温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

トータス温泉

2009年12月15日 | 山梨県


不思議な名前が附けられたこの温泉は、国道20号バイパスと国道358号線(平和通り)がクロスする中小河原立体交差のすぐそばに立地する公衆浴場です。幹線道路の交差点至近にありながら、国道358号線に面したマンションの裏手に建てられているので、初めての方だとかなり見つけにくいかと思います。表通りのマンション(1階に消費者金融の店舗有り)には看板が掲示されているので、それを見逃さないようにしてください。駐車場は正面や裏手に用意されています。

建物は最近建てられた比較的新しいものながら、外観は控えめな感じ。中に入って靴を鍵付きの下駄箱に収め、券売機で入浴券を購入し、受付のおばちゃんに券と下駄箱の鍵を渡すと、それと引き換えに脱衣所のロッカーキーが手渡されます。このロッカーは番号指定になっています。尚、受付ロビーの横には休憩室が設けられています。
お風呂は内湯2つと露天風呂から構成され、シャワー付きのカランが9つ、新しい建物なのにカランは昔ながらの押しバネ式、つまり栓を押している間だけ湯水がジャーと出るタイプのもので、カランから出てくるお湯は源泉です。使い勝手のよい水栓にすればよいものを、わざわざ旧式のカランを取り付けたのは、この浴場と経営母体が同じである遊亀温泉(後日紹介する予定)と備品類を共通化する目的があるのかもしれません。
内湯の浴槽は6~7人サイズで奥の窓に面している主浴槽(41℃くらい)と、3~4人サイズでやや熱め(43℃くらい)の副浴槽に分かれています。いずれもタイル貼りで縁は御影石、双方ともにライオンの顔の湯口が設けられ、副浴槽に注がれたお湯はオーバーフローする形で隣の主浴槽へ流れ込み、そのお湯と湯口からの投入を受ける主浴槽のお湯は、浴槽の底半分に取り付けられたバイブラの泡の勢いも手伝って、洗い場へザバザバとふんだんに溢れ出し、床はちょっとした洪水状態です。

一方の露天風呂は6~7人サイズの岩風呂で、2本の湯口から大量に源泉が注がれ、主浴槽同様にこちらもバイブラの泡が底からブクブク作動していますが、オーバーフローは専用の排水口へ集められるようになっています。外気に冷やされているためか湯温は若干ぬるめの39℃、周囲を壁で囲ってあるため景色は全く楽しめませんが、腰をかけたり横になったりできるスペースが確保されているので、火照った体をクールダウンさせたいときなどには有り難い配慮です。

お湯は甲府盆地の温泉の典型的な特徴、即ちモール泉的特徴・つるすべ感・泡付きという条件を全て満たしています。麦茶のような褐色の透明、モール泉的な匂いに微かな金気臭、弱い重曹の味に微かな金気の味、つるつるすべすべした気持ちよい浴感、お湯に浸かっていると全身に付着する気泡。かなりの良泉です。泡付きについては内湯の副浴槽(熱い方)が秀でており、他の浴槽は加水されているのか、副浴槽ほどの泡つきはみられませんでした。また、この温泉には何度か訪れていますが、その度に徐々にモール臭が弱くなっているのが気がかりです(気のせいならいいのですが)。

なお、露天風呂には山梨県の温泉ではお馴染み、O短大の名誉教授T氏による解説文プレートが、これでもかというほど大きく掲示されています。また、いつの間にやら地層断面図まで貼り出されるようになりました。T氏の解説文は山梨県内各所の温泉で見ることができますが、この文章には大げさな修辞で彩られたテンプレートがあって、それに各温泉固有の名称や性質・データなどをあてはめているだけの、端的に言えばかわり映えの無いやっつけ仕事的な文章なのです。でも何度かお目にかかっているうちに、氏の文章を見ないと甲州の温泉に来た実感が湧かなくなってしまいました。偉大なるマンネリとでも言いましょうか。ちなみにT氏によるトータス温泉の解説文は下でリンクしているページで読めます(ここのお湯は「金の湯」という別称があるようですが、この命名者もT教授。いかにもT氏らしいネーミングセンスです)。

重曹のおかげで湯上りはさっぱり且つすべすべ、それでいて温まりも抜群。甲府盆地の温泉の特徴とはどういうものかを知りたい方や、手軽に掛け流しの温泉を楽しみたい方にはおすすめの浴場だと思います。


内湯(左が主浴槽、右が副浴槽)


ライオンの湯口
新しい建物なのにこうした古いセンスの湯口や旧式の水栓が取り付けられている点は、津軽地方の温泉浴場のようです


露天風呂


ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉
58.1℃ pH7.8 199.7L/min(掘削揚湯) 成分総計1743g/kg

山梨県甲府市中小河原町668 地図
055-243-2889
ホームページ

10:00~23:00 水曜定休
500円
ドライヤー有り(以前はシャンプー類もありましたが最近は無くなったようです)

私の好み:★★★







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フカサワ温泉

2009年12月14日 | 山梨県


中央道の甲府昭和インター付近には温泉浴場が点在していますが、フカサワ温泉もその一つで、お湯の良さが温泉ファンの間で評判になっており、かく言う私もこちらには何度となくお世話になっています。外観は特に風情が感じられない平屋の建物で、入口だけ三角屋根。エントランスや駐車場は広くとられているものの、並びの飲み屋さんと同化してしまって、案外見つけにくいかもしれません。にもかかわらず、いつ行っても地元のお客さんで賑わっています。

浴室にはタイル貼りで7~8人サイズの主浴槽、3~4人サイズの副浴槽、そして外に出ると岩造りで3~4人サイズの露天風呂が設けられています。カランは4ヶ所で、出てくるお湯は源泉ですが、設置数が少ないため、混雑時にはカラン待ちが発生するかもしれません。各浴槽とも源泉そのままのお湯が注がれ、主浴槽は丁度良い湯加減、副浴槽には主浴槽とほぼ同量のお湯が注がれているために主浴槽よりは若干熱め、露天は外気で冷やされ若干ぬるめ。

 
左:主浴槽
右:副浴槽


4つあるカラン


お湯は薄い烏龍茶の色を帯びた透明で、微かな金気味と苦味、そして重曹味が感じられ、甲府盆地の温泉らしくモール泉の匂いがやさしく香ります。特に副浴槽の湯口に置かれたコップでゴクッと飲んでみると、モールならではの風味が喉から鼻へ抜けるので、飲泉することによってより一層ここのお湯の特徴を掴めることと思います。

この温泉で特筆すべきは泡つきの凄さにあります。お湯に入ると忽ち全身が遊離炭酸ガスの気泡に包まれ、拭っても拭っても付着してきます。露天風呂と副浴槽ではこれが顕著で、露天の湯口から出てくるお湯は、ゴボゴボ・シュワシュワと勢いよい音を立てながら大量の泡とともに浴槽へ注がれ、湯口付近は泡で真っ白です。お湯に含まれる重曹分のため、つるつるすべすべとした気持ちよい浴感が得られますが、泡が加勢することにより湯中でもスベスベ感がより強調されて、誰しもがこのお湯の虜になってしまうのです。


見えにくいかもしれませんが、腕にビッシリ気泡が付着するを撮ってみました


露天風呂は壁で囲まれているものの、その上からは南アルプスの稜線がハッキリと見え、小さいながらもなかなかの開放感です。地元密着型の浴場は内湯のみで露天がないことが多いのですが、ここはちゃんと設けられているので、開放感を得たいときや火照った体を冷ましたいときにはとても有り難い空間です。

泡つきのお湯が多い甲府盆地の温泉でも、ここの泡つきの多さは屈指ではないでしょうか。しかも、炭酸ガスの温浴効果と、重曹のさっぱり効果の両方が得られるという点も素晴らしいと思います。

 
左:露天風呂
右:露天風呂の湯口は気泡で白く濁ってみえます


ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉
45.9℃ pH7.3 200L/min(動力揚湯) 成分総計1435mg/kg

JR身延線・国母駅 徒歩20分(1.8km)
山梨県中巨摩郡昭和町西条1961-1 地図
055-275-5361

9:00~22:00 木曜定休
420円
100円コインリターン式ロッカーあり(ドライヤー・シャンプー類なし)

私の好み:★★★
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一人の温泉ファンが考察する、甲府盆地と人吉盆地の相似性

2009年12月13日 | その他
当ブログではここ数日は連続して人吉盆地の温泉を紹介してきました。まだまだ人吉の温泉を紹介したいのですが、それはまた後日にして、今回は或る地域を取り上げ、そこと人吉盆地を比較してみたいのです。その地域とは山梨県の甲府盆地。私はこれまで日本全国の温泉を巡ってきましたが、先日甲府盆地にある馴染みの温泉に入っているとき、ふとこんなことに気づいたのです…甲府盆地の温泉は人吉盆地の温泉に似ている、と。山梨県と熊本県という遠く離れた両県が有するそれぞれの盆地に湧く温泉にはどんな共通点があるのでしょうか。

甲府盆地は温泉の共同浴場が至るところにあり、また首都圏からそんなに離れておらず容易に日帰りができるので、私は足繁く通って当地の温泉を楽しんでいます。甲府盆地の温泉の特徴として、まず使われ方から見てゆくと、
・石和以外は歓楽的要素が少なく、共同浴場かビジネスホテルの浴場という形式をとっている
・軒数が多く、料金が比較的安い。地元の生活に密着している
といった共通点が挙げられ、また泉質面で考えてゆくと、
・モール泉的性質(褐色系の色覚、モール泉独特の匂いと味)
・つるつるすべすべ
・泡つき
などの特徴が多少の違いはあれども共通して見られます。

一方、人吉盆地について同様に見てゆくと、
・共同浴場・旅館を問わず使われているが、全般的に歓楽的要素は少ない
・人口のわりに共同浴場が非常に多く、且つ料金設定もかなり低い。地元の生活に密着している。
泉質面では、
・モール泉的性質(同上)
・つるつるすべすべ
・泡つき
というように、甲府盆地の温泉群が有する特徴とかなり一致しているのです。これは単なる偶然の一致と見るべきでしょうか。いや、何かあるはずだ、そう思って両盆地を調べていくうちに、その構造的特徴にも共通点があることがわかりました。

いわゆる盆地は、地層や岩石の軟らかい所が侵食されて周囲より低くなった「侵食盆地」と、地球のプレート活動に伴う地殻変動の力を受けて沈降した「構造盆地」の二つに分類することができ、甲府盆地と人吉盆地はともに「構造盆地」に属します。
甲府盆地はフォッサマグナという大きな地溝を象徴する地形であり、甲府盆地の北西に位置する諏訪盆地や松本盆地も同様です。甲府盆地の場合は約200万年前の第三紀鮮新世末期に、地殻変動によって今の盆地の部分が沈降し、逆にその周囲が隆起することによって、深い大きな盆地が形成されました。その後周囲の山から流れてくる川の堆積作用によって盆地内部が砂や礫で埋まり現在に至っています。盆地の地下1000mの地層は花崗岩や安山岩と同質の岩石によって構成されていますが、周囲の2000m級の山々を構成している岩石も同質のものであることから考えると、沈降と隆起が起きてから200万年の間で3000mもの差が生まれ、また周囲の山々から運ばれ堆積していった層は1000mも積もっていることがわかります。
盆地の地下1000mの地層を構成する岩石は不透水性ですが、その上に積もった砂や礫は透水性です。このため地表に降った雨は長い年月をかけて地下深くへと滲みこんでゆき、地下1000mの不透水層(基盤岩)の上に貯まります。そして基盤岩の下から供給される熱によってその貯まった水が温められ、温泉水となります。甲府盆地の沈降と隆起は現在も続いており、逆三角形をした甲府盆地の南端にあたる鰍沢町禹の瀬は隆起が起きているところなので、これが地下ダムの役割を果たして、甲府盆地では地下水や温泉水が沢山涵養されます。この地下ダムに貯まった温泉水をボーリングで汲み上げて我々は温泉として利用しているわけです。

一方の人吉盆地も同じく、第三紀鮮新世末期に起きた地殻変動によって今の盆地の部分が沈降し、西側に開けた入り江や低地が形成されました。その後肥薩火山群、つまり国見山地が噴火・隆起したことによって西側が塞がれて四方が山に囲まれる盆地となり、この盆地に水が貯まっては「古人吉湖」と呼ばれる湖ができたといわれています。この湖はおよそ100万年前に消え、湖の跡地に砂や礫が堆積して、現在の人吉盆地ができあがったそうです。
甲府盆地同様に人吉盆地の地下深くには不透水の基盤岩が横たわり、その上には地下水が貯まっているわけで、これが地熱により温まって温泉水になります。かつて湖があったということは、その湖底に蓄積された有機物が地下深いところに閉じ込められ、それによってモール泉が誕生した、という発想も、聊か短絡的かもしれませんが可能です。

要するに甲府盆地の温泉も、人吉盆地の温泉も、地殻変動によって構造盆地が形成され、その地下深くにある不透水層(基盤岩)の上に貯まって温められた地下水(温泉水)を汲み上げているという点が共通しているわけです。それでは、そうした地下水(温泉水)がどうして似た特徴を示すのか、については、私はよくわかりません。偉そうに問題提起しておきながら、尻すぼみのオチで申し訳ありません。天水や地表の水が砂や礫の層を透過して不透水層に到達するまでの間、あるいは到達してから汲み上げられるまでの間に、何らかの作用がなされ、それが両盆地の温泉水に共通した性質をもたらすのでしょう。

しかしこうした温泉水は長い年月をかけてようやく地下深くに貯まったものであり、なかなか供給されるものではありません。数百から数千年はかかるとみられています。人間が汲み上げて使うと、どうしても汲み上げ量が供給量を上回ってしまうため、やがて温泉水は涸渇してしまいます。甲府盆地と比べてはるかに小さい人吉盆地の温泉は、実際にあちらこちらで涸渇したり、あるいは湧出量が減ったりしています。甲府盆地の温泉浴場では湯量豊富に掛け流しているところが多いのですが、これとて有限な資源ですからいずれは涸れてしまうでしょう。限りある温泉を贅沢に使いきってしまうのがいいのか、吝嗇ながら細々と使うのが、判断が分かれるところだと思います。温泉ファンの一人として私も、掛け流しのお湯に入りたい願望もあれば、そのお湯がいつまでも湧き続けて涸れて欲しくないという希望も持っています。願望と希望の両方に心が引き裂かれる思いです。

次回からは連続して甲府盆地の温泉を取り上げるつもりですが、甲府盆地が有するこうした状況をふまえたうえで読んでいただくとより一層理解が深まるかと思います。
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人吉温泉 新温泉

2009年12月12日 | 熊本県
※残念ながら閉館しました。



今年の漢字が「新」に決まったというニュースが流れていたので、もう既に食傷気味ではありますが「新」にまつわる温泉を取り上げます。人吉の街中にある「新温泉」は、新と名乗っておきながら、えらく古めかしい共同浴場です。市街の中心部にありながら、まるでここだけ時空に歪みが生じて時代の変化に取り残されたかのような築80年弱の木造湯屋が、裏路地にひっそりと佇んでいます。鶴亀温泉といい堤温泉といい、人吉という街は時の流れにあらがうように、古い温泉浴場を昔のままの姿で大切に守り抜こうとする崇高な文化を有しているようです。

貫禄の漂う重厚感のある木造建築は、昭和6(1931)年にこの浴場が開業して以来のもの。豪家や商家ならともかく、湿気で劣化・腐食が進行しがちな湯屋にもかかわらず、80年近くの歳月を経てもずっとそのままの姿を保ち続けているということは、余程質の良い材木を用い、腕の良い職人さんが仕事をしたに違いありません。
正面向かって左が女湯、右が男湯。それぞれ入口上には扇形で男女の別を示すプレートが掲示されています。中に入るとすぐに番台があるので、ニャンコを膝に抱くお婆ちゃんに料金を支払います。脱衣所もこれまた懐古の香りが漂う空間で、板張りの床には年代物の体重計、そして懐かしいぶら下がり健康器が置かれ、衣類を入れる籐の籠が積まれ、そして壁にはアルプスを思わせる山の風景画と、枝にとまる三羽の燕らしき小鳥が描かれた、それぞれ手描きの広告看板が飾られて、室内に彩を放っています。


扇形のプレートに右書きで「湯女」「湯男」と書かれた入口

 
左:浴室の様子。常連さんの盥が置かれた棚、そしてぶら下がり健康器のある光景
右:壁絵は万屋さんの広告


浴室はガラス窓に囲まれていてとても明るく、且つ広々としています。洗い場、浴槽共にコンクリート打ちっぱなしで、槽は左右に二つあり、男湯の場合、右手が浅く、左手が一般的な深さです。左手の浴槽には湯口からお湯が注がれていますが、右手には注がれておらず湯温もかなりぬるめでした。カランが上がり湯ようの2つしか無いところをみると、右の浅い槽は、人吉の他の浴場同様、体を洗うときの掛け湯を汲むためのものと考えて間違いなさそうです。

 
左:浴槽 左手が主浴槽で右手が浅い槽
右:主浴槽


お湯は薄い紅茶の色を帯びた透明で、弱いタマゴの匂いと味が感じられました。人吉のお湯らしく、若干弱めですがツルスベとした浴感が気持ちよく、またぬるめ(39~40℃くらいか。冬季は加温)なので、つい長湯をしてしまいます。そして昔ながらの落ち着いた雰囲気漂う浴室にいる不思議な心地が、余計にお湯から上がらせようとしません。せっかくタイムスリップしたのだから、この浴場が歩んできた歴史に思いを馳せ、しばらくは昭和初期の空気に包まれていたいものです。昭和6年といえば満州事変が起きた年。昔から地元で生活していた人は勿論のこと、新天地を求めて満州等外地へ渡った人、召集令状を受けて戦地へ出征した人、戦後の高度経済成長を支えた人、そうした歴史のひとつひとつを築いていった先人も同じこのお湯に浸かって汗を流したのでしょう。そうと思うと、湯浴みをしている自分が歴史と融合しているかのような感覚になり、お風呂と共に時空間を旅して、そして現在を見つめなおすという、ちょっとした哲学にも耽ることができました。


お風呂に浸かりながら脱衣所の方を眺めてみました


湯上りに脱衣所を見回していると、入口付近の柱や壁に何箇所か白いテープが貼られ、それらには年月日と時間、そして「水位」という文字が書かれていることに気づきました。急流で有名な球磨川とその支流は昔から氾濫を繰り返し、その度に四方を山に囲まれた人吉盆地は水害の憂き目に遭ってきたわけですが、白いテープは人吉が今まで蒙ってきた水害において、この浴場がどの位のまで浸水してしまったかを記録したものだったのです。特に昭和40年7月の大洪水は甚大な被害をもたらし、この浴場もずっぽり冠水してしまい、その時の水位を示すテープは地面から3メートル近くも高いところに貼られていました。この浴場はただ古いだけではなく、幾度と無く襲ってきた洪水にも耐え抜いてきた、誠に堅牢な湯屋だったのです。まさに歴史の生き証人。市はこの浴場を文化財に指定してもよいのではないかと思います。温故知新、なるほどこの古い浴場は新を教えてくれるわけですね。人吉を訪れた際には、是非お立ち寄りを。

 
左:入口扉の横には水害で浸水したときの水位が白いテープで貼られています
右:昭和40年7月の水位は天井に届きそうなほどの高さ。1階がまるまる飲みこまれたことになります


単純泉
固形物総量0.49g/kg(その他数値不明・掲示なし)

JR肥薩線・人吉駅 徒歩7分(550m)
熊本県人吉市紺屋町80-2 地図
0966-22-2020

※残念ながら閉館しました。
13:00~22:00
300円

私の好み:★★★
コメント (2)
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人吉 いわい温泉

2009年12月11日 | 熊本県


人吉市内に多く存在している温泉共同浴場のひとつで、ホテル「さ蔵」が運営している民間の施設なのですが、ここはちょっと普通ではなく、どういうことかと言えば、なんと24時間営業なのです。人吉は人口が約35,000人なのに、24時間もぶっ通しで営業するほどの需要があるんでしょうか。しかも24時間営業はここのみならず、私が知る限りではもう一軒あるので、この街の温泉にかける情熱というか執念というか、力の入れようには全く恐れ入るばかりです。

人吉駅前から伸びる通りを真っ直ぐ進んで人吉橋を渡り、駅から約1.5kmのところにあるローソンの角を左に入ってすぐのところにあります。破風となまこ壁を模した和風の建物はビジネスホテル「ひのき屋」を兼ねており、その1階が温泉浴場になっています。入口前には「いわい温泉白蛇神社」と名づけられた小さな祠が祀られ、手水には温泉が用いられ、その前には様々な姿勢をとっている幾体かのお地蔵さんが並べられていました。神道の祭壇に地蔵菩薩とは、近世以前の神仏習合の時代に戻ったかのような取り合わせです。

 
左:前にお地蔵さんが並ぶ「いわい温泉白蛇神社」
右:入口を入ったところ。券売機や自販機・ロッカーなどが並ぶ


中に入ると番台のようなものはなく無人で、券売機で入湯券を購入し、専用の箱に券を入れてから脱衣所へと向かいます。玄関ホールにはロッカーが設置されていますが、10円玉が必要なので、事前に用意しておきましょう。人吉の他の浴場と同様に、脱衣所と浴室の間には数段の差があります。その段差を下がった浴室は基本的にコンクリートで造られており、一部の梁や浴槽の縁などには木材が使われています。浴槽の真ん中には石臼の片方を縦にしたような形の湯口が据えつけられ、左側はバイブラ、右側は電気風呂になっていました。供給されるお湯の量は豊富で、ふんだんにオーバーフローしています。また浴室内にはこの主浴槽の他、後方に隠れ部屋のような狭い空間があって、そこにも小さな浴槽が設けられており、閉鎖的な個室感を楽しみたい方は、こちらの浴槽もいいかもしれません(胎内回帰欲求みたいなものでしょうか)。主浴槽の窓の外には、やはり小さく3人サイズ程度ですが露天風呂もあります。露天とはいえ、猫の額のような場所につくられており、建物と高い壁で囲まれているため、外の景色は見ることができません。

お湯は無色透明・ほぼ無味で、湯口では微かにモール泉の匂いが感じられました。お湯に浸かっていると、若干ですが泡付きがありました。また弱いながらツルスベ感もありました。湯口にはコップが置かれているので飲泉が可能です。人吉の温泉にはモール・つるすべ・泡付きという共通項が見られ、その中でそれぞれ個性を発揮していますが、周囲の強い個性に埋没するかのようにここの温泉はちょっと主張を遠慮しがちで、お湯の特徴が弱めであるような気がします。でも常連さんの心はガッチリ掴んでいるようで、私が入っている間は客脚が途絶えることはありませんでした。

 
左:主浴槽
右:隠し部屋のような小浴槽


こじんまりとした露天風呂


ナトリウム-炭酸水素塩・硫酸塩泉
48.0℃ pH7.49 210L/min 総成分量1824mg/kg

JR肥薩線・人吉駅 徒歩20分(1.5km)
熊本県人吉市西間下町143-3 地図
0966-24-8385
ホームページ

24時間営業(露天は23:00まで)
300円
ドライヤー10円・ロッカー10円

私の好み:★★
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