温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

屏東県 旭海温泉公共浴室

2015年09月01日 | 台湾
曜日配列に恵まれた9月のシルバーウィークには、台湾へ出かけようとお考えの方もたくさんいらっしゃるかと思いますが、そんな大型連休を3週間後に控え、多くの方にとってはちっとも役立たない、アクセスが難しい台湾の温泉情報を、今回から連続して取り上げてまいります。初回は台湾南端の屏東県にある旭海温泉から。ネット上には日本人の方による訪問記も散見されますので、台湾での温泉めぐりを画策なさったことがある方なら、ご存知の温泉かと思います。当地へは一応路線バスが運行されているようですが、1日1本しか無いらしいので、レンタカーを借りて現地へ行くことにしました。


 
まずは台9線「南廻公路」を走って、屏東県と台東県の県境に位置する台9号の最高地点「寿峠」を目指し、ここから分岐する199号線に入って南下してゆきます。なお寿峠(台湾での表記は「壽卡」)は日本統治時代に名付けられた地名で、いまでもそのまま使われ続けているんだとか。
199号線は、起点である標高460mの寿峠から海岸部の旭海まで尾根伝いにどんどん山を下ってゆくワインディングロードで、延々と急カーブが続く険しい道なのですが、幅員は1.5台分の幅員は確保されていますので対向車の離合に支障はなく、ちゃんと舗装されていますから、問題なくドライブすることができました。
沿道には南国の木々が生い茂っていますが、所々で視界が開けて真っ青な大海原が眺望できたので、路肩の広いところで車を止め、路傍に咲く可憐な花に心を癒やされながら、海に向かって胸いっぱいに深呼吸。


 
東源を通過した辺りで左折し、199甲線を東進して山を下りきると、旭海地区のウェルカムゲートが出迎えてくれます。


 
寿峠から40分弱で旭海温泉に到着しました。旭海地区の集落は海岸付近にあるのですが、温泉は集落より山側に位置しており、ここから海はまったく見えません。
駐車場には料金表が掲示されていたのですが、駐車料金を徴収されるようなことはなく・・・


 
それどころか、私の到着とほぼ同じタイミングでやってきた係員のおばちゃんは、私から入場料すら受け取ろうとせず、それまで施錠されていたゲートを開けて笑顔で手招きして、園内へと入れてくれたのでした。いまだに何故無料で入れたのか、あまり理解できていませんが、旅先で巡り逢えた幸運だと思って、深く考えないようにしています。


 
(両画像ともクリックで拡大)
上2枚の画像は、受付小屋でもらった旭海温泉のパンフレットの表裏です。
図で表されているように、この旭海温泉構内は公営の温泉公園といった感じで、綺麗に整備されたガーデンの中に、温泉を利用した諸設備が設けられています。ここには元々渋い佇まいの共同浴場が存在していましたが、受付小屋の脇に立っている案内板によれば、民国99年(2010年)に台湾政府(行政院)の原住民族委員会が、原住民居住地区に存在する温泉の永続的な管理運営を行うための五カ年計画を立案実施し、この計画によって旭海温泉がモデル地区の指定を受けて整備されることになり、資金の助成を受けて浴場をはじめとする諸々の設備が設けられたんだそうです。早い話が村おこしのための観光整備事業といったところでしょうか。案内説明の日付には民国102年(2013年)10月と記されていましたから、現在の温泉公園が供用開始されてから、まだ2年も経っていないのですね。このパンフレットには分厚く質の良い紙が使われ、部分的に光沢処理されており、無駄に贅沢な仕上がりとなっているのですが、これもおそらく公園整備の予算で制作されたのでしょう。


 
入場ゲートの前に広がっているのは「泡脚池」、すなわち足湯であります。回遊できちゃいそうな大きな造りで、ハンドレールや日除けの屋根なども設けられている大変立派な設備なのですが、残念ながらこの時は空っぽで、利用できる状態ではありませんでした。


 
その奥には「大衆池」と称する、屋根掛けされた露天の温泉プールもあったのですが、やはりここも空っぽでした。なおこの「大衆池」は水着着用で利用するプールであり、奥には着替え用のシャワールーム(&トイレ)も完備されています。
オープン時間を過ぎていたにもかかわらず、足湯も露天風呂も空っぽで、まだ公園としての準備がなされていない状態だったから、おばちゃんは無料で入場させてくれたのかな? 



こちらは「家庭湯屋」、つまり家族風呂。2棟に分かれて計5~6室あるのですが、しっかり施錠されており、内部を見ることはできませんでした。こちらは別料金を支払えば利用できるのでしょうね。


 
敷地の最奥には学校と思しき建物が建ち、トラックの跡が残る校庭が広がって、その門柱には「牡丹国小 旭海分校」と書かれているのですが、校舎の1階は観光案内所になっており、一見すると学校と案内所が共存しているような印象を受けます。門柱が示すように、元々は小学校の分校だったのですが、現在では廃校されており、その校舎跡を観光案内所として転用しているのですね。とはいえ、観光案内所にはカーテンが下ろされており、人のいる気配は感じられず。足湯や露天風呂を含め、お客さんの利用が見込める週末以外は開設されないのかな。


 
構内をひと通り廻ったところで、お目当ての「公共浴池」へと向かいます。入り口は男女別に分かれており、それぞれに大きなヘビと原住民を描いたイラストが施されていました。この辺りは先住民のパイワン族が暮らすエリアですが、おそらくここで描かれているヘビは、パイワン族が崇拝の対象としている毒蛇「百歩蛇」なのでしょう。


 
(右or下画像はクリックで拡大)
出入口にドアなど空間を隔てるようなものはなく、下足場に「男湯」の暖簾が掛かっているだけです。この暖簾の傍にはお風呂に関する説明が掲示されており、これによれば「泡湯池内不可穿著(泳)衣物(浴槽内で衣類や水着を着用しての入浴は不可)」とのことですから、水着で利用する屋外の「大衆池」と異なり、日本のようにすっぽんぽんで湯浴みするスタイルのお風呂であることがわかります。またお湯に関して「無添加物之天然原湯(何も加えていない天然の源泉)」との表記もあるのですが、少なくとも加水や入浴剤等は入れていないということかな?


 
こちらが浴室の全景。地元の方が日々の疲れを癒やすために設けられた公衆浴場ですから、温泉らしい風情に欠ける実用的な佇まいですが、浴場が建て直されてからまだあまり経っていないようで、随所に新しさが残っており、広くて綺麗なお風呂です。
訪問時、浴室は綺麗に片付けられていましたし、床の大部分は乾いていましたので、おそらくこの日の一番風呂だったのではないかと思います。洗い場にはシャワーが3基並んでおり、体を洗うためにそのうちの1つを使ってみたのですが、吐出圧力はいまいちで、出てくるお湯もぬるめ。いつもこんな感じなのかな?
なおシャワーの右側にはトイレの個室も並んでいます。浴場内にトイレを併設させるのは、台湾ではごく普通のことです。


 
こちらは更衣スペースの様子です。入室した正面の向かいには大きなミラーがあり、そこには「ドライヤーを使いたければ受付に申し出てね」という旨がアナウンスされていました。これはドライヤーを貸し出してくれるという意味ではなく、持参のドライヤーを使用する場合は(アンペア数などの事情があるので)予め係員に伝えておいてね、といった程度の意味なのでしょう。
更衣スペースには空間的な余裕があり、多少混んでいても他のお客さんとの干渉を気にせず利用できそうです。なおロッカーらしきものが設置されているのですが、肝心の鍵がささっておらず、どうやって施錠するのかわかりませんでした。泥棒とは縁の無さそうな長閑な田舎ですし、浴室と更衣スペースには仕切りがなく一体化されており、入浴中でも更衣スペースの様子を目視できますから、敢えて鍵をかける必要はないのかな。
こちらの風呂で私が感心した点は、更衣スペースのように足元が乾いているべきドライゾーンと、入浴スペースのように濡れて当然のウェットゾーンをきちんと区分し、ドライゾーンを一段高くして板の間にすることにより、足元をビショビショにさせずに着替えることができる構造になっていることです。日本のお風呂なら極めて当たり前のことで、わざわざ文章にするのが難しいほどですが、台湾の温泉浴場では、脱衣室と浴室の間がフラットで足元がビショビショ&ドロドロになっているため、靴やズボンの裾を濡らさないように注意しながら着替えなきゃいけないお風呂が結構あるんです。ここではそんな心配なんて不要。快適に利用できました。


 

浴槽は大小が1つずつ並んでいるですが、右側の小さな槽には「原水池禁止入浴」と書かれているように、源泉のお湯が注がれる浅い湯だまりとなっており、立ち入ることはできません。この小槽の湯口で持参の計器を突っ込んだところ、45.6℃, pH=7.7という数値が計測されました。お湯を口に含むと、薄塩味や薄出汁味、そして弱い土類感と金気が感じられました。施設の案内表示よれば泉質は「碳酸氫鹽泉」(※)であり、これを日本語に訳すと炭酸水素塩泉になります。ひと口に炭酸水素塩泉と言っても、透明のツルスベで美人湯が多い重曹泉系と、黄色く濁って石灰華ができやすい重炭酸土類泉系(および塩化土類泉系)の2パターンに分かれますが、こちらのお湯は間違いなく後者であり、マイルドな塩化土類泉といった印象を受けました。

(※)文字化けして読めない方のため、文字を写した画像を用意致しました→


 
 
一方、左側の主浴槽は(目測で)5.5m×3mほどで、こちらはれっきとした入浴専用の槽であり、深い造りでしっかりとした入り応えがありました。この浴槽には、上述の小槽から穴を通じて熱いお湯が流れ込んでいる他、青森県百沢温泉を上品にさせたようなステンレス製の投入口からもお湯が注がれています。このステンレス湯口では44.3℃ですが、湯船では42℃前後という実に日本人向けの湯加減が維持されていました。
浴槽はプールのような造りで、縁が高くなっているため、お湯が洗い場へ溢れ出ることはなく、全量が湯尻の壁で口を開けている細長い排湯口から吸い込まれていました。小槽の熱いお湯は源泉100%なのでしょうけど、ステンレスの湯口から吐出されるお湯はほぼ適温である上、供給量が一定していましたから、こちらは循環のお湯が含まれているのかもしれません。下足場付近の説明板に記されていた「無添加物之天然原湯」という文言は、あくまで加水等はしていないという意味であり、循環については言及していませんから、掛け流しか否かはよくわかりません。

でもこの温泉で大変印象的だったのが浴感の良さです。土類を多く含む温泉は得てしてギシギシと引っかかる浴感になりますが、この旭海温泉では、湯中で肌を擦った刹那には確かに少々の引っ掛かりがあるものの、総じてツルツルスベスベがはっきりしており、撫で続けているうちにローションのような滑らかさも感じられました。食塩泉でよく得られるツルスベ感とは異なり、どちらかと言えば重曹泉のような浴感なのです。土類泉系のお湯なのに、重曹泉系のなめらかな浴感が楽しめる温泉は、日本ではあまりお目にかかれない珍しいタイプではないでしょうか。南国の暑さゆえ、あまり長湯はできませんでしたが、掛け流しか否かと言った湯使いのことなんて忘れてしまうほど気持ちのよい感触が楽しめました。

付近にはこれといった観光名所があるわけでもなく、車などの移動手段が無いとアクセスも難しいのですが、私個人としては以前から訪れてみたかった温泉でしたから、遠い道のりとはいえ、無事に入浴が果たせた上、意外なツルスベ浴感を堪能できて、十分に満足できる一湯となりました。


碳酸氫鹽泉 40.2℃(別の掲示では45℃) pH7.4 溶存物質1462~1466mg, HCO3-:1428~1437mg,

屏東県牡丹郷旭海村旭海路97号  地図
GPSコード:22.18985, 120.87769

月曜~土曜→12:30~21:30、日曜8:00~17:00
100元(家族風呂は大きさにより600元~900元)
宿泊不可(旭海集落内には民宿あり)
備品類なし

私の好み:★★+0.5


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