奈良県の温泉は南部に集中して分布しており、国内外から多くの観光客が集まる北部にも一応存在しているものの、関係者の方には申し訳ないのですが、わざわざ温泉目当てに出かけるほどのものはなく、その殆どは鉱泉を加温循環させているスーパー銭湯です。このため私が奈良県で宿泊する時は温泉の有無をあてにせず、コストパフォーマンス(そして無料駐車場あり)だけで宿を選んでいるのですが、昨年冬の某日に某大手宿泊予約サイトで奈良北部のホテルを探していたところ、金魚の生産で有名な大和郡山にある「スーパーホテル奈良・大和郡山 湯元飛鳥の湯」が気になったので、ここで一泊してみることにしました。
言わずもがなスーパーホテルは全国チェーンのビジネスホテルであり、徹底した合理化で有名ですが、この大和郡山の店舗はチェーン初のロードサイド型なんだそうでして、周囲を田んぼに囲まれた立地といい、2階層の低い建物といい、確かに他地域のスーパーホテルとは趣きを全く異にしています。また各地のスーパーホテルでは温泉浴場を備えた店舗が多いのですが、そのほとんどは別の場所にある源泉からローリーで運搬したものを狭苦しい浴室でグルグル循環させており、正直なところ温泉風情は感じられませんから、私がこちらを予約した時も、ホテル名に温泉の名前が含まれているものの、お風呂に関してはちっともあてにしていませんでした。しかし、実際に宿泊して大浴場に行ってみますと、どうも他店とは勝手が違うのです…。
なおこちらの温泉は残念ながら宿泊客専用となっており、日帰り入浴は不可ですのであしからず(エントランスにもその旨が告知されています)。
私が泊まった客室はこんな感じ。スーパーホテルの他店よりも客室面積が若干広いようであり、またビルではないため容積率に余裕が有るのか、天井が高く確保されていました。ロフト付きやレディースルームなど客室には何タイプかあるらしいのですが、基本的なデザインコンセプトやレイアウトは大体共通しているらしく、大浴場が苦手な方は部屋に付帯しているバスルームを使うことも可能です。
なお部屋のドアは他店同様に暗証番号式であり、また朝食付きなど諸々のサービスも他店と共通です。
さて、部屋に備え付けのバスタオルを持参して、1階の大浴場へと向かいましょう。他店の大浴場はちっとも「大」ではなく、館内の片隅にひっそりと佇んでいて完全に名前負けしていますが、こちらは浴室前に立派なホールがあり、入浴の前段階から既に他店とは一線を画す存在感を放っています。
脱衣室はそこそこ広くて清潔感があり、ロッカーも大きくて使いやすく、ストレスを感じること無く使えます。スーパーホテルのお風呂といえば窮屈であるという固定概念を抱いていたのですが、先程のホールやこの脱衣室は、その思い込みをすっかり覆してくれました。
浴室には消毒臭が漂っているのでちょっと辟易しますが、これは致し方ありません。しかしながら室内面積や主浴槽の大きさは他店舗をはるかに凌駕しており、しかも窓の外側には露天風呂まで設けられているのです。温泉を売りにしている全国チェーンのビジネスホテルといえばドーミーインが有名であり、各店舗とも大きな主浴槽やサウナ・露天風呂を擁していますが、こちらのお風呂はドーミーインと比肩できるかもしれません。
洗い場には左右に分かれてシャワー付き混合水栓が8基並んでおり、各ブースはパーテーションで仕切られているため、隣の客と干渉することなく利用することができます。もちろんシャンプー類の備え付けもあり。
石板貼りの内湯は5~6人サイズで、加水は無いものの、加温・循環・濾過・消毒は実施されており、湯口のお湯からは粘膜を刺激する消毒臭が放たれ、槽内の吸込口からしっかりお湯が吸引されています。私は夜中と朝の2回利用したのですが、夜は右側の切り欠けからオーバーフローが見られたものの、朝は一滴残らず循環されていましたので、時間帯や利用状況によって源泉投入率を調整しているのかもしれません。湯船のお湯はほぼ無色透明で、薄い塩味と弱い苦味が感じられ、残念な湯使いながらもれっきとした温泉であることには間違いなさそうです。
合理化を徹底しているホテルにもかかわらず露天風呂ゾーンの空間の使い方が意外にも贅沢で、浴槽は岩風呂で5~6人サイズ、内湯と露天浴槽の間には結構な幅があり、その余裕のあるスペースには切株状の腰掛けが置かれてたり、飾りの岩が据えられていたりと、周りを囲む高い塀がもたらす圧迫感を払拭するような配慮がなされており、両腕をおもいっきり伸ばしながらお風呂で火照った体をクールダウンしたって、他のお客さんに迷惑が及ぶことはありません。
内湯のお風呂はガッチリ循環濾過しており、掛け流しの温泉を好む私としてはあまり心が惹かれないのですが、露天は様子がちょっと違うんです。内湯同様に加温循環消毒されており、槽内でお湯が吐出されて浴槽右縁の目皿から吸引されているのですが、この他に左隅の湯口からもお湯がチョロチョロ落とされており、その下は焼け爛れたように茶色く染まっているのです。しかもそのお湯は30℃ほどで、薄い塩味とニガリ味に微かな甘味、そして臭素臭とガス臭を足して2で割ったような匂いが感じられるのです。湯船のお湯は薄い黄土色に弱く濁っており、弱いツルスベと引っ掛かる浴感が混在しています。明らかに内湯よりも温泉らしい個性があり、分析表のデータに基いて考えますと、茶色に染まった湯口のお湯は、源泉そのまんまかそれに近い状態なのではないかと思われ、それゆえに露天の湯船では内湯よりも温泉の個性が伝わってきたのではないかと想像されます。どうやらこちらのホテルでは自家源泉を有しているらしく、その源泉をこのホテルの他、奈良駅近くにある同じチェーンへローリー運搬しているらしいのですが、ここは運搬する必要がないため、比較的良い状態の源泉を継続的に落とし続けることができるのでしょうね。
本来この程度の湯使いでしたら拙ブログでは取り上げないのですが、奈良県北部の温泉施設では珍しく源泉のクオリティが保たれている(と思われる)こと、そして大阪の企業らしく合理的で無駄を許さない経営姿勢にもかかわらず、地下からわざわざ動力を用いて汲み上げた源泉を垂れ流しているという意外性が、私には興味深かったので、今回敢えて取り上げてみました。なお大阪・阿波座の「スーパーホテル大阪 湯元花乃井」はここより更に湯使いが良いようですが、まだ利用したことがないので、訪問する機会があればレポートしてみたいと考えています。
飛鳥の湯
ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉 33.4℃ pH7.7 溶存物質2213mg/kg 成分総計2224mg/kg
Na+:520.0mg(61.36mval%), NH4+:7.3mg, Mg++:43.4mg(9.68mval%), Ca++:195.8mg(26.50mval%),
Cl-:1119mg(86.89mval%), Br-:3.6mg, HCO3-:285.5mg(12.89mval%),
加水なし、加温・循環・濾過・消毒(次亜塩素酸ナトリウム使用)あり
奈良県大和郡山市杉町205-1
0743-57-9800
ホームページ
日帰り入浴不可
私の好み:★★