温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

某K集落の共同浴場

2014年12月09日 | 青森県
日本各地には、道路地図にもネット上の地図にも、温泉マークとともに温泉名が表示されてるにもかかわらず、実際にはどこに温泉が湧いているのか皆目見当がつかないような温泉地が点在しています。そのような温泉地が存在している理由は場所によって異なり、たとえば以前は温泉宿があったものの、その後廃業してしまって地図にのみ残っているケースもあれば、源泉はその位置にあるのだけれども入浴施設はそこから遠く離れているケース、あるいは、そもそも温泉なんて無いのに誤った記載がそのまま放置されているケース、などなど様々です。



青森県の某温泉地もその一つ。ネット上で見られる主要な地図や市販の道路マップなど、一般者が利用できるほとんどの地図には、はっきりと温泉名が記されているものの、現地に外来者が利用できそうな施設や旅館は1軒も存在していません。しかしながら、実は、集落住民向けの温泉共同浴場が2軒あり、現在でもちゃんとお湯を湛えております。地元住民用の専用共同浴場、いわゆるジモ専に関して、温泉ファンの間では、公表することによって地元に迷惑が及び、その結果として外来者利用禁止(あるいは浴場が閉鎖)となってしまう可能性があるため、例え入湯できたとしても公表を控えるべきであるという紳士協定が共有されていますが、こちらの集落の場合は、外来者に対しては料金を徴収することにより入浴を受け入れるというコンセンサスが住民の間に出来上がっていますので、地域の方にご迷惑が及ばないよう、場所を特定せずに、わかる方ならわかる形で取り上げてみます。

2軒ある共同浴場のうち、川沿いの湯小屋は固く施錠されていましたので、集落を貫く通りに建つ集会所兼共同浴場へと向かうことにしました。私が現地へ赴くと、ちょうど集落の皆さんが集会所へ向かうところでしたから、その中にいらっしゃった区長さんに入浴をお願いしますと、曰く「お金をいただきますが宜しいですか」とのこと。私は「もちろんです」と返答して200円をお渡ししますと、「それだけ頂ければ十分です(対価として十二分であるという意味)」と笑顔でお辞儀してくださいました。私もお辞儀を返し、区長さんの周りにいた皆さんにも会釈してから、集会所1階の共同浴場に入らせていただきました。



浴場は入口から男女別に分かれており、正面向かって右側が男湯です。地元住民しか使わないお風呂ですから、脱衣室には棚と籠しか無く、至って質素ですが、きちんと清掃されており、いかに地元から愛されているかが伝わってきました。

浴室に入った瞬間、ふんわりとタマゴ臭が漂ってきたので、思わず目尻が下がってしまいました。床には小さな丸タイルが敷き詰められており、男女両浴室の仕切り下に浴槽が一つ据えられています。お湯の飛沫がかかりやすい壁面下部はピンク色のタイルが張られ、上部はモルタル塗りとなっていますが、長年に亘って使われているためか、オフホワイトであるはずの塗装面はコケによって緑色に変色しています。


 
洗い場にはカランが2つほど設けられているのですが、いずれも金属の劣化によって黒ずんでおり、コックを開けても何も吐出されませんでした。室内に漂っていたタマゴ臭から推測するに、硫化によって黒ずんだのでしょうね。


 
洗い場のカランと同様に硫化して黒く変色したバルブから、ドバドバと大量の温泉が吐出されています。吐出口での温度を測ってみると55.0℃という高温であり、このままでは浴用に適さないため、タイルで囲まれた小さなボックス内にある蛇口から冷水も投入されており、加水で温度調整された状態で浴槽へ注ぎ込まれていました。


 
浴槽は3~4人サイズで、槽内は水色、カマボコ形の縁にはモスグリーンのタイルが貼られています。上述の湯口のおける加水の塩梅が絶妙でして、湯船では40.8℃という素晴らしい湯加減となっていました。お湯は無色透明で、優しいタマゴ臭とともに、弱タマゴ味、そして仄かな芒硝味が感じられます。分析表によればお湯に硫化水素などイオウ感の元となる成分は数値的に存在していていないはずなのですが、匂いも味も明瞭なタマゴ感があり、硫化水素もしくはチオ硫酸イオンなどが存在していることは明白です。また炭酸イオンの影響と、弱いながらもアルカリ性に傾いているためか、湯船に入った際に肌へ伝わる浴感は実に優しくまろやかであり、気泡こそ付着しませんが、とてもエアリーで軽やかな浴感に包まれました。そうした浴感と41℃弱の湯加減が相俟って、一度浸かるとまどろんでしまい、後ろ髪を引かれてなかなか出られませんでした。完全掛け流しで鮮度感も素晴らしく、とっても魅惑的なお湯でした。
こんな素敵なお湯に毎日浸かれるだなんて、この集落の方が羨ましい限りです…。


○○5-6号泉(○○には当地の地名が入ります)
単純温泉 57.4℃ pH8.2 153L/min(掘削動力揚湯) 溶存物質0.649g/kg 成分総計0.649g/kg
Na+:162.4mg(79.15mval%), Ca++:32.8mg(18.39mval%),
Cl-:209.4mg(64.17mval%), Br-:0.4mg, SO4--:109.9mg(24.86mval%), HCO3-:34.8mg(6.19mval%), CO3--:11.4mg(4.13mval%),
H2SiO3:67.3mg, HBO2:14.2mg,
(平成21年6月8日)

もし入浴希望の際は、必ず入室前に集落の方へ確認の上、寸志をお納めください(私は200円を納めました)。集落の方にお話を伺うと「来る者拒まず」的なスタンスのようですが、でも決して無理強いしないでくださいね。

私の好み:★★★

コメント (15)
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