前々回記事の多良駅、そして前回記事の金崙温泉と、台東県の海岸沿いをレンタカーで北上しておりますが、せっかくですので台東県随一の温泉地である知本温泉にも立ち寄ることにしました。知本温泉は大規模なホテルが立ち並ぶ外温泉エリアと、中小規模旅館が多い内温泉エリアに分かれていますが、今回訪問したのは外温泉にある「忠義堂」という名の関帝廟です。一見すると温泉施設とは関係無さそうな、台湾ならどこにでもありそうな道教の廟ですが、こちらの施設は『地球の歩き方』でも温泉施設として紹介されており、ネット上にも多くの訪問記がアップされていますので、知本温泉の中でも知名度は高い施設かと思います。以前拙ブログでは内温泉の「開天宮」という廟で入浴しておりますが、知本温泉では宗教と温泉(沐浴)に密接な結びつきがあるのかもしれませんね。
外温泉エリアは知本渓という大きな河川の右岸にメインストリート(龍泉路)が近接しており、ホテルなど諸施設は通りの南側(山側)に偏って建てられているのですが、この忠義堂は川と道路に挟まれた通りの北側(川側)に位置しており、周囲の高い建物に埋没すること無く、通りからも赤い看板がよく目立っていました。見晴らしの良い河原と地続きであり、広い駐車場も利用可能です。建物の裏手には貯湯タンクがあり、その上から湯気が上がっていました。
関羽が祀られている真っ赤なお堂の左側から奥の方へ入ると、殺風景な小部屋が続いており、そこにはベンチや湯沸し器、そしてコインタイマー式ドライヤーなどが設けられていました。けだし風呂上がりに一息つく空間なんでしょうけど、それにしてはちょっとホコリっぽいかな。この部屋からステップを上がって更に奥へ出る出入口の右側に、真っ赤に塗られ「浴室楽捐箱」と書かれた箱が括りつけられていますが、読んで字の如くこれはいわゆる賽銭箱で、お風呂を利用する際には、入浴料の代わりにこちらへ気持ちを納めるわけです。番台のようなものは無いので、完全にお客さんの善意を信用しているのですが、神様が間近で見ていますから無銭入浴したら罰が当たるかもしれませんね。なお金額は特に定まっていませんが、台東エリアにおける日帰り入浴料金の相場は100元前後ですので、この時はそれに準じた金額を納めさせていただきました(後で知ったところによれば、どうやら相場は20~30元らしいのですが…)。
お堂の裏手には二階建ての長屋のような建物が建ち、その1階部分には個室風呂のドアがズラリと並んでいました。どことなく薄暗く雑然とした雰囲気で、2階の手すりにはヨレヨレの洗濯物が掛かっており、他人の生活領域に踏み込んじゃったような戸惑いを覚えます。ドアに貼ってある「利用者はお金を納めてね」というポスターが、客相手の施設であることを示しているのですが、ひなびた温泉に慣れていない普通の観光客でしたら、このジメッとした怪しげな佇まいに怖気づいて腰が引けてしまうかも。
1階の壁には県が発行した営業許可証が張り出されており「薄汚くてもちゃんと許可もらってんだぞ」と言わんばかりに温泉としての正当性を誇示していました。この書類には温泉の泉質なども併記されていたのですが、その内容がかなりアバウト。碳酸氫鹽泉(日本語では炭酸水素塩泉)という泉質名は良いのですが、温度は30℃以上、炭酸水素イオンは250mg以上、溶解性蒸発残留物(TDS)500mg以上など、多くのデータが「~以上」という曖昧な表現で誤魔化されており、具体的な数値が示されていません。おそらく「規定以上の成分が含まれているから温泉だと認められるよ」と主張したいのでしょうけど、こうしたいい加減さはいかにも台湾らしく、私としては微笑ましさを感じます。
需要の高い夕刻に訪れたためか、いくつかの個室は使用中で、内側からバシャバシャと掛け湯する音が響いてきました。お風呂は空いている任意の部屋を使えます。よく見ると上画像の2部屋は、ドアの高さが異なっていますね。「細けぇ見た目はどうでもいいじゃん。使えりゃ良いべさ」というこの適当さも実に台湾らしい。
どの部屋も同じようなレイアウトで、2畳ほどのスペースに一人用のバスタブがひとつ設けられ、床にスツールがひとつ、そして壁に服を掛けるフックが取り付けられている程度の、至って簡素な造りです。石鹸もタオルも何にもありませんから、お風呂道具は事前に用意しておく必要があります。今回は右(下)画像の個室を利用しました。狭い室内には脱衣スペースと洗い場の区別は無く、掛け湯をすると室内の床全面がビショビショになりますから、足元が濡れても構わないサンダル等での訪問をおすすめします。
お湯は使う度に張りかえます。つまり入室時の湯船は空っぽですので、入室したらまずはお湯のコックを開いてお湯を溜めます。持参の計器で測ったところ、温度は62.8℃、pH9.0という数値が表示されました。コックを全開にするとドバドバとかなりの量が吐出されるのですが、60℃以上のお湯そのままでは激熱なので、相当量の加水も要します。お湯と水の同時大量投入により、あっという間に十分な嵩まで溜まってくれます。
お湯を張る前と後で比較してみました。洗い出しのような材質の浴槽に張られたお湯は、無色透明で薄っすらとタマゴ臭が香り、ほんのりとしたタマゴ味が得られます。また土類泉系の芳ばしい香りも少々感じられました。pH9.0というアルカリ性に傾いた数値は伊達じゃなく、手で掻くとはっきりとしたトロミがあり、湯船の中ではまるでローションに浸かっているかのような強いツルツルスベスベ浴感が全身を包み、入浴中は何度も自分の肌を擦ってそのなめらかな感触を楽しみました。重曹泉系かつアルカリ性という特徴がそうした浴感をもたらしているのでしょうね。あくまで個人的見解ですが、美肌の湯としてアピールしても良いのではないかな。
もっとも、中華圏によくある雑多な庶民的雰囲気に慣れていないと怖さを覚えてしまうでしょうし、お世辞にも綺麗と言えるような状態ではないので、清潔さを求める人にも難しいかもしれません。ガイドブックに載っているからといって万人受けするとは限らないことを示す好例だと思いますが、でもお湯の良さは本物であり、使う度にお湯を張り替えますから、お湯自体はとってもクリアです。知本温泉で宿泊し、ホテルのお湯にいまいち満足できなかったら、散歩がてらにこちらへ立ち寄り、この簡素なお風呂で一浴するのも良いかもしれません。
碳酸氫鹽泉(炭酸水素塩泉) 30℃以上 HCO3-:250mg以上, 溶解性蒸発残留物(TDS)500mg以上
台東バスターミナルから鼎東客運(山線)の知本温泉(内温泉)行バスで「知本温泉」バス停下車
台東県卑南郷温泉村龍泉路38号 地図
7:30~21:30
寸志
有料ドライヤー(10元)あり
私の好み:★★+0.5