

前回記事の多良駅跡では太平洋を一望する絶景に心を奪われましたが、駅へ至る急坂を登り降りしていたら汗をたっぷりかいてしまったので、入浴してサッパリするべく、当初は訪問予定の無かった近所の金崙温泉へ立ち寄ることにしました。当地では温泉施設が数軒営業していますが、今回利用したのは「遠山功夫温泉」という民宿です。この時の私は単に汗を流したかっただけなので、正直なところ、何処で入浴しても良かったのですが、3年前に金崙温泉で一泊してここの前を通り過ぎた際、日本人名のようなインパクトのある名前に関心を抱き、それ以来「どんな温泉なのか」ちょっと気になっていたので、今回こちらを訪れたわけです。トオヤマイサオさんというお名前は各都道府県に必ず数人いるでしょうし、功夫(カンフー)と読んでみてもブルース・リーを想起させるのでやっぱり気になっちゃいます。
消防署の前から山側へ伸びるアプローチに入ると、緩やかな斜面に沿って敷地が広がっており、母屋やプールなどが段々になっていました。最下段の駐車場の傍にあるプールは空っぽでしたが、その一段上からは水の飛沫の音が聞こえてきますので、坂を登って上段を目指します。


プールの出入口には受付小屋があり、そのカウンターではパイワン族の家族が来客の対応をしていました。トオヤマイサオさんがいるわけでもなく、「アチョーッ」と功夫の技が繰り出されるわけでもなく、幼稚園児くらいの小さな男の子が元気に辺りを走り回っているだけで、至って長閑な田舎の一風景といった感じです。


園内には4つのプールがあり、その上部をスチール製の頑丈な屋根が覆っています。屋根付きの屋外温泉プールといった感じです。大きな屋根は南国の刺すような陽射しや強烈な風雨からプールを護ってくれるのでしょう。小高いプールサイドから東側を望むと、建物や木々の間から海を眺めることができました。
訪問したのは金曜日の昼下がり。中高年のお客さんが、静かに温泉プールで湯浴みしていたり、プールサイドでお茶を飲みながら寛いだりと、静かでのんびりとした時間が流れていました。


受付小屋と反対側のプールサイドには個室風呂が並んでいました。水着の温泉入浴なんてイヤだという方にはこちらを使うことになるかと思いますが、一般的な台湾の個室風呂と同様に、窓のない狭っ苦しい個室にバスタブが据え付けられているだけで、温泉風情はありません。個室風呂群の左端にはドライヤーが用意されており、傍らにはすっかり色褪せた京都龍安寺の枯山水と和服女性の写真が飾られていました。温泉といえば日本というイメージが強いのかな。


個室風呂群の更に奥にシャワーブースがあるので、そこで水着に着替えます。おそらくシャワーのお湯は温泉かと思われます。なお台湾の温泉プールではおなじみの脱水機もありますよ。


4つのプールのうち、ひとつは空っぽでしたが、2つには温泉が張られ、残る1つは水風呂でした。2つの温泉槽は温度が異なっており、上画像のぬるめ槽は造りがやや浅く、コーナー部は直線状に斜めにカットされており、縁や槽内など全面的にタイル貼りです。お湯の温度は40℃を下回る程度ですから、湯温で逆上せるようなことはありません。浅いといっても、一般的なプールと比べて浅いだけであり、お尻をついて入浴すると丁度良い嵩になるような、いわゆるお風呂に近い深さに設計されていました。その一方で、台湾の入浴施設ではおなじみの「沖撃湯」(強力な打たせ湯)も設けられていますので、お湯の熱さを気にすること無く、のんびり入浴するには丁度良いのかも。
温泉は太いパイプから供給されており、その吐出口には布が巻かれていました。槽のキャパに対して投入量は少なめで、オーバーフローも見られず、お湯は鈍り気味でした。




ぬるい槽のお隣(海側)にある熱い槽は、タテヨコの寸法こそぬるい槽と同じですが、コーナー部は丸く加工され、コンクリ打ちっぱなしの側面には化粧石が埋め込まれており、身長165cmの私の臍下まで浸かる深さがあって、構造的にちょっとした差別化が図られていました。湯加減は43℃前後で、南国の陽気でこの温度のお湯に入ると、かなり熱く感じますが、そんな熱さに心地よさを覚えるのか、多くのお客さんは熱い槽に好んで入っていらっしゃいました。
こちらの湯口にも布が巻かれていますが、その吐出量はぬるい槽より明らかに多く、それゆえ鮮度感はこちらの方がはるかに良好です。お湯はこのパイプだけでなく、プールサイドに立っている「熱水出口」と書かれたプレートの下部(槽内)からも供給されていて、どちらかと言えば、量としてはこの槽内投入の方がメインのようでした(吐出口付近はかなり熱いので注意)。また、時間によって投入量には増減が見られ、ドバドバ出されている時にはオーバーフローも多くなり、海側のプールサイドは排水が追いつかずに洪水状態になっていました。なお投入量調整が自動か手動なのかはわかりません。
プールに張られてるお湯はごく薄い山吹色を帯びた笹濁りなのですが、槽内のタイルの影響なのか、わずかにエメラルドグリーンを帯びているようにも見えます。湯面からは塩化土類泉によくある芳ばしい湯の香が漂っており、湯口のお湯をテイスティングしてみますと、淡い塩味と石膏味が感じられました。弱いツルスベの中にしっかりとした引っ掛かりが混在しており、後者の浴感が優っています。総じて言えば、お湯のフィーリングは以前宿泊した「美の濱温泉渡暇村」とほとんど同じかも。壁に張ってあった案内によれば、泉質は「碳酸鈣泉質」とのこと。正しくは「碳酸氫鈣泉」のことを指していると推測され、日本的に表記すればカルシウム-炭酸水素塩泉になるかと思います。でも淡い塩味が含まれていましたから、実際にはカルシウム・ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉なのかな(CaとNaおよびHCO3とClの順番は逆かもしれませんけど)。


お湯の浴感は熱いプールの方がはるかに良いのですが、気温30℃近い陽気の中で熱いお風呂に入っているのは体力的にかなりキツイものです。そんな時にとっても気持ち良かったのが青い槽の冷水プール(水風呂)。熱いプールで逆上せるギリギリまで浸かった後、この水風呂へ一気に入ると、なんとも言えない爽快感が全身を駆け巡り、その気持ち良さが病み付きになって、熱い槽と冷水プールを何度も行き来してしまいました。
わざわざ遠くからここを目指して出かけるほどではありませんが、静かでのんびりとした環境の下、まずまずの温泉と爽快な水風呂を廉価で楽しむことができるので、台東周辺を車で観光している途中に、ちょっと立ち寄ってみるのも良いかもしれませんね。
碳酸氫鈣泉 75~85℃ pH8.0
台東県太麻里郷金崙村14鄰17号 地図
089-772122
平日8:00~18:00, 休日8:00~21:00
100元
ドライヤーあり
水着・水泳帽着用
私の好み:★★