前回記事で取り上げた「草の湯」から引き返す途中、秘湯「新草の湯」にも立ち寄ってみることにしました。いや、立ち寄るという語句は相応しくないかな。私としてはちょっとした冒険であったこの「新草の湯」の記事で、今年の温泉レポートを締めくくります。
(なお次回と次々回は本年のまとめをお送りする予定です)
「草の湯」から私の車を止めている場所へ登山道を戻ってゆく途中、ブナ林の中で怪しげな踏み跡を発見しました。これが「新草の湯」への小径で間違いないはず。「新草の湯」もそこへ向かう道も、国土地理院の地形図をはじめとした各種地図には載っていませんので、ネット上で得られる情報が頼りなのですが、そのほとんどが意図的に曖昧な表現をなさっていますから、現地で自分の勘を働かせる他ありません。しかも私は単身で行動していますから相談相手も無し。遭難を覚悟の上、笹藪の中へ前屈姿勢で突入しました。
針葉樹林の下に笹薮が広がる薄暗い環境を、うっすらと踏み跡が伸びています。季節柄、地面は落ち葉で埋め尽くされており、笹の茂り方が薄いところは、踏み跡なんだか単なる地面なんだか判然としません。山歩きの経験を頼りに、勘を働かせて懸命に道を探します。
この山域はクマの巣窟。踏み跡はわかりにくいし、クマとの遭遇も怖い。独りぼっちで「新草の湯」を探索しようとした自分に早くも後悔。笹薮が途切れたところに点在する紅葉がせめてもの救い。
踏み跡に入り始めてから約7分で、木々の向こうの前方に、白い湯気が朦々と立ち上っている光景が目に入ってきました(画像の赤丸内)。「新草の湯」かどうかは別として、この先に地熱活動が盛んな場所があることは間違いありません。
道に迷ったかなと不安を覚える頃に、タイミング良く現れてくれるピンクのリボン(画像の赤丸内)で、自分の勘が正しいことを確認します。正式の登山道ではないため、ルートを示してくれるリボンはかなり少なめでした。
倒木が行く手を阻んだり、笹薮が踏み跡を隠したりと、結構歩きにくい。途中で急な斜面を横切る箇所があるのですが、足元は笹薮で見えにくく、しかも滑りやすい。もし滑落したら谷底へ落っこちちゃいそう。心細くて、オイラ泣いちゃいそうだよ…。
先ほど木々の向こうに見えた白い湯気が、間近に迫ってきました。谷底へ向かって急斜面を一気に下ります。
踏み跡へ入ってからちょうど15分で、薄暗い樹林の中を流れる沢に突き当たりました。直進してこの沢を対岸へ渡ると、目的地である「新草の湯」にすぐたどり着けるのですが、ここでちょっと寄り道し、先程の白い湯気の正体を自分の目で確かめてみることに。
沢を数十メートル下ってゆくと…
私が下って来た小さな沢と、それよりはるかに水量の多い智恵の沢という2つの沢が合流する箇所に行き当たります。この合流箇所の右岸には高低差100メートルほど、地面むき出しの荒々しい斜面が広がっており、斜面全体から朦々と白い湯気が上がっていました。沢や斜面のあちこちで太い樹木が倒れていましたから、この斜面は土砂崩れが発生した跡なのでしょう。そして、地面がむき出しになったことにより、これまで地表近くまで上がっていた地熱が、すっかり露出する形になったものと想像されます。
4~5年以上前にアップされたネット上の「新草の湯」訪問記には、この印象的な斜面や朦々と上がる湯気に関する言及が無いのですが、2011年以降の訪問記になると必ず登場していますので、ここ3~4年の間に土砂崩れが発生し、地熱が露出するようになったのかもしれません。熱で地盤がユルユルですから、今後大雨や地震などで更に斜面が崩落しちゃう可能性も考えられます。
見上げると結構な迫力です。この崖にちょっと登ってみたのですが、たちまち熱い湯気に囲まれそうになり、足元も不安定だったので、身の危険を感じてすぐに撤退しました。こんなところで怪我でもしたら、誰も助けに来てくれませんからね。ちなみに前回記事で紹介しました現在工事中の地熱調査坑とは、直線距離で500~600メートルしか離れていません。この斜面は、一帯が地熱資源に恵まれていることを示す好例と言えるでしょう。
これだけモクモク湯気を上げているのですから、斜面での野湯を期待したくなりますが、傾斜が急でお湯がすぐ流れ落ちてしまうためか、あるいは地熱が熱すぎて蒸気になってしまうからか、残念ながら湯溜まりらしきものは見当たりませんでした。
沢を戻ってお目当ての「新草の湯」へ。湯浴みにお誂え向きな、立派な露天風呂が出来上がっているではありませんか。以前はポリバスがあったそうですが、老朽化により使い物にならなくなり、現在では地面に直接お湯を溜め、その周囲を石で固めています。こんな湯船を作ってくださる方に心から感謝です。
地面から立ち上がったパイプより、ドボドボと辺りに音を響かせながら、お湯が湯船へ落とされています。お湯は灰白色に濁り、辺りには硫化水素臭がプンプン香っていました。湯船には2人までなら入れそう。寝そべれば肩まで浸かれる深さもあります。味覚面では、タマゴ味と苦味がツートップであり、弱い酸味と粉っぽい味(石膏的)がそのバックに控えているような感じを受けました。
温度38.5℃、pH=4.5。
前回記事の「草の湯」は32~3℃でしたから、こちらの方がはるかに温かく、しかも体に負担のかからない湯加減ですので、いつまでも湯浴みしていたくなります。まさに微睡みの湯です。しかも時期的に虫もいませんから、至極快適。紅葉に囲まれながらのワイルドな露天風呂は、文句なしに最高です!! 怖い思いをしてまで、ここまで来た甲斐がありました。
(なお帰路は急な登りが続くのですが、クマが怖くて足早になったのか、往路の下りと同じく15分で登山道まで戻ってこれました)
私の好み:★★★
(なお次回と次々回は本年のまとめをお送りする予定です)
「草の湯」から私の車を止めている場所へ登山道を戻ってゆく途中、ブナ林の中で怪しげな踏み跡を発見しました。これが「新草の湯」への小径で間違いないはず。「新草の湯」もそこへ向かう道も、国土地理院の地形図をはじめとした各種地図には載っていませんので、ネット上で得られる情報が頼りなのですが、そのほとんどが意図的に曖昧な表現をなさっていますから、現地で自分の勘を働かせる他ありません。しかも私は単身で行動していますから相談相手も無し。遭難を覚悟の上、笹藪の中へ前屈姿勢で突入しました。
針葉樹林の下に笹薮が広がる薄暗い環境を、うっすらと踏み跡が伸びています。季節柄、地面は落ち葉で埋め尽くされており、笹の茂り方が薄いところは、踏み跡なんだか単なる地面なんだか判然としません。山歩きの経験を頼りに、勘を働かせて懸命に道を探します。
この山域はクマの巣窟。踏み跡はわかりにくいし、クマとの遭遇も怖い。独りぼっちで「新草の湯」を探索しようとした自分に早くも後悔。笹薮が途切れたところに点在する紅葉がせめてもの救い。
踏み跡に入り始めてから約7分で、木々の向こうの前方に、白い湯気が朦々と立ち上っている光景が目に入ってきました(画像の赤丸内)。「新草の湯」かどうかは別として、この先に地熱活動が盛んな場所があることは間違いありません。
道に迷ったかなと不安を覚える頃に、タイミング良く現れてくれるピンクのリボン(画像の赤丸内)で、自分の勘が正しいことを確認します。正式の登山道ではないため、ルートを示してくれるリボンはかなり少なめでした。
倒木が行く手を阻んだり、笹薮が踏み跡を隠したりと、結構歩きにくい。途中で急な斜面を横切る箇所があるのですが、足元は笹薮で見えにくく、しかも滑りやすい。もし滑落したら谷底へ落っこちちゃいそう。心細くて、オイラ泣いちゃいそうだよ…。
先ほど木々の向こうに見えた白い湯気が、間近に迫ってきました。谷底へ向かって急斜面を一気に下ります。
踏み跡へ入ってからちょうど15分で、薄暗い樹林の中を流れる沢に突き当たりました。直進してこの沢を対岸へ渡ると、目的地である「新草の湯」にすぐたどり着けるのですが、ここでちょっと寄り道し、先程の白い湯気の正体を自分の目で確かめてみることに。
沢を数十メートル下ってゆくと…
私が下って来た小さな沢と、それよりはるかに水量の多い智恵の沢という2つの沢が合流する箇所に行き当たります。この合流箇所の右岸には高低差100メートルほど、地面むき出しの荒々しい斜面が広がっており、斜面全体から朦々と白い湯気が上がっていました。沢や斜面のあちこちで太い樹木が倒れていましたから、この斜面は土砂崩れが発生した跡なのでしょう。そして、地面がむき出しになったことにより、これまで地表近くまで上がっていた地熱が、すっかり露出する形になったものと想像されます。
4~5年以上前にアップされたネット上の「新草の湯」訪問記には、この印象的な斜面や朦々と上がる湯気に関する言及が無いのですが、2011年以降の訪問記になると必ず登場していますので、ここ3~4年の間に土砂崩れが発生し、地熱が露出するようになったのかもしれません。熱で地盤がユルユルですから、今後大雨や地震などで更に斜面が崩落しちゃう可能性も考えられます。
見上げると結構な迫力です。この崖にちょっと登ってみたのですが、たちまち熱い湯気に囲まれそうになり、足元も不安定だったので、身の危険を感じてすぐに撤退しました。こんなところで怪我でもしたら、誰も助けに来てくれませんからね。ちなみに前回記事で紹介しました現在工事中の地熱調査坑とは、直線距離で500~600メートルしか離れていません。この斜面は、一帯が地熱資源に恵まれていることを示す好例と言えるでしょう。
これだけモクモク湯気を上げているのですから、斜面での野湯を期待したくなりますが、傾斜が急でお湯がすぐ流れ落ちてしまうためか、あるいは地熱が熱すぎて蒸気になってしまうからか、残念ながら湯溜まりらしきものは見当たりませんでした。
沢を戻ってお目当ての「新草の湯」へ。湯浴みにお誂え向きな、立派な露天風呂が出来上がっているではありませんか。以前はポリバスがあったそうですが、老朽化により使い物にならなくなり、現在では地面に直接お湯を溜め、その周囲を石で固めています。こんな湯船を作ってくださる方に心から感謝です。
地面から立ち上がったパイプより、ドボドボと辺りに音を響かせながら、お湯が湯船へ落とされています。お湯は灰白色に濁り、辺りには硫化水素臭がプンプン香っていました。湯船には2人までなら入れそう。寝そべれば肩まで浸かれる深さもあります。味覚面では、タマゴ味と苦味がツートップであり、弱い酸味と粉っぽい味(石膏的)がそのバックに控えているような感じを受けました。
温度38.5℃、pH=4.5。
前回記事の「草の湯」は32~3℃でしたから、こちらの方がはるかに温かく、しかも体に負担のかからない湯加減ですので、いつまでも湯浴みしていたくなります。まさに微睡みの湯です。しかも時期的に虫もいませんから、至極快適。紅葉に囲まれながらのワイルドな露天風呂は、文句なしに最高です!! 怖い思いをしてまで、ここまで来た甲斐がありました。
(なお帰路は急な登りが続くのですが、クマが怖くて足早になったのか、往路の下りと同じく15分で登山道まで戻ってこれました)
私の好み:★★★