前回に引き続いて房総の鉱泉をめぐります。今回は鴨川市の長閑な山間に佇む一軒宿の「曽呂温泉」です。千葉県の観光紹介サイトによれば、県内で営業する温泉の中では最も歴史が古いんだそうでして、お湯自体も鉱泉ファンから評価が高く、以前から是非訪れてみたかった鉱泉でした。旅館ですから当然宿泊もできますが、今回は日帰り入浴で利用させていただきました。路傍に立つ「源泉かけ流し」と小さく書かれた看板に従って、県道89号線から谷戸の田んぼへ伸びる細いあぜ道を入ります。
県道から旅館まではわずか数百メートル程度なのですが、この道が車一台やっと通れるほど狭隘でして、脱輪しないよう気をつけながら奥へと進むと、やがて旅館の建物の手前に日帰り客用の駐車場が現れました。ここに車をとめます。
里山の樹林に囲まれた渋い一軒宿。正面玄関ではワンちゃんが3匹ほど待機して、来客を迎えていました。旅館というより農家の民宿みたいな雰囲気。
日帰り入浴の客は正面玄関ではなく、勝手口みたいな専用の出入口から入ります。でっかく「日帰りの方はこちらから」と書いてあるものの、初めてこの入口の扉を見たとき、不安に陥る人は普通の感覚を持った一般人、ワクワクする人はおかしなマニア、と判別することができるでしょうね。もちろん私は後者なのですが…。
その勝手口から館内へ入ると、すぐ右手に座敷が広がり、その奥に浴室へと続く廊下が伸びているのですが、座敷では風呂あがりのおばちゃん達が寝転んでいるものの、近くには宿の方と思しき人影が見当たりません。どこで料金を支払ったら良いものかわからず、館内をウロウロしていたら、正面玄関前の帳場に行き当たり、帳場の奥の台所にいらっしゃった方に声を掛けてようやく支払いを済ませることができました。
廊下にはやけに警察関係のポスターが目立っているのですが、この旅館と警察は何か密接な関係でもあるのでしょうか。また廊下に面する小さな部屋には、いまや「しまむら」でも売ってなさそうなセンスのシャツや衣類がハンガーに吊ってあったのですが、私物かと思いきや、何とそれぞれは値札が付いていました。売り物だったのか…。
廊下にポツンと置かれた冷蔵庫の上には「アイス \120 ご自由にどうぞ」とあり、その傍に料金を納める缶が置かれていました。殺伐とした東京から至近に位置しているとは思えない、客を信用した長閑な光景に思わず頬がゆるみます。
浴室入口の手前には古典的な温泉旅館には欠かせない卓球台が。
招き猫の暖簾をくぐって手前側が男湯、奥が女湯です。お風呂はこの扉や廊下を介して本棟と続いていますが、外から見ればれっきとした湯屋が別棟であることがわかります。扉の下には「源泉かけ流し」と書かれたプレートが立て掛けられていましたが、果たしてその真相はいかに!
脱衣室は3人が同時に着替えたら窮屈になりそうなほど狭い室内に、ただ棚と扇風機が括りつけられているばかりで、その他には何も無く至って質素です。建物は相当古いらしく、浴室の扉はかしいでいて、戸と柱の間には隙間を埋める長細い三角の木材が挟み込まれていました。室内に貼り出されている紙によれば「浴槽上がり湯シャワー全て源泉水のみを使用しています」とのこと。
かなり年季の入ったタイル貼りの浴室には4~5人サイズの浴槽がひとつあるばかり。一見すると飾り気が無い単調なお風呂に見えますが、女湯との仕切り塀の上部にはガラスブロックが用いられており、さりげなくオシャレが施されているのでした。
室内には計3基のシャワー付き混合水栓が設けられており、カランからは熱・冷ともに茶色い源泉が出てきます。源泉温度が14.5℃ですから冷たい方は源泉そのまんまである一方、お湯の方は加温された源泉です。湧出量が多くないのにカランにまで源泉が用いられているのは素晴らしいですね。タンクにストックしている鉱泉が吐水されるのでしょうから、カランを使用する際にはコックをこまめに締めましょう。
タイル貼りの湯船にはチョコレート色に濃く濁る加温済の鉱泉が張られています。茶色のお湯と言えばモール泉を連想しますが、モール泉とは全く異なる色合いであり、上述のようにチョコレートあるいはココアを溶かしているかのようです。窓から外光が湯船に直射すればかろうじて浴槽の底が見えますが、そうでないところは濁りが濃くて底は全く見えません。浴槽側面にはお湯の投入口があって、偶に泡を上げながらお湯を供給しており、また浴槽の底には足裏を強く吸い込む穴もありましたので、おそらく加温のために槽内循環が行われてるものと思われますが、それ以外にも後述する竹樋の湯口から適宜加温されたお湯が投入されており、湯船を満たしたお湯はその後、窓側の溝へと溢れ出ていました。
なお、お湯の中では綿埃のような形状をした茶色の湯花が浮遊しており、同様の沈殿も多いのか、湯船に足を突っ込むとそれらが一気に舞い上がりました。湯花には大小様々大きさがあり、たまにとてつもなく大きな塊も浮遊していました。
浴槽のコックで客が適宜湯加減を調整することもできるようです。そのコックの左には竹を半分に割った短い樋が立てかけられており、アツアツに加温された源泉がチョロチョロと落とされていました。「湯」のコックを開けてもとくに変化はみられませんでしたが、「水」の方は壁からクネクネと折れ曲がった配管の先にコックがあり、それを開くと非加温の生源泉が勢い良く吐出されましたので、湯船の生源泉比率を高めたかった私は、「水」の方の蛇口をしっかり開けて源泉をドバドバ投入させていただきました。
この鉱泉は指先でちょっと触れただけでもわかる強いヌル&ツルスベ浴感を有し、入浴中はまるでローションの中に浸かっているかのような心地です。また、水栓から出たばかりの鉱泉を口にすると、明瞭ですが甘い感じのマイルドな塩味、そして他の温泉(鉱泉)が有する硫黄臭とは別物の、茹で過ぎて硬くなって黄身が青くなってしまった茹でタマゴの卵黄みたいな匂いおよび味が感じられ、その他、清涼感のあるほろ苦みやヨード臭も確認できました。
卵黄のような硫黄由来の知覚とヌルスベ浴感が非常に強く、入浴中は何度も匂いを嗅ぎ、そして肌を擦り、浴感の心地よさゆえに湯船から出ようにも出られなくなってしまいました。湯上り後も肘の内側や鼠径部などに鉱泉由来のヌルヌル感が残っていたことには驚きです。
この内湯のために1000円を支払うことには躊躇いを覚える方もいらっしゃるかと思いますが、個性的で主張の強い鉱泉であることには間違いありませんので、お湯の個性重視で湯めぐりなさる方には是非おすすめです。
含硫黄-ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物冷鉱泉 14.5℃ pH8.7 2.6L/min(動力揚水) 溶存物質2.18g/kg 成分総計2.22g/kg
Na+:655.8mg(98.68mval%),
Cl-:352.4mg(35.67mval%), Br-:2.1mg, I-:0.8mg, HS-:7.5mg, S2O3--:0.4mg, HCO3-:1029mg(60.54mval%), CO3--:13.3mg,
H2SiO3:81.9mg, HBO2:12.7mg, 腐植質1.5mg, CO2:37.1mg, H2S:0.2mg,
加温あり
外房線・安房鴨川駅の西口より鴨川市コミュニティバス(鴨川日東バスが運行)の南ルートで「温泉入口」バス停下車、徒歩10分(550m)
千葉県鴨川市仲町90 地図
04-7092-9817
9:00~17:30
1000円
シャンプー類あり、他備品類見当たらず
私の好み:★★+0.5