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東京の街中に強い北風が吹き付け続けていた冬の某日、無性に硫黄臭い白濁湯に浸かって全身硫黄にまみれたくなり、東武線に乗って日光湯元へ向かうことにしました。まずは北千住から特急スペーシアで下今市まで、そして普通列車に乗り換えて東武日光へ。
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東武日光駅からは路線バスで終点の湯元温泉へ。なおバスで湯元温泉へ行くのでしたら、東武で発売している「まるごと日光 東武フリーパス」がとても便利でして、東武線の乗車駅から湯元温泉まで電車とバスを単純往復するだけでも通常料金より安く上がります。
東照宮など麓ではほとんど見られなかった雪も、いろは坂や中禅寺湖などを過ぎてどんどんと上へ登ってゆくに連れて徐々に車窓が白くなってゆき、戦場ヶ原へ至るに及んでは真っ白になるどころか、強い吹雪で何も見えないような荒天になっちゃいました。晴れていれば右側の車窓にそびえているはずの男体山も完全に姿を消していました。
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久しぶりに温泉寺でひとっ風呂浴びようかと思っていたのですが、ここのお寺は冬季に閉鎖されることをすっかり忘れており、残念ながらその願いは叶わず…。仕方なく境内すぐ目の前にある湯ノ平湿原の湯元源泉を見学。ここには何度も来ていますが、小屋掛された源泉から白濁湯が湧き光景は何度見ても飽きませんね。
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吹雪の中で源泉見学していたらすっかり体が冷えきってしまったので、本来の目的である湯めぐりをスタートさせることにしました。今回最初に暖簾を潜ったのは、日光湯元では最も小規模と思われる「民宿若葉荘」です。大型旅館やペンションといった種類の施設が多い当エリアでは珍しい鄙び系の民宿であり、それゆえ温泉ファンからの支持を集めているお宿でもあります。
表の看板には「休憩・入浴」と記されているものの、ぱっと見の様子では営業しているか不安にさせる雰囲気。ダメ元で玄関に手をかけてみるとその引き戸はスルスルと開き、中からいかにも好々爺なおじいさんが現れて、訛った口調で「はいはい、お風呂ね。どうぞ。今日は風が強いねぇ」と話しながら、北関東や南東北の人によく見られる心の懐にスルリと入ってくるフレンドリーな接し方でお風呂へと案内してくださいました。
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こちらはロビーというべき空間。ソファーを覆っているタオル地のカバーが印象的で、お宿というより一般の家庭におじゃましたような感じです。杓文字片手に民家へ上がり込む桂米助の気持ちになりました。
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ウナギの寝床のような細長い建物の奥へと進み、洗濯機やトイレを通り過ぎた突き当たりに男女別の浴室があります。水関係の設備や部屋がひとまとめにされているレイアウトのようです。ご主人に「トイレの水はチョロチョロ出したままにしておいてね」と言われて気づいたのですが、北国では常識のこの凍結防止策が、自分の生活しているこの関東地方でも行われていることに意表を突かれ、関東って広くて風土に多様性があることを再認識させられました。
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浴室手前にはステンレスの共用流し台が据えられており、蛇口からは水道の水とともにボイラーの沸かし湯もチョロチョロを落とされ続けていました。その脇にはカゴに納められたドライヤーが1台置かれています。
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民宿だけあってお風呂はこぢんまりとした造りであり、棚に籠が並べられているだけの簡素な脱衣室は2人入ると身動き取れないような狭さで、浴室もタイル貼りの室内に3人サイズの四角い浴槽がひとつ据えられているだけの極めて実用的なものであります。洗い場には桶やシャンプーなどバスグッズがところ狭しと置かれていますが、シャワーはありません。
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浴室正面の大きなガラス窓の他、側壁には2つの換気窓が設けられており、天井付近の横に細長い窓にはガラスが嵌められていないため、冷たい外気が入ってきて半露天のような雰囲気が味わえる他、この湯気抜きからうまい具合に湯気が逃げていってくれるので、冬の内湯にありがちな視界不良をもたらす湯気の篭り方は低程度で済んでいました。一方、湯面近くのルーバーは言わずもがな硫化水素中毒を防止するためのものです。またそのルーバーの左に写っている短い青いホースの蛇口は加水用のものです。
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湯口から絶え間なくトポトポと音を立てながら熱いお湯が注がれていました。使用源泉は3・4・7号の3源泉混合。温度調整のため加水されていますが、れっきとした放流式の湯使いであり、浴槽縁の切掛けからオーバーフローしたお湯が排湯されてゆく床のまわりは硫黄で黄色く染まっていました。
日光湯元らしいラムネ臭や焦げたような硫化水素臭が鼻を突き、口にふくむと苦味+重曹味+硫酸塩的な味+硫黄味、それからワンテンポ遅れて渋みとえぐみが感じられ、唇や口腔内の粘膜にしばらく痺れが残りました。
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こちらのお湯は誰も入っていない状態ですとグリーンを帯びた綺麗な透明なんだそうですが、この時は私と入れ違いに退館していったお客さんがしっかり加水したためか、湯加減はベストだったのですが透明なお湯は見られず、翡翠色を帯びたクリーム色に強くはっきりと濁っていました。浴槽の底には細かな沈殿があり、とりわけ湯口の直下に多く、底に手をついたら掌が白くなりました。
浴槽が小さいためか、お湯の濃さも濁り方も強く、知覚面も周辺の他施設よりもはっきりしているように思われます。濃い白濁の硫黄泉ですが酸性ではないため体への刺激が少なく(pH6.5)、また重曹も含まれているためか、シルキーで滑らかな肌触りが非常に良い心地です。それでいてパワフルな温まりと皮膚にしっとり染みこんでゆくような浴感が得られるんですから、さすが日光湯元のお湯は千両役者と言っても過言ではないですね。
周囲の立派な施設に埋没して目立ちにくいお宿ですが、この良質なお湯を愛するファンが多いらしく。この時も先客2人、後客2人が私と入れ替わる形で湯浴みしていました。
奥日光開発(株)3・4・7号森林管理署源泉混合泉
含硫黄-カルシウム・ナトリウム-硫酸塩・炭酸水素塩温泉 74.1℃ pH6.5 溶存物質1.284g/kg 成分総計1.440g/kg
Na+:126.1mg, Ca++:191.5mg,
Cl-:77.8mg, HS-:10.9mg, SO4--:496.2mg, HCO3-:236.4mg, S2O3--:0.6mg,
H2SiO3:96.0mg, CO2:119.8mg, H2S:37.2mg,
源泉温度が高いため加水
日光駅(東武・JR)から東武バス日光の湯元温泉行で終点下車、徒歩2分程度
栃木県日光市湯元2538 地図
0288-62-2523
立ち寄り入浴時間不明
500円
ドライヤーあり
私の好み:★★★