福島の土湯峠一帯は、言わずもがな魅力的な温泉の宝庫であります。鷲倉温泉と野地温泉の間から分岐する砂利道を谷へ向かって下っていった先に佇む一軒宿、赤湯温泉「好山荘」で日帰り入浴してまいりました。私がこちらを訪れるのは10年ぶり。
土湯峠に点在する温泉宿は立派な旅館が多いのですが、こちらだけは時間の流れ方が緩やかなのか、朱色のトタン屋根と平屋の棟がどことなく北海道の鄙びた温泉宿のような雰囲気を放っており、昔懐かしい湯治宿的な風情を漂わせています。平屋の窓枠には雪囲いの板をはめるための金具が取り付けられていました。雪深くなる冬季は休業するんですね。
玄関には信楽焼のたぬきが置かれ、その奥の勝手口では首にバンダナを巻いたワンコのコジロウ君が来客の様子をじっと見つめていました。
こちらのお宿では2種類のお湯が楽しめます。ひとつは内湯に引かれている赤湯で、もう一つは離れの露天風呂で使われている白湯です。500円の日帰り入浴でも両方のお湯に入ることが出来ますので、せっかくですから縁起を担いで紅白両方に浸かり、普段からおめでたい頭の私が益々おめでたくなってみようと企んでみました。まずは赤湯が引かれている内湯からお邪魔することに。玄関を上がって左奥の暖簾をくぐり、階段を下りて浴室へと向かいます。
トタンで囲ったお風呂はとても質素で、あたかも山小屋のようです。赤湯という名前の通りに赤いお湯が張られた内湯の湯船は、一見すると4人は入れそうな大きさなのですが、左側はかなり浅くなっているので実質的には3人サイズといったところ。湯船のみならず洗い場など温泉が掛かるところは温泉成分の付着により朱色に染まっていますね。
湯口のパイプには水道ホースが挿し込まれており、「水は止ないで下さい」という注意が札に書かれています。この加水の勢いも借りているのか、湯船に対する供給量が多く、浴槽縁の切り欠けからはふんだんに排湯されており、人が湯船に入るとザバーっと勢い良く溢れ出ていきます。お湯は緑色を帯びた赤茶色に強く濁っており、透明度は20センチ程度でしょうか。その濁りの濃さゆえ、湯船に浸かっている時に、底に手をつくと、掌がオレンジ色に染まってしまうほどです。また湯面には白くて薄い膜(カルシウムかな?)もたくさん浮いています。まるで粘土や泥を溶かしたような感触を有するこのお湯に浸かると、強くギシギシと引っかかる浴感が肌に伝わり、金気味(赤錆系と非鉄系の2種類が混在)、石膏味、正苦味泉のようなほろ苦味、そして金気臭と土気臭が感じられました。泉質名こそ単純温泉ですが、とても単純とは思えない実に個性的な知覚的特徴を有しています。
この内湯にはささやかながら露天も付帯しておりますので、ちょっと覗いてみましょう。ノブが壊れているのか、扉はベルトでとめておくんですね。扉から出るとすぐに露天風呂が姿を現しました。石の積み方やステップの築き方など、とっても手作り感が溢れています。
赤湯の露天風呂は5人サイズの岩風呂で、周囲の緑がとっても美しく、たまに吹くそよ風も爽快です。
ただ、周囲のバックヤード然とした雰囲気や、主浴槽と並んでいる空っぽの小浴槽でオタマジャクシが泳いでいるような状況、そして肝心の湯船に投入されているお湯は内湯の余り湯、などなど、ワイルドな露天に慣れていない方にはちょっとハードルが高い環境かもしれません。
続いて、一旦着替えて玄関を出て、駐車場を横切り、白湯が湛えられている離れの露天風呂へと向かいましょう。ちゃんと男女に分かれていますから、どなたも安心して入浴できますね。
後背に原生林が繁る環境や、純朴さが伝わる手書きの看板、そして横倒しにしたタンクに扉を付けた更衣室など、そのワイルドな趣きは、やっぱり福島県というより北海道っぽい感じがします。タンクは2つが背中合わせに置かれており、青いペンキが塗られた方が男湯です。タンクの内部には裸電球がぶら下がっており、籠がいくつか用意されていました。
野趣あふれる露天風呂。ブナの原生林を吹き抜けてくるよそ風が頬を撫ででゆきます。そして鳥のさえずりや虫のすだきがあちこちから聞こえてきます。浴槽の上には透明アクリル波板で屋根がけされているので、多少の雨でしたらこの屋根で凌げるでしょう。
パイプからトポトポとお湯が浴槽へ注がれており、パイプ下の切り欠けより排湯されています。そのパイプから吐出されるお湯の勢いは強くなったり弱くなったりを繰り返していました。浴槽のお湯はチャコールグレーのような暗い灰白色に濁っており、湯中では白く細かな湯華が無数に舞っています(コロイド濁り)。箱根強羅辺りの造成泉に近いような弱い酸味と、軟式テニスボール的硫黄感(味と匂い)、そして酸っぱそうな匂いが感じられ、お湯の持つトロミとともに、少々引っかかるような浴感が得られました。とにかく、清々しい空気と環境の中で湯浴みできるこの露天は実に爽快であります。
今回女湯であったため入れなかったもうひとつの内湯(赤湯)は、震災の際に従前の浴槽にヒビが発生してしまったため、震災後に改修されており、上述の内湯よりもはるかに大きくて開放的な造りとなっております。また宿泊棟の屋上には宿泊客専用の露天風呂も設けられており、そこでは白湯のお湯を楽しむこともできます。
今回紹介できなかった部分を含め、次回は宿泊利用で全てのお風呂を制覇してみたいものです。
【赤湯(内湯)】赤湯の三番の湯
単純温泉 66.0℃ pH6.3 60L/min(自然湧出) 溶存物質897.5mg/kg 成分総計1055mg/kg
Na+:36.8mg(16.97mval%), NH4+:13.4mg(7.87mval%), Mg++:26.5mg(23.11mval%), Ca++:84.1mg(44.48mval%), Fe++:7.5mg,
SO4--:405.9mg(85.52mval%), HCO3-:85.1mg(14.11mval%),
H2SiO3:219.6mg, CO2:157.3mg,
源泉温度が高いため加水
【露天風呂】赤湯温泉白湯
単純硫黄温泉(硫化水素型) 49.1℃ pH3.9(※) 17L/min(自然湧出) 溶存物質167.6mg/kg 成分総計223.4mg/kg
(※)湧出地におけるpHのデータが無いため試験室におけるpH値を掲載
Na+:7.5mg(17.16mval%), Ca++:15.8mg(41.08mval%), Al+++:4.0mg(22.88val%),
SO4--:96.0mg(96.6mval%),
H2SiO3:34.2mg, CO2:46.0mg, H2S:9.8mg,
福島県福島市土湯温泉町字鷲倉1 地図
0242-64-3217
日帰り入浴10:00~15:00 4月中旬~11月下旬営業(冬季休業)
500円
備品類なし
私の好み:★★★