群馬県民なら誰しも知っているであろう上毛カルタ。必ず対戦のはじめに読む「つる舞う形の群馬県」に関しては、なんと「つるまう」の4文字を入力しただけでGoogleが予測変換してくれるほど今ではそれなりに知名度も上がってきましたが、この他の句も「ねぎとこんにゃく下仁田名産」「浅間のいたずら鬼の押し出し」などなど、中山秀征と井森美幸の普及活動のおかげで、東京生まれ神奈川育ちの私だって多少は暗誦できるようになりました。そんな読み札のうち、いろはの「い」は言わずもがな「伊香保温泉 日本の名湯」であります。そんなこんなで、今回からは伊香保温泉にスポットを当ててみます。我が川崎市からも楽に日帰りできる手軽な温泉地ですから、私もしばしば訪れていますが、どういうわけか今まで拙ブログではひとつも記事にしてきませんでしたので、ブログの中身を厚くするために3回連続で取り上げる所存です。
皆様御存知のように、伊香保温泉の主役である黄金の湯は泉源から石段の下を流れ、小間口によって分配されて各旅館へと供給されているわけですが(詳しくは伊香保温泉小間口権者組合のサイトをご参照あれ)、最下流の末端まで延長は2.1kmにも及んでいるため、炭酸ガスと鉄分を多く含む黄金の湯はその流下過程で炭酸が抜ける一方で鉄は酸化し、石段の上と下とでは同じお湯でも様相に相当の違いが見られるので、湯めぐりしながらその相違を実感するのも一興です。高崎や前橋などの平野部に上州名物「からっ風」が吹いていた冬の某日、私は当地にて石段の下から上へ向かって温泉のハシゴを楽しんでみました。ただ、伊香保のお湯は泉源の時点で45℃に満たず、流下に連れて徐々に温度が低下してしまって、石段の下方の施設では加温しないと入浴に適さないため(そして伊香保のような泉質は加温しちゃうと変質してしまうため)、今回は加温せずに入浴ができる石段中程から上の施設を選ばせていただきました。まずはじめは石段から狭い路地へ入ったところ、「金太夫」の手前に位置している「吉田屋旅館」です。
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軽量鉄骨の古びた建物で湯治宿風情たっぷりのお宿。玄関などには「日帰り入浴」に関する案内は掲示されておらず、ぱっと見は館内が薄暗かったので営業していないのかと不安になりましたが、玄関にて声を掛けましたらご主人が現れて快く入浴をOKして下さり、「冬の伊香保の湯はぬるいので、ゆっくりと入ってくださいね」と案内してくれました。
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浴室入口脇にある洗面台は昔ながらのタイル貼りで、角のRがとってもレトロです。
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浴室入口は男女共通で、男湯の脱衣所の奥に女湯があるため、女湯にはまず男湯の脱衣室を通り過ぎないと行けません。この手の構造は伊香保温泉の古い中小規模旅館でしばしば見られますね。
脱衣室は棚がくくりつけられているだけの至ってシンプルな造りです。
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浴室もかなり質素で、モルタル造で2人サイズの浴槽があるばかり。床にはスノコが敷かれています。洗い場には水道の蛇口が一つあるだけで、シャワーなんて現代的な設備は無し。余計なものは排除されたこのお風呂では、邪念を払ってお湯にひたすら対峙することが最大にして唯一の目的なのであります。
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女湯との仕切りは曇りガラスですが、その上から全く透過性のないプラ板で目隠しされています。
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モスグリーンを帯びた山吹色に暗く濁る浴槽のお湯。長年使い込まれた浴槽の縁は入浴客が度重なり触れることによって研磨されて滑らかになっていますが、コーナー部分は温泉析出がこびりついて凸凹をなしており、そこに温泉成分のオレンジ色の澱が付着していました。お湯自体は30~40cm程の透明度があり、底には湯の華が沈殿していますが、お湯を撹拌してもそれほど濁り方が濃くなるようなことはありません。石段の真ん中あたりから分配されたお湯を受けて利用しているものと思われますが、加温しなくても浴用利用できるような段階であるためか、鮮度感は良好、炭酸もさほど抜けておらず、鉄分の酸化も軽度で済んでいるためか濁り方もそれほど濃くはありません。
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男女両浴槽の間に立つパイプシャフトのような縦に細長い空間には木の扉が取り付けられており、そこを開けてみると…
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滝のように勢い良く温泉が落とされていました。その下部は瘤が垂れ下がっている瘤取り爺さんのような、うろこ状の析出が層をなして付着しています。この造形を目にして私はかなり興奮し、指先で表面を何度も擦ってしまいました。お湯からはいかにも伊香保らしい金気・石膏・土気の味や匂いが放たれ、微塩味+弱炭酸味、湯口では何かが燻されたようなお焦げ系の香ばしい匂いもふんわり漂ってきました。
加温加水循環消毒は一切ない完全放流式の湯使い。非加温でぬるく40℃あるかないかの温度ですが、肩まで浸かってじっくり長湯すると、コートが不要なほど体の芯からしっかり温まりました。黄金の湯は何度入っても飽きませんね。ご主人のお話ですと、このぬるさに苦言を呈するお客さんもいるようですが、加温しないで入れる伊香保のお風呂は貴重なんですから、そんな文句は野暮ってもんです。きっと「風呂もお茶もチンチンに沸かした熱い方がいいに決まってる」なんて御託を並べて、ケトルのようなご自身の禿頭から湯気を濛々と上げて高血圧でフラフラしているに違いありません。
なお、こちらのお風呂では湯上りにタオルで体を拭ってもタイルが赤く染まるようなことはありませんでした。
ところでこのお風呂の源泉投入法に伝統を背負う当地らしい美意識と品の良さを感じたのは私だけでしょうか。温泉界ではこれみよがしに滝の如く大量のお湯を落とす湯口がもてはやされますが、たとえばスーツは表地をシックにして裏地に拘ることこそ本物のオシャレであるように、こうしてしっかりお湯が注がれていることを匂わせつつもその様子を隠すことこそ、真の上品ではないか…と改めて認識した次第です。
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女湯には誰もいなかったので、見学のみさせていただくことに。男湯とはシンメトリになっているんですね。
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お風呂から上がって玄関のほうへ戻ると、帳場のコルクボードに張られた紙には「金太夫の足湯も利用可能」とのこと。
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ご主人に挨拶してから退館し、ちょっとだけお隣の旅館「金太夫」裏手に設けられている足湯にも寄ってみました。温泉街散策の途中に利用している観光客も多いようでした。足湯という設備は温泉街には欠かせない存在になりましたね。
総合湯
カルシウム・ナトリウム-硫酸塩・炭酸水素塩・塩化物温泉 42.0℃ pH6.3 蒸発残留物1.05g/kg 成分総計1.39g/kg
Na+:115mg, Ca++:138mg, Fe++:7.34mg,
Cl-:127mg, SO4--:313mg, HCO3-:278mg,
H2SiO3:181mg, CO2:174mg,
JR渋川駅より関越交通バスで伊香保温泉バスターミナル下車、徒歩3分(約300m)
群馬県渋川市伊香保町伊香保49 地図
0279-72-2378
日帰り入浴時間不明
300円
ドライヤー・シャンプー類あり
私の好み:★★★
皆様御存知のように、伊香保温泉の主役である黄金の湯は泉源から石段の下を流れ、小間口によって分配されて各旅館へと供給されているわけですが(詳しくは伊香保温泉小間口権者組合のサイトをご参照あれ)、最下流の末端まで延長は2.1kmにも及んでいるため、炭酸ガスと鉄分を多く含む黄金の湯はその流下過程で炭酸が抜ける一方で鉄は酸化し、石段の上と下とでは同じお湯でも様相に相当の違いが見られるので、湯めぐりしながらその相違を実感するのも一興です。高崎や前橋などの平野部に上州名物「からっ風」が吹いていた冬の某日、私は当地にて石段の下から上へ向かって温泉のハシゴを楽しんでみました。ただ、伊香保のお湯は泉源の時点で45℃に満たず、流下に連れて徐々に温度が低下してしまって、石段の下方の施設では加温しないと入浴に適さないため(そして伊香保のような泉質は加温しちゃうと変質してしまうため)、今回は加温せずに入浴ができる石段中程から上の施設を選ばせていただきました。まずはじめは石段から狭い路地へ入ったところ、「金太夫」の手前に位置している「吉田屋旅館」です。
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軽量鉄骨の古びた建物で湯治宿風情たっぷりのお宿。玄関などには「日帰り入浴」に関する案内は掲示されておらず、ぱっと見は館内が薄暗かったので営業していないのかと不安になりましたが、玄関にて声を掛けましたらご主人が現れて快く入浴をOKして下さり、「冬の伊香保の湯はぬるいので、ゆっくりと入ってくださいね」と案内してくれました。
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浴室入口脇にある洗面台は昔ながらのタイル貼りで、角のRがとってもレトロです。
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浴室入口は男女共通で、男湯の脱衣所の奥に女湯があるため、女湯にはまず男湯の脱衣室を通り過ぎないと行けません。この手の構造は伊香保温泉の古い中小規模旅館でしばしば見られますね。
脱衣室は棚がくくりつけられているだけの至ってシンプルな造りです。
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浴室もかなり質素で、モルタル造で2人サイズの浴槽があるばかり。床にはスノコが敷かれています。洗い場には水道の蛇口が一つあるだけで、シャワーなんて現代的な設備は無し。余計なものは排除されたこのお風呂では、邪念を払ってお湯にひたすら対峙することが最大にして唯一の目的なのであります。
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女湯との仕切りは曇りガラスですが、その上から全く透過性のないプラ板で目隠しされています。
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モスグリーンを帯びた山吹色に暗く濁る浴槽のお湯。長年使い込まれた浴槽の縁は入浴客が度重なり触れることによって研磨されて滑らかになっていますが、コーナー部分は温泉析出がこびりついて凸凹をなしており、そこに温泉成分のオレンジ色の澱が付着していました。お湯自体は30~40cm程の透明度があり、底には湯の華が沈殿していますが、お湯を撹拌してもそれほど濁り方が濃くなるようなことはありません。石段の真ん中あたりから分配されたお湯を受けて利用しているものと思われますが、加温しなくても浴用利用できるような段階であるためか、鮮度感は良好、炭酸もさほど抜けておらず、鉄分の酸化も軽度で済んでいるためか濁り方もそれほど濃くはありません。
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男女両浴槽の間に立つパイプシャフトのような縦に細長い空間には木の扉が取り付けられており、そこを開けてみると…
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滝のように勢い良く温泉が落とされていました。その下部は瘤が垂れ下がっている瘤取り爺さんのような、うろこ状の析出が層をなして付着しています。この造形を目にして私はかなり興奮し、指先で表面を何度も擦ってしまいました。お湯からはいかにも伊香保らしい金気・石膏・土気の味や匂いが放たれ、微塩味+弱炭酸味、湯口では何かが燻されたようなお焦げ系の香ばしい匂いもふんわり漂ってきました。
加温加水循環消毒は一切ない完全放流式の湯使い。非加温でぬるく40℃あるかないかの温度ですが、肩まで浸かってじっくり長湯すると、コートが不要なほど体の芯からしっかり温まりました。黄金の湯は何度入っても飽きませんね。ご主人のお話ですと、このぬるさに苦言を呈するお客さんもいるようですが、加温しないで入れる伊香保のお風呂は貴重なんですから、そんな文句は野暮ってもんです。きっと「風呂もお茶もチンチンに沸かした熱い方がいいに決まってる」なんて御託を並べて、ケトルのようなご自身の禿頭から湯気を濛々と上げて高血圧でフラフラしているに違いありません。
なお、こちらのお風呂では湯上りにタオルで体を拭ってもタイルが赤く染まるようなことはありませんでした。
ところでこのお風呂の源泉投入法に伝統を背負う当地らしい美意識と品の良さを感じたのは私だけでしょうか。温泉界ではこれみよがしに滝の如く大量のお湯を落とす湯口がもてはやされますが、たとえばスーツは表地をシックにして裏地に拘ることこそ本物のオシャレであるように、こうしてしっかりお湯が注がれていることを匂わせつつもその様子を隠すことこそ、真の上品ではないか…と改めて認識した次第です。
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女湯には誰もいなかったので、見学のみさせていただくことに。男湯とはシンメトリになっているんですね。
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お風呂から上がって玄関のほうへ戻ると、帳場のコルクボードに張られた紙には「金太夫の足湯も利用可能」とのこと。
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ご主人に挨拶してから退館し、ちょっとだけお隣の旅館「金太夫」裏手に設けられている足湯にも寄ってみました。温泉街散策の途中に利用している観光客も多いようでした。足湯という設備は温泉街には欠かせない存在になりましたね。
総合湯
カルシウム・ナトリウム-硫酸塩・炭酸水素塩・塩化物温泉 42.0℃ pH6.3 蒸発残留物1.05g/kg 成分総計1.39g/kg
Na+:115mg, Ca++:138mg, Fe++:7.34mg,
Cl-:127mg, SO4--:313mg, HCO3-:278mg,
H2SiO3:181mg, CO2:174mg,
JR渋川駅より関越交通バスで伊香保温泉バスターミナル下車、徒歩3分(約300m)
群馬県渋川市伊香保町伊香保49 地図
0279-72-2378
日帰り入浴時間不明
300円
ドライヤー・シャンプー類あり
私の好み:★★★