温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

台東県 霧鹿温泉 天龍温泉飯店 

2015年09月18日 | 台湾
 
台東県霧鹿峡谷の中心部にあたる霧鹿地区には、1軒の大きな温泉ホテルの他、交番や小規模の食堂などが道路沿いに固まっており、山深い景色が延々と続く南横公路の中では数少ない、人の生活が感じられる集落です。


 
その大きな温泉ホテル「天龍温泉飯店」は、南横公路の台東県側の山中では、ほぼ唯一の存在と言って良い、ちゃんとした規模のホテルであり、この界隈の観光拠点でもあります。通りからアプローチを下ったところに、公園のようなスペースを併設した広い駐車場が用意されていました。


 
ホテルの目の前の峡谷に架かる「天龍吊橋」は、南横公路の見どころのひとつ。全長およそ110メートルで、高度差40メートル。一度に通行できるのは2人までという心細い吊り橋です。


 
吊り橋は観光目的で架けられたのではなく、昭和4年に台湾総督府がれっきとした交通路として架橋したのがはじまり。ここをとば口として山奥へ伸びる道は天龍古道と称し、ブヌン族が暮らす深山幽谷の集落へと続いていたんだとか。橋の説明プレートには昭和8年に撮られた吊り橋とその傍に設置された「ブルブル渓見張所」が写っており、警官と思しき制服姿の男性が3人橋の上から川面を眺めていました。今でこそ観光名所になっているこの吊り橋は、かつては理蕃政策の拠点だったわけですね。原住民は当地をブルブルと称していたらしく、これに霧鹿霧鹿という漢字をあてたのが、現在の地名の由来になっているようです。


 
以前は観光客でも通行でき、ここから伸びる古道をトレッキングできたそうですが、訪問時は危険防止を目的として立入が禁止され、フェンスが行く手を阻んでいました。


 
さてホテルのフロントで「泡湯」(温泉入浴)をお願いしますと、フロントのお姉さんは「入浴は午後4時からなのでまだダメです」と首を横に振りました。4時からスタートとは随分遅い時間設定ですね。平日だからこの設定なのかな。時計を確認したら3:45頃だったのですが、時間感覚がおおらかな台湾にしては珍しく分単位で時間を守っており、「4時にならないとお湯が熱くならない」と頑な態度でしたので、仕方なく一旦外に出て時間を潰し、時計の針が16時を過ぎたことを確認してから、改めてフロントを訪問して、ようやく入浴することができました。

台湾東部の温泉にしてはちょっと高めの入浴料250元を支払うと、引き換えに不織布ガーゼみたいな薄っぺらい使い捨てタオルみたいなもの手渡してくれました。でも吸水性が良くないのであまり役に立たず、結局は持参したタオルを使いましたけどね。フロントの奥へ進んで建物の反対側から屋外へ出た先に温泉プールが広がっていました。きちんと確認したわけではありませんが、どうやら内湯等は無いらしく、温泉は水着着用の屋外温泉プールのみのようです。目の前に天龍吊り橋の主塔が聳え立っており、まわりはガーデンのように整備されていて清々しく開放的です。


 
(右or下画像はクリックで拡大)
建物に内包されているシャワールームの他、屋外に増設された着替えルームも使用可能です。この増設小屋の側面には温泉に関する説明が大きく掲示されていましたので、その内容を掻い摘んで箇条書きにしてみましょう。
・泉質はフッ素を含む炭酸泉。
・pH8.2~8.8で飲用可能。
・100%源泉で、50℃近い源泉を空気調和により(著者註:熱交換のことか)入浴に適した38~42℃へ下げている。
・湯の華を含む温泉である。
・温泉として規定される基準の4倍以上のミネラルが含まれている。
湯の華に関しては画像まで添えて詳しく説明しており、同内容の解説が英語でも併記されています。この温泉がどんな性質でいかに良質であるか、そのことを伝えたい情熱が情報量からひしひしと伝わってきました。実際にどんなお湯なのか、入ってみることにしましょう。


 
浴槽は3つに分かれており、最も小さな半円の槽は水風呂。一方、奥の大きなU字型を描くタイル貼りの槽(上画像)は、ぬるいお湯が張られているSPA槽です。台湾の温泉施設ではおなじみの「沖撃湯」(打たせ湯)の他、泡風呂、寝湯など諸々の設備が用意されており、水遊びするにはもってこいです。


 

SPA槽の手前側にある岩風呂は40℃強のお湯が張られた温泉槽で、日本の温泉旅館の露天風呂を彷彿とさせます。SPA槽の3分の1程度の大きさですが、それでも十数人は同時に入れちゃいそうな余裕があります。流路が褐色に染まった石積みの湯口から温泉が注がれており、湯船を満たしたお湯は、お隣のSPA槽へと流下していました。


 
説明プレートに記されていたように、岩風呂の湯中ではたくさんの湯の華が見られます。ここでの湯の華は2種類に分けられ、湯面では薄い膜が粉々に砕かれたような白い微細なものが浮かんでおり、湯中や底面では海綿を千切ったようなベージュ色の塊が無数に浮遊および沈殿していました。説明によれば、湯面の白いものは「初期浮在水面的温泉花」で、ベージュの塊は「凝結沈在水底的温泉花」とのことですから、まさにその説明通りの湯の華を確認できたわけです。


 
湯口における実測値は50.6℃でpH8.0でしたから、お宿側の説明とほぼ一致しますね(pHはやや中性寄りですけど)。お湯は無色澄明でとてもクリアですが、上述のように湯口の流路や岩風呂の表面は、温泉成分によって褐色に染まっていました。説明では泉質は炭酸泉と書かれていましたが、日本の温泉法的な表現で言い換えると、碧山温泉や栗松温泉など界隈で湧出する温泉と同様に、重炭酸イオンを多く含む塩化土類泉系かと思われます。

私が実際に入浴していて不思議に感じたのが、湯口から出るお湯が徐々に変質していったことです。フロントで受付を済ませてホテルの建物を抜け、屋外に出るドアを開けてプールゾーンへと足を踏み入れた瞬間、辺りには温泉由来と思しきタマゴ臭(硫化水素臭)が漂っており、その湯の香に興奮した私が即座に、湯口からトポトポと注がれているお湯をテイスティングすると、明瞭なタマゴ味とタマゴ臭、そして薄い塩味に石膏味が感じられました。でもフロントのお姉さんが言っていたように、この時点ではまだ吐出温度はさほど高くなく、体感で40℃に満たない程度でした。

それからしばらく経過すると吐出量が増え、これに伴って湯船の温度も上がってきたので、改めて湯口を確認してみると、上画像のような50℃オーバーの状態となっていたのですが、温度上昇と引き換えに何故かタマゴ感が消え、一方で焼き石膏のような芳ばしい香りがはっきりと漂いはじめたのです。なお薄い塩味は時間を問わず常に確認できました。
人間の嗅覚は、同じ匂いを嗅ぎ続けているとその匂いに慣れて鈍感になってしまいますから、それが原因でタマゴ臭がわからなくなったのかもしれませんが、並行して吐出量の増加や温度の上昇も見られましたから、温泉管理者が温泉配管のコックを大きく開いて吐出量を増やしたことで何らかの変質がもたらされたのかもしれませんし、あるいは複数の異なる源泉を使い分けているのかもしれません。言葉が通じたらフロントの人に質問できたのですけど、残念ながら私は台湾語も中国語もわかりませんので、結局そのあたりの謎が解けないまま今日に至っております。

お湯の変質についてはさておき、岩風呂のお湯は弱いツルスベと石膏由来の引っ掛かりが混在しており、入浴中はしっとりと包み込むような優しいフィーリングが肌に伝わってきます。湯の華が多いにもかかわらずお湯は大変クリアで鮮度感もまずまず。岩風呂のお湯は隣の大きなSPA槽へと流れて、その湯尻から排湯されており、少なくとも岩風呂に関しては掛け流しかそれに準じた湯使いではないかと思われます。
はじめはぬるかったお風呂も時間の経過とともに良い湯加減になり、私好みの湯温になったものですから、お湯を全身で感じるべく肩までしっかり湯浴みしたところ、湯上がりには汗が止まらなくなるほど体の芯までパワフルに温まりました。
標高が高いので日中でも比較的涼しく、自然環境に恵まれていますから空気がとても爽やかです。決して新しい施設ではないのですが、きちんと手入れされているため、設備面や衛生状態等に問題はありませんでした。屋根などの無い開放的な空間のもと、ガーデンの可憐な花々や峡谷の緑を目にし、上空を飛び交う小鳥の囀りをBGMにしながらの入浴はとても爽快で、心ゆくまで寛げました。


台東県海端郷霧鹿村1-1号
089-935075
ホームページ

日帰り入浴時間不明(私の訪問時は16時から受付開始でした)
250元
シャンプー類あり

私の好み:★★+0.5
コメント
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