前回に引き続き、老神温泉「湯めぐり手形」を利用した日帰り入浴を楽しみます。今回は前回取り上げた「上田屋旅館」に隣接している「楽善荘」です。老神に多い中小規模の古い旅館でして、玄関へのアプローチに沿って、懐かしい佇まいのお土産屋さんが昭和の観光地風情を強く漂わせていました。
玄関ではニポポ人形が出迎えてくれたのですが、ロビーを見回しても人影が無く、その代わり下足場には電話で呼び出してほしい旨が案内されていたので、その通りに電話を掛けますと、奥の方からとびっきり愛想の良いお姉さんが登場し、快く入浴を受け入れてくださいました。実はこの日、私はここへ来るまで3軒連続して入浴利用を断られ続けてきたので、お姉さんの明るい対応には心底から救われました。
余談ですがロビーには旧字体で記されたいかにも古そうな「煙草定価表」が掲示されているのですが、右から國華・不二・敷島といった銘柄が並んでいますので、これは戦前のもの(もしくはその複製)なのでしょうね。
玄関から階段を上がり、絵画などで飾り付けられた廊下を進んで浴室へ向かうのですが、お宿のお姉さんはこの浴室手前までわざわざ案内してくださいました。入浴のみの利用ですと邪険に扱われることも屡々ですが、明るく対応してくれた上に丁寧に浴室まで案内して下さるだなんて本当に嬉しく、私にはお姉さんが天使に見えました。
脱衣室はカーペット敷きの部分はスリッパ履きゾーン、茣蓙敷き部分が裸足ゾーンとなっています。造りこそ古いのですが清掃は行き届いており、洗面台にはアメニティが揃っていたり、室内の木棚に大きく使いやすい青い籠が収められていたりと、古さが気にならないような配慮がなされていました。
浴室へ入るドアには湯の華に関する説明が掲示されているのですが、その下に貼られた別の張り紙には「風呂の中にあるポンプは湯船の底からぬるい湯をぬいています」と記されています。んん? ポンプって何じゃ?
浴室には温泉由来の石膏臭が充満していました。タイル貼りの浴室の窓際には大きな浴槽が一つ据えられ、浴槽上の壁面には当地の名勝である吹割の滝が描かれたタイル絵が目立っています。床には大谷石が敷き詰められており、素足で歩くと足裏に気持ち良い感触が伝わります。なお、お風呂は男女別の内湯のみで、露天風呂はありません。
浴室右手に若干引っ込む形で、真湯が吐出されるシャワー付き混合水栓が3基並んでいます。シャワーホースは新しく水栓金具もそんなに古くないので、洗い場は最近改修されたのでしょう。また壁に沿って桶や腰掛けが綺麗に整頓されており、小さな子どもも一緒に湯浴みできるよう、小さな腰掛けなどと共にトロ舟のような子供用湯船が用意されていました。
浴槽は5~6人サイズで、縁には赤い石材が用いられ、槽内は床と同様に大谷石敷きですが、この浴槽もかなりお年を召しているのでしょう、所々モルタルで補修されていました。そして脱衣室の張り紙にあったように、槽内にはポンプが突っ込まれており、その差し込まれ方から察するに、ぬるいお湯が滞留しやすい底部のお湯を排出するために導入されたのでしょうけど、私が訪れた時には稼働しておらず、お湯は浴槽縁の上をごく普通に溢れ出ていました。また窓下の槽内にも吸込口があるのですが、こちらも稼働している気配はありませんでした。
お風呂の隅っこに石積みの湯口があり、舌のようにちょこんと突き出た石板の上を流れてお湯が浴槽へ落とされています。こちらのお宿に引かれているお湯は前回取り上げた「上田屋旅館」と同じく8号泉と10号泉の混合で、見た目は無色透明ですが決して澄んでいるわけではなく、微かに濁っているようにも見えます。それもそのはず、湯中では茶色い微細な湯の華が舞っており、これが僅かな懸濁をもたらしているのでしょう。とはいえ湯の華の量は「上田屋旅館」よりも少なく、大きなものも見当たりませんでした。同じ源泉を使っていても、湯使いや環境等によってコンディションが異なるのでしょうね。お湯を口にしてみますと新鮮金気味と石膏味が感じられ、湯面からは石膏臭が漂っていました。湯船に浸かるとトロミがあり、スベスベとキシキシという相反する浴感が拮抗して感じられますが、キシキシの方が優っているようでした。館内表示によれば加水循環消毒の無い放流式の湯使いとなっており、気温の低い期間のみ入浴に適した温度に加温するそうですが、この時の湯船は41~2℃の万人受けする湯加減となっており、おそらく加温されていないか或いは加温されていたとしても必要最小限に留められていたかと思われます。お湯の良さを実感できるなかなか良いお風呂でした。
私がお風呂から上がると、お宿のお姉さんはロビーに用意されている冷水を勧めてくれ、その上あめ玉を私に手渡し、退館時には深々とお辞儀してくださいました。たかが500円程度の客にもかかわらず、これだけ心温まるおもてなしで対応してくださるのですから、私個人としては当地の旅館の中でも群を抜く好印象を抱いてしまい、他の人にも薦めたくなりました。次回訪問時はぜひ宿泊してみたいものです。
8号泉・10号泉の混合泉
単純温泉 47.1℃ pH7.2 湧出量測定せず(動力揚湯) 溶存物質0.47g/kg 成分総計0.48g/kg
Na+:111mg(77.75mval%), Ca++:23.4mg(18.87mval%), Mg++:0.96mg, Fe++:0.44mg,
Cl-:94.6mg(43.58mval%), SO4--:126mg(42.74mval%), HCO3-:32.4mg(8.66mval%),
H2SiO3:63.7mg,
(平成16年11月1日)
加水循環消毒なし
気温の低い期間のみ入浴に適した温度に加温
上毛高原駅・沼田駅より関越交通バスの鎌田・戸倉・丸沼高原方面行で「老神温泉」下車、徒歩1分
群馬県沼田市利根町老神598
0278-56-2521
ホームページ
手形利用時間12:00~17:00(変更される場合あり)
現金での日帰り入浴500円
老神温泉「湯めぐり手形」
私の好み:★★