温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

壁湯温泉 旅館福元屋 後編(3つのお風呂)

2013年02月11日 | 大分県
前編のつづきです。

壁湯温泉「旅館福元屋」には3つのお風呂があり、欲張りな私はその全てを利用させていただきました。その3つとは、内湯、屋外の切り出し風呂、そして壁湯温泉名物の露天洞窟風呂、であります。まずは内湯から見てみましょう。


●隠り国の湯(内湯)

谷根千でお馴染みの森まゆみ女史が「隠り国の湯」とネーミングした館内にある旅館内の浴室すなわち内湯は、貸切で使う家族風呂となっております。


 
貸切ですが事前の予約などは必要なく、誰も使っていなければいつでも(深夜は不可)入浴可能。
利用の際は札を裏返して「入浴中」にします。引っ掛けには古い碍子が転用されていました。


 
お花や人形など、ひとつひとつが繊細で可愛らしい…


 
天井が低くて薄暗い浴室はまるで瞑想室のよう。浴槽には昔の蔵に使われていた石を用いているんだそうです。肌に触れるだけでその重厚感が伝わってきます。
なお浴槽に注がれているお湯は加温の上、掛け流されています。


●切り出しの湯
 
つづいては一旦屋外に出てから、共同浴場の入口付近に建つ離れのお風呂「切り出しの湯」へ向かいましょう。こちらも貸切ですが、宿泊者専用でして、利用に際しては帳場で鍵を借ります。



照明などは各自でON/OFFするのですが、照明のスイッチと並んで泡風呂のスイッチがあったこと、この写真を撮った後にそのことに気づきました。


 
脱衣室は2人でいっぱいになるほどこぢんまりとした空間。美容ジェルや化粧水の試供品が置かれているあたりに、このお宿の方向性がよくわかります。日が暮れるととても冷え込む場所でしたので、室内に用意されていたストーブがありがたかったです。



ご主人が切り出した石を三和土で堅めて造った優しいフィーリングの丸い浴槽は、貸切にしては大きくゆとりのあるサイズでして、3~4人は入れちゃいそうですが、そんな優雅なお風呂に2人寄り添いながら入ってこそ、より一層お籠りムードが昂揚しちゃうんでしょう。しかしながら、一歩旅の空の下へ出た途端、常住坐臥、寝ても覚めても孤影悄然な私はそんな睦み合いにはとんと無縁ですから、面積的にも心情的にもこの湯船の広さを持て余し、意味もなく伸ばした足をバタつかせてみたり、うつ伏せになってお尻をプカプカさせてみたのですが、何ら生産性のないこうした行動は余計に私を疲れさせ、本来は癒しの場であるこのお風呂に浸かっておきながら、寂寥感ばかりが募ってしまいました。一人でこのお風呂に入ると余計な思慮に支配されてしまうのかもしれません。
なお竹の樋から注がれる温泉は、源泉温度が低いために内湯と同様に加温されています。


 
ちゃんとシャワー付き混合水栓もシャンプー類も備え付けられていますよ。
さりげない飾りが心に清涼感をもたらしてくれます。



浴室内に掲げられたこのお風呂に関する説明です。
何!? 浴槽にハートがあるって?



おお! これだな! ハートみっけ!
尤もこういうことは、カップルでこのお風呂に入った時に女の子がはしゃぎながら見つけるものなんでしょうから、医者に体脂肪率を減らすように繰り返し忠告されている小太りのオッサンがハート探しに浮かれたところでただただ見苦しいだけなのですが、幸いにしてこのお風呂は貸切で他の誰にもその様子は見られませんから、オッサンだって女の子の気持ちになりたい時だってあるんだ、とわけも分からぬことを一人で呟きながら、下腹の贅肉を左右に揺らしてハート探しに夢中になっていたのでありました…。


●洞窟風呂

さて、壁湯温泉名物の洞窟風呂(露天風呂)へと参りましょう。
前2者と異なり、こちらは混浴で開けっぴろげな野趣あふれる露天風呂なのですが、「そんな恥ずかしいお風呂なんてイヤ」とお嘆きの姫君のため、洞窟風呂の手前には女性専用の岩風呂(画像に写っている湯小屋)が設けられているんですね。これにより、カップルでここへやってきたとしても、男性は露天へ、女性は岩風呂へ入れば、何ら問題なく且つ同じタイミングで入退場ができるわけです。


 
 
町田川の渓谷を成す岩を穿ってつくったような、まさに洞窟状のワイルドなお風呂。
この底からお湯が足元湧出してくるんですから感動せずにはいられません。実際に奥の方の底から時折プクプクと小さな泡が上がっていました。目の前が渓流というロケーションでしたら他の温泉地にもありますが、こんな条件を兼ね備えている露天風呂って他に類を見ませんよね。全国からここを目指して温泉ファンが集まってくることも納得できます。



湧出量は豊富らしく、このように浴槽の最下流からはドバドバと排湯されていました。



見えにくい画像で恐縮ですが、岩肌には「南無阿弥陀仏」と彫られていました。また奥の方には小さな石仏も置かれていました。壁湯温泉はきっと仏様のご加護があってこそなのでしょう。



あぁいい湯だ…といいたいところですが、この自画撮りを行った時(朝7時前)は、気温2℃にもかかわらずお湯の温度は36.3℃でした。自然湧出のお湯そのままの状態であり、加温なんてできない場所ですから、冬場の壁湯温泉洞窟風呂は寒さとの格闘が避けられないのですね。お宿の方は「(ぬるいので)1時間以上入って下さい」とおっしゃっていましたが、一度入ると寒くて出られなくなっちゃうので、どうしても1時間は入り続けてしまいます。でもお湯自体はとってもアッサリとした優しい性質なので、いくら長湯しても体には負担がかからず、入浴中は気泡が付着していないにもかかわらず、まるで全身が泡で浮いているかのようなフワフワ感に包まれました。

無色澄明無味無臭のいかにも宝泉寺温泉郷らしいお湯ですが、成分総計を比較してみますと、同温泉郷で最も上流に位置する川底温泉「蛍川荘」は1.060g/kgでしかも食塩泉、そこから2キロほど下った宝泉寺の「たから温泉」は0.522g/kg、更に数百メートル下流の壁湯は0.326g/kgという数値になっており、町田川に沿って点在する温泉は下流に向かえば向かうほど薄くなる傾向にあるのかもしれません。


 
洞窟風呂に目を奪われて見落としがちですが、川岸にも小さな露天があるんですね。お湯の温度といいロケーションといい、夏向きの温泉といえそうです。

「切り出しの湯」の女性向きな雰囲気には、何も知らずに代官山あたりの小洒落たカフェに入ったら周囲がみんな若い女の子ばかりで気後れしてしまったオジサンのような自意識過剰に陥りましたが、洞窟露天のワイルドさはまさに男性向きであり、両極端の個性を有するお風呂によって男女それぞれが満足できるという、実に理想的な温泉旅館でありました。お料理もホスピタリティも、とても山間部のお宿とは思えない上品なもので、温泉のみならずソフト面でもお客さんを魅了し続けているんだと今回実感させていただきました。


単純温泉 36.6℃ pH7.9 湧出量測定せず(自然湧出・自噴) 溶存物質0.322g/kg 成分総計0.326g/kg
Na+:53.8mg(77.23mval%), Ca++:8.5mg(13.86mval%),
Cl-:73.1mg(63.00mval%), HCO3-:62.4mg(31.19mval%),
H2SiO3:105.0mg,

豊後森駅から玖珠観光バスの路線バス(小国・菅原・二瀬行)で壁湯下車
(時刻表などは大分交通のHPを参照)
大分県玖珠郡九重町大字町田
0973-78-8754
ホームページ

立ち寄り入浴9:00~21:00
300円
洞窟風呂にはロッカーのみ有り

私の好み:★★★
コメント
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