟」と、多くのロシア人は認識している。
したがって、プーチンがウクライナ侵攻に踏み切れば、クリミア併合でプーチンのロシア国内での人気が急上昇したように、確実に支持率は上がるだろう。
ロシアの認識はもちろん西側とは異なり、民主化などという価値観は二の次、大事なのは歴史的、文化的、宗教的な結び付きであり、おなじくロシア正教を信仰する、麗しきスラブの兄弟であるというもの(ただしウクライナは同じ東方正教会とは言っても、「ウクライナ正教」であり、ロシア正教の兄貴分と思っている)。
したがってウクライナがスラブの伝統に歯向かって西側に近付くばかりかNATOに加盟するなどトンデモナイ裏切りだという感覚になる。
げんにロシア軍は12月1日時点で、ウクライナ国境四方面に12万5000の兵力を展開している。欧米の軍事専門家は「まもなく17万5000の兵力となり、2022年初頭、はやければ1月にロシア軍のウクライナ侵攻がはじまるだろう」と予測している。それほど動きは急である。
米国は慌てた。バイデンは7日にプーチンと急なオンライン会談を開催することになった。前段として10月にオースチン国防長官がウクライナを訪問し、同月にヌーランド国務次官はモスクワを訪問した。
ヌーランド女史はウクライナ民主化運動の黒幕として、ロシアでもっとも嫌われている人物。夫君はかのネオコン理論家ロバート・ケーガンである。
バイデンは2021年3月、ぼろりと「プーチンは殺人者だ」と口を滑らした。怒り心頭のプーチンは在米ロシア大使アントノフを召喚した。米国もすぐにサリバン大使をワシントンに召還し、米露間にすきま風が吹いた。
6月にバイデンは訪欧の途中、スイスへ立ち寄り、ジュネーブでプーチンと首脳会談を行ったが、すこしの歩み寄りもなかった。立場を変えず両者は対立したまま、つめたい関係が続く。
12月初頭、ブリンケン国務長官はストックホルムで、ロシアのラブロフ外相と会談した。ロシアは「ウクライナは(西側の陰謀で)引き裂かれたのだ」という認識を示し、軍事的侵攻は「考えてもいないが」、戦争回避の条件は「NATOの東方拡大をやめること」と明言している。
欧米にとってはウクライナのNATO加盟に関して「ドアは開かれている」という態度を継続している。だが、欧米は自国兵を犠牲にしてまでのウクライナを守るか?
▼プーチンが取り憑かれているトラウマとは?
かつてプーチン大統領の側近として助言をしてきたパブロフスキーは「プーチンはトラウマに包まれたトラウマに陥っている」と分析した(パブロフスキーは、その後、反プーチン陣営に転じている)。
さて国際情勢全般を見渡せば、アジア情勢も戦雲を告げており、中国は台湾を侵攻する計画を露骨に示し、アジアにおける集団的国家安全保障の枠組みが模索され、米軍の「インド太平洋シフト」が顕著となっている。
しかしクアッドの主役であるはずのインドはロシアのみさいる防御システム=S400を導入し、ロシアのライフル50万丁をライセンス生産に踏み切る。
このためプーチンがわざわざ12月6日にニューデリーを訪問し、モディ首相との会談に臨む。米国は神経を尖らせている。
こうしたタイミングでロシアがウクライナ侵攻を敢行しても、米軍は即応できず、NATOは結束が弛緩しており、事態の進展は予測が付かないことになる。
2008年のロシアのグルジア(現在ジョージアと国名変更)侵攻も、2014年のクリミア併合も、前々から警告されていたが、西側はなにも出来なかった。
プーチンは徐々に着実に嘗てのソ連帝国の版図を恢復しているのである。