温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

由布院温泉 下ん湯

2013年02月04日 | 大分県
 
由布院の観光名所である風光明媚な金鱗湖。由布院は韓国人観光客からも人気を集めており、この日も団体の韓国人客が多く見られました。とくにオバちゃんグループは非常によく目立ちますね・・・テカテカの蛍光色のジャケットを纏い、北島サブちゃんやラーメン好き好き小池さんも真っ青のチリチリパーマをかけ、大騒ぎしながらそこのけそこのけお馬が通る状態で悠々闊歩しているので、湖の対岸でも容易にその集団を確認することができます。静かな湖畔に広がる波紋は、オバちゃんたちの騒ぎ声や足音が響いて波立っていたのかもしれません。



湖畔に佇む茅葺屋根が今回の目的地。


 
皆様おなじみ、由布院のランドマーク「下ん湯」であります。数年前に一度利用したことがあるのですが、せっかくですから今回再訪してみることにしました。あまりにも有名な観光名所なので、拙ブログで取り上げることは控えていたのですが、今回入ってみて改めてこの「下ん湯」の素晴らしさに心が打たれたので、有名だろうとなかろうと良い物は良いんだというスタンスに立脚し、今回記事にさせていただくことにしました。
入口の引き戸に掲示されているハングルのみで書かれた注意書きは、いかにもご当地らしい光景です。


 
湯の坪通りは多くの観光客で賑わっていたため、どんなガイドブックにも掲載されている「下ん湯」もさぞかし混んでいるんだろうなと覚悟しながら戸を開けたのですが、豈図らんや、表の喧騒とは全く無縁の、人っ子一人いない静寂が浴室内を支配していました。屋内に照明類は無いため、陽の光が届きにくい奥の方は昼間でも薄暗いのですが、むしろそのことが古民家風の湯屋にマッチした落ち着いた雰囲気を醸し出しています。
とはいえ、脱衣所と浴室が一体化された伝統的な様式には慣れない方も多いでしょうし、何より実質的に露天風呂のような造りなのに混浴であるという点が、この日の観光客から敬遠されていた理由なのかもしれません。


 
見上げると太く立派な梁が頭上に渡され、その上で垂木や母屋がまるで幾何学模様を描くかのように美しく等間隔に配されています。そして屋根の茅は縄でしっかりとそれらの骨組み類に結束されています。大工さんのなせる技に、思わず見惚れてしまいます。また梁から天井に向かって扇子が高く祀り上げられていました。


 
脱衣スペースと浴室が中央を挟んでシンメトリになっており、その使い方(使い分け)に関しては特に案内されていませんが、例えば左側の棚が女性用で右側が男性用で…なんていう暗黙の了解なんてあるんでしょうか? 


 
棟木と並行方向に2つの長方形の湯船が据えられており、それぞれ源泉用のバルブが設けられていて、利用者各自で投入量(すなわち温度の)調整が可能になっています。棚には「熱ければ加水して…」といった旨が書かれていましたが、この時は加水せずとも吐出口から注がれている源泉そのままの状態で何ら問題なく、特に露天側の浴槽はこの上ない適温状態で入浴することができました。
無色澄明無味無臭で癖のない優しい感触のお湯が完全掛け流し。なんて素晴らしいんでしょう!


 
露天の金鱗湖側は灌木や竹垣によって目隠しされており、その隙間からは湖畔の遊歩道を散策する観光客の姿がチラチラ見えますが、向こう側からこちらの様子に気づくことはなさそうです(こっちにお風呂があることを知っていれば話は別ですが…)。
もちろんお湯も雰囲気も良いんですよ。でも私がここで最も心を奪われたのは露天側の浴槽の様子でして、もともと浴槽に用いられた素材の特徴なのか、はたまた長年温泉に触れてきた結果として着色されてきたのか、その槽内はあたかも瀝青を薄く塗ったかのように、あるいは濃紺の漆塗りのように、美しく黒く輝いており、陽光を虹色に反射し続けていました。
向田邦子のドラマ「幸福」に出てくる…
素顔の幸福は しみもあれば 涙の痕もあります。思いがけない片隅に 不幸のなかに 転がっています。
屑ダイヤより小さい それに気がついて 掌にすくい上げることのできる人を、幸福というのかもしれません。
というセリフ(ナレーション)は、私の人生観に大きな影響を与えているのですが、強引ながらここでの幸福を「下ん湯」に当てはめてみますと、決して目立たない浴槽内の瀝青色した渋い輝きこそ、いまや知名度が全国的となった由布院における屑ダイヤより小さな煌めきなのかもしれませんね。ま、私の無理やりな妄想はどうでもいいのですが、とにもかくにも、周囲の環境も、湯屋としての趣きも、そしてお湯のクオリティも、全てにおいて百点満点なお風呂でありました。


岳本共同温泉
単純温泉 63.1℃ pH8.1 湧出量測定せず(掘削動力揚湯・200m) 溶存物質0.783g/kg 成分総計0.788g/kg
Na+:148.0mg(80.60mval%),
Cl-:80.6mg(28.84mval%), SO4--:74.7mg(19.82mval%), HCO3-:245.0mg(51.08mval%),
H2SiO3:194.0mg,

久大本線・由布院駅より徒歩18分(1.6km)
大分県由布市湯布院町川上1585  地図
由布院温泉観光協会HP内の紹介ページ

9:00~23:00
200円
備品類なし

私の好み:★★★


●おまけ
 
温泉共同浴場が点在する地域には憧憬の念を抱いてしまう私。
周辺にはジモ専(地域住民専用の共同浴場)が点在していますが、いずれも外来者の利用は禁止されているため、その中のいくつかを画像と簡単なキャプションだけで紹介させていただきます。
「岳本地区共同温泉」は「下ん湯」の目の前にあるジモ専のひとつ。2階建ての建物の他、伝統的な湯屋建築の「堂本の湯」も棟続きになっています。


 
こちらは路地裏でひっそりと佇むジモ専。浴場名はわかりません。


 
建物の外には洗濯場があり、その傍らには大きな金盥が伏せられていました。生活感溢れる温泉共同浴場ってとっても魅力的ですね。赤いよだれかけをしたお地蔵様が優しく見守っています。



コメント
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