温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

心身鍛錬の夏登山 檜洞丸・犬越路(西丹沢) 前編

2013年09月13日 | 神奈川県
「お腹が太鼓みたいだね」
夏休み真っ最中の甥っ子に言われたその一言が私の背中を押した。この太鼓腹を削らなければ、みっともない。有酸素運動をしなければ!

拙ブログでは何度か登山記を記事にしているが、いずれも「素人の私が登ってとっても良かったから、是非みなさんも行ってみてね!」という意味合いを込めてきた。しかしながら今回取り上げる登山記は従前と趣向を異にしており、山を登る楽しみではなくて、太鼓腹を解消すべくマゾヒスティックに自分のたるみきった心身を鍛えることが目的であり、読者の方にとってあまり有益な情報は少ないかもしれない。

今回取り上げるコースは、西丹沢自然公園を起点にして、神奈川県で4番めに高い山である西丹沢の檜洞丸(ひのきぼらまる)を登り、そこから北へ伸びる稜線を歩いた犬越路を辿って起点に戻ってくるという周回コースであり、初夏のツツジが咲き誇る時期や紅葉の秋には非常に美しく、駐車場の確保に困るほど多くのハイカーで賑わうのだが、夏の丹沢は蒸し暑くて体力的にかなり辛く、ガスがかかりやすくて眺望を楽しむチャンスも減ってしまうことは関東のハイカーなら皆さんご存知であり、そんな中であえて登るのは、丹沢をこよなく愛する丹沢ファンか、ハードなコンディションを求める好事家か、無知な人か、のいずれかだろうと思われる。私は3番目の無知な輩に該当するであろう。「所詮丹沢なんて大したことないだろう」「登山素人の私が普段の不摂生を矯正するには、手ごろな丹沢でちょっと負荷をかけながら登るのが、自分のレベルにちょうど合うのではないか」。そう高をくくっていた自分に猛省しながら、今この記事をしたためている。大して危険ではなかったが、とにかくバテた。その一言に尽きる。




ルートや勾配に関しては上地図をクリックしてルートラボを御覧ください。

日程:2013年8月下旬某日
人数:単独行
天候:晴れ時々曇り
持ち物:日帰り登山の一般的な持ち物+トレーニングのための死重(4Lの水)
距離12.3km
最大高低差:約1060m

・敢えて重くした荷物
今回の登山の目的はあくまで心身のトレーニングであるから、日帰り登山にもかかわらず、山小屋を連泊する際に使うようなバックパックを背負い、その中に使いもしない登山グッズ諸々、下山後の着替えと靴、そして死重となる水4リットルを詰め込んだ。不吉な話だが、多少遭難したって問題ないような品揃えであった。

・時間的な制約
今回は車ではなく、電車とバスで現地までアクセスした。ということは、下山後のバスの時刻が気になるところである。2013年の夏休み期間中は、起終点となる西丹沢自然教室発で15:40、16:25、17:05と、山奥にしては比較的コンスタントに便があるのだが、今回は是非15:40に西丹沢自然教室前を発車するバスに乗りたい。これに乗れたら、途中の中川温泉でゆっくり汗を流すことでき、その後のバス(中川17:18発)でJR松田駅まで行けば、待ち時間10分ほどで松田18:23発の「特急あさぎり6号」新宿行に乗車できる。15:40の次のバスは16:25か17:05となり、これでも問題なく帰れるのだが、中川温泉「ぶなの湯」は受付が17時まで、他の旅館も日帰り入浴受付の終了時間が早いため、中川温泉での入浴は諦めなくてはならない。小田急沿線に住んで30年以上の私は、夕方の小田急がいかに混むか重々承知している。山の泥と汗で汚れたおっさんがそのまま公共交通機関に乗ったら、それこそ迷惑千万であるから、できれば汗を流して着替えてから帰りたい。だから15:40までにはバス停に着いておきたいのである。



【7:10頃 渋沢駅】
小田急線の急行で早朝の渋沢駅に到着。普段は同じく小田急の上りで通勤しているのに、いつもと同じような朝に反対方向の下り列車に乗ることに対し、ちょっとした違和感をおぼえる。渋沢駅前のバスのりば(1番のりば)より7:15発に出発する西丹沢行の富士急湘南バスに乗車。登山シーズンには超満員になるこのバスも、オフシーズンの平日とあって、登山者らしき人は私以外に2組(計6人)のみ。夏がオフシーズンというのは丹沢ならでは。


 
【8:25頃/8:38出発 西丹沢自然教室(標高540m)】
バスが終点の西丹沢自然教室前にとまると、自然公園のスタッフさんがバスから降りる客に挨拶しながら、登山届を提出するよう声をかけていた。自然公園の建物内に用紙と記入台があるので、そこで書いても良いが、私は事前に神奈川県警のホームページからダウンロードして記入しておいたので、それを提出した。ここでトイレを済ませて登山の準備を整える。丹沢といえばヒル被害で悪名高いところ。足元にヤマビル忌避剤を念入りに噴射していたら、スタッフさんが「東(丹沢)と違って、西には(ヤマビルは)いませんから、大丈夫ですよ」と教えてくれた。8:38に歩き始める。


 
【8:43 ツツジ新道入口】
しばらく舗装された車道を歩くと5分ほどで、檜洞丸へ向かう登山道のひとつであり、最もメジャーであるツツジ新道の入口が現れた。本当にメジャーなのか疑わしくなるほど目立たぬ姿だ。


 
入口からすぐの区間は「ここマジで登山道?」と首を傾げたくなるような、細い沢が流れる薄暗い谷に突っ込んでいくような心細い雰囲気なのだが、やがてジグザグな坂道が現れ、それで一気に登って高さを稼ぎ、ある程度まで登ったらそれ以降は等高線上をトラバースする感じで、ブナ林の中を進んでゆく。途中に倒木があるけれど、大して危険な箇所は無く、ウォーミングアップにはもってこい。


 
斜面を横切る箇所には桟橋が架けられている。こんな感じの区間が所々にあるけれども、総じて歩きやすい。ブナの葉を透けて届く柔らかな陽光が美しく、この日は朝っぱらから暑かったが視覚的には爽快であった。


 
【9:19 ゴーラ沢出合】
9:12頃から東沢のせせらぎが聞こえる方へと下り始め、沢筋の右岸を歩いてゆくうち、西丹沢では有名な渡渉ポイントであるゴーラ沢出合に着いた。ここでは渡渉しつつ、右斜め前方にある階段の取り付きを見つけなくてはならないため、どのように渡渉して進んでゆけば良いのか、初見の人でも迷わないで済むよう、わざわざご丁寧に説明図が掲示されていた。


 
いつもなら水量豊かで、慎重に飛ぶ石を選ばないと靴を水没させかねないこの東沢だが、今夏の少雨の影響により水量が非常に少なく、靴の心配をするまでもなく余裕で渡渉できた。屁の河童だ。でもあまりの水かさの少なさに、本物のカッパがいたならば、きっと青色吐息であろう。


 
上述の案内図のお陰で迷うこと無くコンクリの階段に辿りつけた。ここまでは最初の登りを除いてほとんどフラットだったために楽であったが、ここから檜洞丸の頂上まで高度差800m以上をひたすら登る道が続く。階段前の立て看板には「急な登りが続く経験者向けの登山道です。遭難事故も多発しています。自信のない方はここで引き返しましょう」という脅し文句が躍っていた。


 
尾根の上を伸びる坂道をひたすら登る。所々に鎖場もあるが、悪天候時以外は不要だろう。特別に急登というわけでもなく、危険な箇所も少ないが、周囲の林に視界を阻まれるために眺望は無く、ひと息つけるようなフラットな場所も無く、しかも猛暑が体力を奪ってゆくので、心身ともに早くも疲労し始める。


 
【9:30 木陰の中の腰掛】
途中で画像左(上)のような休憩ポイントを通過。休憩しすぎるとペースが乱れるし、アブがしつこくつきまとってくるので、ここでは足を止めずあっさり通過した。たまに尾根が細くなる場所があるのだが、崩壊してしまったのか、砂利でしっかりと補修がなされていた。



ゴーラ沢出合から登り始めて40分のところで、ツツジ新道のゴーラ出合~檜洞丸間で唯一の短い下りが現れ…



【10:00 小さな鞍部】
無名の小さな鞍部を越す。画像には写っている道標によれば、展望台まで0.2km、檜洞丸まで2.0kmとのこと。道標の傍らには「祈 安全登山」と記された松田警察署長名の白い杭が立てられていたのだが、どこかでこの杭を見たことあるぞ、と記憶を整理していたら、松田警察署のホームページ(西丹沢登山情報)で写っている男性が背負っている杭と同じ物であった。



さすがにメジャーな登山道だけあって、随所に道標が立っていて安心だ。小さな鞍部から200m先に立っていたこの道標によれば、スタートから3.5km歩いてきたことになる。約1時間半で3.5kmか。可も無く不可も無くといったペースだ。檜洞丸の頂上までは1.8kmだから、今のペースを維持すれば、あと45分ほどで頂上までたどり着けるだろう。この段階ではそう見当を立てていた。


 
【10:10~15 展望台】
しかしである。小さな鞍部からここまで、道標に記されていた数値を信じるならばわずか200mしかないはずなのに、そんな僅かな距離に10分も費やしてしまっている。これでは1時間歩いて1.2kmしか進めないではないか。明らかにここへきてペースが落ちているのだ。さほど標高が高くないため、気温は下界と大差なく、無駄に重い荷物を背負っているので、暑くてたまらないのである。普段から登山をしている方なら朝飯前だろうけど、気が向いた時にしか登らない不精者且つ文化会系の私は、平素の運動不足が祟って、既に全身汗でグッショリ。この展望台のベンチに腰掛けて、水分を補給しながら、今行程で初めての休憩(5分間)をとる。
空気が乾いていればこの展望台からは富士山などがきれいに眺望できるらしいのだが、この日は晴れていたものの湿度がかなり高かったために視界が優れず、展望できたのはご近所の畦ヶ丸やその周辺程度であった。


 
5分の小休止を済ませて展望台から再び歩き始める。しばらくすると滑落事故発生区間という警告がなされた区間を通過した。確かに左斜面へ向かって滑落しやすい場所かもしれないが、気を付ければ問題ないだろう。しかしながら、何でもないところほど事故が起こりやすいのが登山の常である。


 
頂上へ近づくに連れて小刻みに階段が連続しはじめる。


 

【11:10~15 檜洞丸まで0.8km地点】
西丹沢自然公園から4.5km、檜洞丸まで0.8kmの地点は、先程の展望台より遥かに見晴らしが良く、しかもベンチも設置されていたため、ここでも休憩をとった。さすがにここまで登ってくると、吹く風も下界とは違って涼しくなり、トンボも飛び交っていて、秋の気配を感じさせてくれた。しかし、展望台からここまで約1.0kmに1時間弱もかかっている。ペースが遅すぎる。時速1kmって赤ちゃんのハイハイ歩きと同じじゃねぇか。あぁ情けねぇ。トレーニングのために背負っている死重の水4Lがかなりの負担になっており、いきがってそんなものを背負ってきたことを強く後悔し、白旗を上げてもう戻っちゃおうかな、という弱気ももたげはじめた。


 
頂上までの0.8kmが異様に長く感じられる。本当に0.8kmなのかね。間違っていないかね。そう泣き言をこぼしたくなる。しかも階段が連続するため、ステップを上がる度にボディーブローのようにダメージが効いてくる。たまに右側の視界が開けて遠くまで見晴らせる展望が、今行程の数少ないご褒美だ。



【11:30 石棚山方面分岐】
この三叉路を石棚山方面へ向かえば、頂上を踏まずとも西丹沢方面へ戻れるが、せっかくだから頂上へ向かおう。


 
三叉路以降は稜線上を辿るために上り勾配もかなり緩やかになり、まるで植物園のような原っぱの中、延々と木道が続く。路傍ではトリカブトが咲いていた。


 
シロヨメナの御花畑が広がる。でも所詮は野菊だもんな…。高山植物の花に出会えたような感動はあまり得られず、どちらかと言えば空き地の原っぱで雑草が花を咲かせているような印象である。


 
マルバダケブキの群生の中も通過したが、花はほぼ終盤であり、数株が辛うじて花を残していたものの、ほとんどは花を落として黒ずんでいた。たまに現れるマムシグサの赤い実が気味悪い。
この稜線上で綺麗だったのはせいぜいトリカブトぐらいで、他はあまりカメラを構えたくなるような花に出会うことはなかった。夏の花と秋の花のちょうど端境期的なタイミングだったわけだ。でもこれでいいのだ。今回は鍛錬で登山しているのだから、綺麗な花や美しい景色など、あまりご褒美的なものにありつけない方がストイックで今回の目的に合致しているのだ…。そんな負け惜しみを自分に言い聞かせる。



ソーラー発電設備の脇を通ったら、山頂はもうすぐだぜ。頑張れデブゴン。燃やせ体脂肪!


 
【11:48~12:05 檜洞丸・頂上(標高1601m)】
ツツジの花が咲く初夏には数多のハイカーで埋め尽くされるという檜洞丸の頂上であるが、クソ暑い真夏はオフシーズンであり、私が登頂したときには人っ子一人おらず、悲しいくらいに森閑としていた。そもそも西丹沢自然教室からツツジ新道を登ってここまで来る間、すれ違った人や追い越した(越された)人も皆無であった。そりゃそうだよ。なんでこんな暑い時に、全身汗だくになって、辛い思いしてわざわざ登らなきゃいけないのか。展望台あたりから急に落ちたペースは結局回復することがなく、スタートからここまで3時間10分もかかってしまった。標準タイム(3時間20分)とほぼ同等だが、常に標準タイムより早い時間で登っている私としては非常に悔しい。



気温は22.3℃。ベンチに腰を掛けて呼吸を整えれば、確かに涼しい。でも風があまり吹かず、その上湿度が高いので、思ったほどの清涼感は得られなかった。ちょうどお昼の時間なので、持参してきたコンビニのおにぎりを頬張る。

さてここから3時間30分で下山すれば、計画通りに15:40のバスに乗れるのだが、山頂から犬越路を経由して用木沢出合へ下るルートはツツジ新道より遠回りであるし、途中に鎖場など危ない箇所が連続するから、疲れたままのペースだと間に合わない可能性が高い。登りで3時間もかかっているのに、下りとはいえ、それより遠回り且つ危ないルートを3時間半で走破できるのか。
そして実際に、登りよりもここからの下山がヘビーだった…

後編につづく
コメント
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