温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

押立温泉 国民宿舎さぎの湯

2015年04月19日 | 福島県
 
表磐梯の押立温泉には3つの宿があり、以前拙ブログでは「住吉館」を訪れておりますが、今回はその手前側に位置する「国民宿舎さぎの湯」へお邪魔して立ち寄り入浴してまいりました。池や駐車場を囲む感じで建つコの字形の棟は、玄関まわりこそ改修されているものの、来客がはじめに目にする妻面などを中心に、昭和の香りがたっぷり漂う、田舎の宿らしい鄙びた佇まいです。


 
駐車場に車をとめ、玄関へ向かって歩いてゆくと、中の方からワンコがけたたましく吠えてくるではありませんか。けだし私の姿に怪しい気配を嗅ぎとったのかもしれませんが、日帰り入浴であることが理解できたのか、すぐに大人しくなってくれました。不審を覚えたらしっかり吠えて哨戒するのもワンコの大切なお仕事ですよね。それでいて、すぐに客であるかを判断できるのですから、なかなか賢いじゃありませんか。後ろ足でお腹を掻くワンコを尻目に、ロビーで談笑中のお婆さん達に入浴をお願いしますと、快く迎え入れてくださいました。


 
お婆さんの案内に導かれながら、玄関や帳場からまっすぐ伸びる廊下を進んで、突き当たりの浴室へと向かいます。男女別の浴室は奥と手前でちょっと離れているのですが、この男女の区別は固定されているのでしょうか、あるいは日や時間によって入れ替わっているのでしょうか。なお廊下の途中にはコインロッカーが設置されていました。

私が訪れた真冬の某日は、雲間から青空が覗く良い天気だったのですが、それでも雪に覆われた磐梯山麓の寒さはとても厳しく、フローリングの脱衣室は底冷えし、着替える僅かな時間でも体がジンジンと凍えてしまいます。室内は数年前に改修されたそうですが、建物自体が草臥れているためか、早くもオフホワイトの壁紙はくすみはじめていました。


 
脱衣室から浴室へと移る戸を開け、一歩中へ足を踏み入れた途端、浴室内に充満するお煎餅のような温泉由来の香ばしい香りが鼻孔をくすぐってきました。お風呂は内湯のみで、タイルと防滴建材で固められた室内には、1つの浴槽と4基のシャワー付きカランが設けられているばかり。脱衣室と同様、浴室も数年前にある程度改修されているようですが、天井の低さは如何ともし難く、建物としての古さを物語っているようにも思えます。しかしながら、客に媚びるような装飾も、偉そうな能書きも無い、余計な一切を省いたシンプルな構造からは、ビジュアルに頼らず、お湯の良さだけで勝負しようとする潔さが伝わり、室内の香りと相俟って、むしろ好感を抱かせてくれました。


 
質素なお風呂の中で強いて温泉風情を見つけるならば、岩の間から温泉を流すこの湯口でしょうか。古から噴火を繰り返してきた磐梯山をイメージしているのか、ちょこんと据えられているのは溶岩室の岩であり、恰もミニチュアの峡谷みたいに、その谷間を温泉が流れています。このお風呂で聞こえる音は、お湯が岩から浴槽へ落とされるトポトポという響きだけ。実用的な浴室にあって、ただ岩のみで温泉の情緒を醸し出そうとしている姿からは、同じく砂利と岩だけで世界観を描く枯山水の哲学に通じるものを感じ取れます(えらく仰々しい表現になっちゃいました…)。

浴槽はおおよそ1.5m×3.5mの平行四辺形で、槽内はタイル貼りですが縁には御影石が用られています。岩の流路には温泉成分が白くこびりついているのですが、この縁にも同様に付着が見られ、特にエッジ部分はトゲトゲしているため、入浴中に縁に腰を掛けたら、このトゲトゲがお尻を刺激して、ちょっとした痛みを覚えました。けだし長い年月にわたって使われる続けている浴槽なのでしょうね。


 

浴槽のお湯は、人が入れば縁の上から溢れ出てゆきますが、基本的には底にあけられた穴から排湯されています。窓の下には池があり、浴室から池へ常時お湯が捨てられていましたから、位置的に考えればこのお湯は浴槽の排湯なのでしょう。池(屋外)側の吐出口にはバルブが取り付けられていましたから、投入量や排出量を調整することによって湯加減をコントロールしているものと想像されます。また、館内表示によれば「源泉から湯槽に『かけ流し』をし、自然のままで入浴に適した温度になっております」とのことです。ただ、厳冬期であったためか、この日の浴室は裸でいると身震いするほど寒く、その影響を受けていたのか湯加減も(体感で)40~41℃まで下がっていました。掛け流しを守ろうとすると、湯加減の調整が難しくなってしまうのは、どの温泉旅館でも苦慮なさっている課題でしょう。なお、館内に表示されている分析表は昭和62年の古いものであり、そこに記されている表磐梯2号泉という名の源泉は、押立温泉に3つある宿にそれぞれ引かれているお湯であり、源泉自体はグランドサンピア猪苗代リゾートホテル(旧京急猪苗代リゾート)の敷地内にあるはずです。
お湯はほぼ無色透明で、口に含むと石膏味や何かが焦げたような味と一緒に、お煎餅のような芳ばしい風味が鼻へ抜けてゆきます。湯中では滑らかでサラサラとした浴感が優しく体を包んでくれ、上述のようにややぬるめの湯温でありながらも、湯疲れせずに長湯できたおかげで、入室時の頃の肌寒さを忘れてしまうほどしっかりと温まることが出来ました。


表磐梯2号泉
単純温泉 50.3℃ pH7.8 312.5L/min(動力揚湯)
Na+:64.3mg, Mg++:10.7mg, Ca++:24.3mg,
Cl-:20.3mg, HS-:0.6mg, S2O3--:0.9mg, HCO3-:270.1mg,
H2SiO3:169.0mg, H2S:0.1mg
(平成17年3月)

※館内に掲示されている昭和62年の分析表は以下の通り(抄出)。
単純温泉 48.5℃ pH記載なし 537L/min 
Na+:71.5mg, Mg++:10.5mg, Ca++:14.0mg, Fe++:0.3mg,
Cl-:24.9mg, HCO3-:268.5mg,


福島県耶麻郡猪苗代町磐根佐賀地2557  地図
0242-65-2515
ホームページ

日帰り入浴時間不明
500円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★
コメント (2)
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