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最近私は月に1~2回ほど所用で仙台へ出かけることがあるのですが、「用件が長引いたから帰社が遅くなる」と見え透いた嘘をついて時間を拵え、福島駅で新幹線を途中下車して飯坂温泉でひとっ風呂浴びることがしばしばです。得意先での年始挨拶を済ませた2013年1月某日、当地のランドマーク「鯖湖湯」に隣接している「ほりえや旅館」にて立ち寄り入浴をお願いしてきました。唐破風の玄関と湯治宿のような古風な趣きは、温泉街らしい伝統的なランドスケープを形作っています。なお画像に写っている白い斑点はその時に降っていた雪です。
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引き戸を開けると三和土には小さくてカラフルな靴が並んでおり、中から幼い兄弟が楽しそうにはしゃぐ声が聞こえてきます。日帰り入浴を乞うとその子たちのお母さんと思しき女将が対応してくださいました。子どもたちが産まれる遥か昔に活躍していた帳場の古い電話機が目を惹きます。
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昔ながらの木造旅館らしい外観とは対照的に、館内は同じく木造ながらも最近リフォームされたと想像され、家庭的なぬくもりと明るさ、そして清潔感が漲っていました。今回は2室ある貸切風呂のうち手前側(帳場側)のお風呂を独占利用させていただきました。
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総木造で白木ならではの明るさが眩しい更衣室。洗面台も小洒落ていますし、鍵付きの棚も赤ちゃん用の籠も洋風でいかにも今風です。こんな綺麗なお風呂をオッサンが一人で貸しきってしまって良いのかな。ついでに申し上げれば、建付けが良いので浴室の引き戸の実にスムーズに開きます。同じ建物でも外と中では時間軸が真逆に回転しているようでした。
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曇って見難い画像でごめんなさい。ブルー基調のタイルが貼られた室内には3~4人サイズの三角形(厳密には五角形)の浴槽が据えられ、睨めっこするサワガニ2匹とそいつらを腹におさめようと虎視眈々と様子をうかがっているカエル1匹がそれぞれ対峙している石の湯口から、鯖湖湯と同じ湯沢分湯槽のお湯が注がれています。
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浴槽には括り付けのステップこそ無いものの、その代わりに大きな踏み石が置かれていたり、また真ん中には座湯に丁度良い腰掛け用の石も沈められていたりと、ややもすれば単調になりがちなタイル張りのお風呂に、実用性と視覚的アクセントを兼ね備えた石材を用いている点が好印象でした。この他、手摺りに木材を使っていたり、後述する上がり湯も特徴的だったりと、一見するとどこにでもありそうなタイル張りの内湯が、ちょっとした工夫によって使い勝手が向上するとともに全体的な趣きが大きく変わることにとても感心させられました。
♪内湯ちゃんも、ちょっと工夫で、このうまさ(神田川俊郎風)
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浴槽のお湯は浴槽縁の上から溢れて床へ流れ出ている他、床にあけられた穴からもパスカル原理によって排湯されています。加温循環消毒のない放流式の湯使いです。
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浴室内のカランは水道の蛇口が2つあるのみで、そのうちの一つはホースが接続されており湯船の加水用途なっていました。従いまして、体を洗ったりシャンプー擦る場合はこの上がり湯を使うわけですね。私個人としては、使い勝手の良いシャワーよりもこうした温泉の上がり湯の方がはるかに好みに合います。用意されているハート型の手桶が可愛らしいですね。
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手桶のみならず、アヒルやキティちゃんのマット、小さなスツールなど、室内にはかわいらしいお風呂道具がたくさん置かれていました。ここでは子供が主人公なのですね。その微笑ましいグッズ類に、思わず目尻が下がってしまいました。
さて肝心のお湯に関してですが、上述のように鯖湖湯と同じ湯沢分湯槽のお湯を引いており、トロミのある無色澄明の清らかなもので、サラスベの中にキシキシが混ざる浴感が肌に伝わってきます。室内には湯気と一緒にパラフィンワックスに似たような温泉由来の匂いが篭っており、口にするとほんのりと芒硝味が感じられます。投入量をやや絞っているためか、湯船は共同浴場のように熱くなく、どなたでも入れる適温に調整されていました。適温にもかかわらず強力な温浴パワーを持っているのが飯坂のお湯の凄いところで、湯上りはしばらくガウンが着られないほど体が火照り、まるで体の芯に熱源を埋め込まれたかのようにいつまでもポカポカが持続。綺麗且つぬくもりのある浴室で飯坂らしい良質なお湯が楽しめる素晴らしいお風呂でした。次回は宿泊で利用したいものです。
湯沢分湯槽
単純温泉 51℃ pH8.48
福島交通飯坂温泉駅より徒歩4~5分(約350m)
福島県福島市飯坂町字湯沢21 地図
024-542-2702
ホームページ
日帰り入浴10:00~21:00
400円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★★