※残念ながら「旅館双葉荘」は2014年10月末で閉館しました。
私が所用で青森県を訪れる際には、津軽の西北五地域(五所川原市や西津軽郡など)か弘前で滞在することが多く、行動範囲から外れる青森市街やそこから東側のエリアには、意思を持って出かけない限りなかなかご縁がありません。津軽屈指の温泉地である浅虫温泉もこれに然りです。しかし今年の夏終わり、津軽地方へ出かけるにあたって、プンタさんにおすすめの温泉を尋ねたところ、浅虫の「双葉荘」をご推薦してくださったので、普段あまり行く機会の無い浅虫温泉で1泊してみることにしました。
今回こちらのお宿でお世話になる決め手となったのは、浅虫温泉では組合で共同管理している源泉を引く施設が多い中、珍しく自家源泉を有していること、そして残念ながら本年10月末で閉館してしまうこと。正直なところ、惜別訪問ってあまり私の性分に合わないのですが、こちらのお湯は浅虫の他の源泉と一線を画しているそうですから、閉館されちゃったら、その個性的なお湯に二度とお目にかかれないかもしれません。ラストチャンスを逃したら後悔すること間違いなし。
私が訪いますと、お二人のお婆さんが出迎えてくださいました。そのうちのお一人は和服をお召しになった方は女将さんなのでしょう、楚々とした立ち居振る舞いが印象的です。床に敷かれた臙脂色のカーペット、柱に飾られた金魚ねぶた、そして清掃が行き届いて整然としている帳場まわり…。とても閉館まで1ヶ月を切っているとは信じられません。旅館を守る女将さんの矜持が伝わってきます。
●客室・朝食
客室が並ぶ2階廊下にも臙脂のカーペットが敷かれていました。お部屋の中にはお風呂付きのものもあるんだとか。
思わず目を奪われたのは、2階廊下にある共用流し台です。一見するとごく普通のステンレス製流しですが…
お湯が出る蛇口には、白い析出がコンモリとこびりついているではありませんか。コックを開けてみますと、直に触れないほどアツアツのお湯が吐出されました。芒硝の匂いが微かに漂うこのお湯は明らかに温泉です。2組ある水&湯の蛇口ペアのうち、片方にはホースが接続されているのですが、そのホースのお湯は使われること無く、排水口へ直接捨てられているではありませんか。あぁ勿体無い。でも配湯やポンプなど何らの事情があって、このように垂れ流しにしているのでしょう。
さて今回通された客室は8畳の和室です。有り難いことに入室時には既に布団が敷かれていました。お茶関係・金庫・テレビなど一通りの備品はありますが、冷蔵庫は無く、トイレや流し台は共用のものを使います。古い建物ですが綺麗に維持されており、不快なところはひとつもありません。共用のトイレは洋式であり、清掃も行き届いていて、古いトイレにありがちな臭いは一切ありませんでした。こんなに立派なコンディションを維持できているのに、閉館してしまうだなんて実に惜しい話ですが、女将さんが今回の決断に至ったまでには、人知れぬ懊悩や逡巡があったはずですから、むやみに勿体無いだの惜しいだのと語るのは、旅人の勝手な感傷かもしれません。
朝食は張り子の雪だるまくんに見つめられながらお座敷でいただきました。座敷に卓がぽつんと一つあるだけで、なんだか寂しいだなんて言ってくれるな! オイラはちっとも寂しくないぜ。ま、そんな強がりはさておき、この朝の献立はシャケや筋子といったご当地らしい海の幸の他、温泉卵、ひきわり納豆、トマト、そして青森県が生産量日本一である長芋といった、滋養強壮にもってこいなラインナップでした。なお今回は利用する数日前に予約の電話を入れたのですが、その時点で夕食付きのプランは無く、素泊まりか朝食のみとのことでした。
●お風呂
さて肝心要のお風呂へと参りましょう。浴室は帳場の奥の方、2階から階段を下りてすぐ目の前。
宿泊中は、お部屋とお風呂を3往復してしまいました。
脱衣室の棚の奥には湯揉み棒が立てかけられていますね。ということは湯船が熱いのかな? 洗面台には宿泊客用の使い捨て歯ブラシが備え付けられているのですが、その歯ブラシが立てかけられているマグカップは、団塊ジュニア世代にはメチャクチャ懐かしいセーラーズ!!
コバルトブルーの壁タイルが目に鮮やかな浴室。後述する浴槽に貼られているタイルは淡いスカイブルーであり、この浴室は全体的に青基調の色使いです。洗い場にはシャワー付き混合水栓が4基並んでおり、カランからは源泉のお湯が吐出されます。
浴槽は1.5m×4mで、おおよそ5~6人サイズといったところ。槽内は小さな円形タイルですが、縁は黒い御影石であり、長年に及ぶ温泉成分の付着により、石材の表面は薄っすら白く染まっていました。
浴槽縁には木片がいくつか置かれていたのですが、これって何に使うのかしら。浴槽の底には穴があいており、浴室の外から常時チョロチョロと音が響いていましたので、その穴はオーバーフロー管につながっていて、屋外にて排湯されているのでしょう。なお湯船に人が入れば縁からも溢れ出ます。
浴槽のお湯は蛇口から供給されています。「お湯を止めないで少しづつ出しておいて下さい」とのこと。熱い源泉ですから湯加減が難しいのでしょうし、配湯の都合上、お湯を出しっぱなしにしておく必要もあるのでしょう。
温泉ファンでなくとも「なんじゃこりゃ」と関心を寄せざるを得ないのが、この水栓の先に瘤のようにコンモリこびりついている真っ白な析出であります。
逆サイドからコンモリ析出を捉えてみました。一部が欠けているため、まるで羊の頭みたいです。羊頭狗肉ならぬ羊頭硫酸塩でしょうか。驚くべきはこの見た目だけじゃありません。見た目こそ無色透明なのですが、掛け湯するとふんわりタマゴ臭が香ってくるではありませんか。浅虫温泉のお湯の匂いといえば芒硝臭であり、もちろんその手の香りも漂ってくるのですが、それを上回るほど明瞭なタマゴ臭が当地で嗅げるとは予想だにしませんでした。芒硝臭だってタマゴ臭に負けず劣らず香り豊かであり、まるで危ない中毒患者のようにクンクン鼻を鳴らしながら、我流の温泉香道を楽しみました。また、コップにお湯を汲んでテイスティングしてみますと、甘塩味とともにほんのりとしたタマゴ味も口の中に広がり、しかもコップの中に篭ったタマゴ臭も実に芳醇でした。
湯使いは完全掛け流し。湯加減調整のため投入量はやや絞り気味ですが、決して不足しているわけではなく、鮮度感は抜群です。湯中ではスルスルスベスベ浴感と弱い引っ掛かりが混在しつつ、どちらかと言えばスルスベの方が勝っているようであり、腕でお湯を掻くとトロミも得られました。加水無しですと若干熱めですが、むしろピリっと肌に走る刺激が快感でもあり、一度肩まで湯船に浸かると、後ろ髪を引かれてなかなか出られなくなる魅惑のお湯でした。
後継者の不在が閉館理由なんだそうですが、これも時代の流れなのでしょう。滑り込みのタイミングでしたが、浅虫で個性的なお湯と出会えたことは、温泉ファン冥利に尽きます。
浅虫双葉荘源泉
ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物温泉 73.0℃ pH8.82 湧出量測定不可(動力揚湯) 溶存物質1.316g/kg 成分総計1.316g/kg
Na+:217.3mg(50.18mval%), Ca++:183.1mg(48.54mval%),
Cl-:200.3mg(30.13mval%), Br-:0.6mg, OH-:0.1mg, HS-:0.1mg, SO4--:608.6mg(67.57mval%), CO3--:9.9mg,
H2SiO3:82.2mg,
青森県青森市大字浅虫字山下249 地図
2014年10月末で閉館
私の好み:★★★
私が所用で青森県を訪れる際には、津軽の西北五地域(五所川原市や西津軽郡など)か弘前で滞在することが多く、行動範囲から外れる青森市街やそこから東側のエリアには、意思を持って出かけない限りなかなかご縁がありません。津軽屈指の温泉地である浅虫温泉もこれに然りです。しかし今年の夏終わり、津軽地方へ出かけるにあたって、プンタさんにおすすめの温泉を尋ねたところ、浅虫の「双葉荘」をご推薦してくださったので、普段あまり行く機会の無い浅虫温泉で1泊してみることにしました。
今回こちらのお宿でお世話になる決め手となったのは、浅虫温泉では組合で共同管理している源泉を引く施設が多い中、珍しく自家源泉を有していること、そして残念ながら本年10月末で閉館してしまうこと。正直なところ、惜別訪問ってあまり私の性分に合わないのですが、こちらのお湯は浅虫の他の源泉と一線を画しているそうですから、閉館されちゃったら、その個性的なお湯に二度とお目にかかれないかもしれません。ラストチャンスを逃したら後悔すること間違いなし。
私が訪いますと、お二人のお婆さんが出迎えてくださいました。そのうちのお一人は和服をお召しになった方は女将さんなのでしょう、楚々とした立ち居振る舞いが印象的です。床に敷かれた臙脂色のカーペット、柱に飾られた金魚ねぶた、そして清掃が行き届いて整然としている帳場まわり…。とても閉館まで1ヶ月を切っているとは信じられません。旅館を守る女将さんの矜持が伝わってきます。
●客室・朝食
客室が並ぶ2階廊下にも臙脂のカーペットが敷かれていました。お部屋の中にはお風呂付きのものもあるんだとか。
思わず目を奪われたのは、2階廊下にある共用流し台です。一見するとごく普通のステンレス製流しですが…
お湯が出る蛇口には、白い析出がコンモリとこびりついているではありませんか。コックを開けてみますと、直に触れないほどアツアツのお湯が吐出されました。芒硝の匂いが微かに漂うこのお湯は明らかに温泉です。2組ある水&湯の蛇口ペアのうち、片方にはホースが接続されているのですが、そのホースのお湯は使われること無く、排水口へ直接捨てられているではありませんか。あぁ勿体無い。でも配湯やポンプなど何らの事情があって、このように垂れ流しにしているのでしょう。
さて今回通された客室は8畳の和室です。有り難いことに入室時には既に布団が敷かれていました。お茶関係・金庫・テレビなど一通りの備品はありますが、冷蔵庫は無く、トイレや流し台は共用のものを使います。古い建物ですが綺麗に維持されており、不快なところはひとつもありません。共用のトイレは洋式であり、清掃も行き届いていて、古いトイレにありがちな臭いは一切ありませんでした。こんなに立派なコンディションを維持できているのに、閉館してしまうだなんて実に惜しい話ですが、女将さんが今回の決断に至ったまでには、人知れぬ懊悩や逡巡があったはずですから、むやみに勿体無いだの惜しいだのと語るのは、旅人の勝手な感傷かもしれません。
朝食は張り子の雪だるまくんに見つめられながらお座敷でいただきました。座敷に卓がぽつんと一つあるだけで、なんだか寂しいだなんて言ってくれるな! オイラはちっとも寂しくないぜ。ま、そんな強がりはさておき、この朝の献立はシャケや筋子といったご当地らしい海の幸の他、温泉卵、ひきわり納豆、トマト、そして青森県が生産量日本一である長芋といった、滋養強壮にもってこいなラインナップでした。なお今回は利用する数日前に予約の電話を入れたのですが、その時点で夕食付きのプランは無く、素泊まりか朝食のみとのことでした。
●お風呂
さて肝心要のお風呂へと参りましょう。浴室は帳場の奥の方、2階から階段を下りてすぐ目の前。
宿泊中は、お部屋とお風呂を3往復してしまいました。
脱衣室の棚の奥には湯揉み棒が立てかけられていますね。ということは湯船が熱いのかな? 洗面台には宿泊客用の使い捨て歯ブラシが備え付けられているのですが、その歯ブラシが立てかけられているマグカップは、団塊ジュニア世代にはメチャクチャ懐かしいセーラーズ!!
コバルトブルーの壁タイルが目に鮮やかな浴室。後述する浴槽に貼られているタイルは淡いスカイブルーであり、この浴室は全体的に青基調の色使いです。洗い場にはシャワー付き混合水栓が4基並んでおり、カランからは源泉のお湯が吐出されます。
浴槽は1.5m×4mで、おおよそ5~6人サイズといったところ。槽内は小さな円形タイルですが、縁は黒い御影石であり、長年に及ぶ温泉成分の付着により、石材の表面は薄っすら白く染まっていました。
浴槽縁には木片がいくつか置かれていたのですが、これって何に使うのかしら。浴槽の底には穴があいており、浴室の外から常時チョロチョロと音が響いていましたので、その穴はオーバーフロー管につながっていて、屋外にて排湯されているのでしょう。なお湯船に人が入れば縁からも溢れ出ます。
浴槽のお湯は蛇口から供給されています。「お湯を止めないで少しづつ出しておいて下さい」とのこと。熱い源泉ですから湯加減が難しいのでしょうし、配湯の都合上、お湯を出しっぱなしにしておく必要もあるのでしょう。
温泉ファンでなくとも「なんじゃこりゃ」と関心を寄せざるを得ないのが、この水栓の先に瘤のようにコンモリこびりついている真っ白な析出であります。
逆サイドからコンモリ析出を捉えてみました。一部が欠けているため、まるで羊の頭みたいです。羊頭狗肉ならぬ羊頭硫酸塩でしょうか。驚くべきはこの見た目だけじゃありません。見た目こそ無色透明なのですが、掛け湯するとふんわりタマゴ臭が香ってくるではありませんか。浅虫温泉のお湯の匂いといえば芒硝臭であり、もちろんその手の香りも漂ってくるのですが、それを上回るほど明瞭なタマゴ臭が当地で嗅げるとは予想だにしませんでした。芒硝臭だってタマゴ臭に負けず劣らず香り豊かであり、まるで危ない中毒患者のようにクンクン鼻を鳴らしながら、我流の温泉香道を楽しみました。また、コップにお湯を汲んでテイスティングしてみますと、甘塩味とともにほんのりとしたタマゴ味も口の中に広がり、しかもコップの中に篭ったタマゴ臭も実に芳醇でした。
湯使いは完全掛け流し。湯加減調整のため投入量はやや絞り気味ですが、決して不足しているわけではなく、鮮度感は抜群です。湯中ではスルスルスベスベ浴感と弱い引っ掛かりが混在しつつ、どちらかと言えばスルスベの方が勝っているようであり、腕でお湯を掻くとトロミも得られました。加水無しですと若干熱めですが、むしろピリっと肌に走る刺激が快感でもあり、一度肩まで湯船に浸かると、後ろ髪を引かれてなかなか出られなくなる魅惑のお湯でした。
後継者の不在が閉館理由なんだそうですが、これも時代の流れなのでしょう。滑り込みのタイミングでしたが、浅虫で個性的なお湯と出会えたことは、温泉ファン冥利に尽きます。
浅虫双葉荘源泉
ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物温泉 73.0℃ pH8.82 湧出量測定不可(動力揚湯) 溶存物質1.316g/kg 成分総計1.316g/kg
Na+:217.3mg(50.18mval%), Ca++:183.1mg(48.54mval%),
Cl-:200.3mg(30.13mval%), Br-:0.6mg, OH-:0.1mg, HS-:0.1mg, SO4--:608.6mg(67.57mval%), CO3--:9.9mg,
H2SiO3:82.2mg,
青森県青森市大字浅虫字山下249 地図
2014年10月末で閉館
私の好み:★★★