幾度も温泉巡りをしていると、変に通ぶって、地元に根ざした鄙びた施設こそが素晴らしく温泉の真髄だ、なんていう固定概念に拘泥しちゃって、ひどい場合には観光客向けの施設には見向きもしなくなる傾向すらありますが、鄙びていようが洗練されていようが、地元民向けであろうがあからさまな観光施設であろうが、良いものは良いと客観的に評価できないと、せっかく足を運んで遠くまで来ているのに、目の前にあるおいしい思いをみすみす見逃すことになりかねないわけです。
雲仙温泉の「小地獄温泉館」は国民宿舎「青雲荘」の附帯施設で観光客向けの日帰り温泉入浴施設。当地を紹介するガイドブックには必ず紹介されている観光客向け温泉施設の典型ですので、上述のような半可通丸出しのくだらない先入観に支配されつつある私は、当初訪れるつもりは無かったのですが、まぁ時間があるから寄ってみるべ、と特に期待もせずに入ってみたのでありました。
「八角堂?を二棟ならべた木造の湯屋がいかにも観光客に迎合していやがる」と私は外観を見ただけで早くも鼻息荒く、絶対に見下してやるぞという下衆な怪気炎を上げながら中へ突入。脱衣所は案の定中高年の観光客ばかりで、「やっぱり温泉素人ばかりじゃねぇか」といかにも温泉のすべてを知り尽くしたかのような不遜な態度で室内を見回しながら、いざ浴室へ。
そこには石造りの浴槽が大小ふたつ並んでおり、見事なまでにきれいな乳白色濁りのお湯が張られていました。大きい方の浴槽には湯口からお湯が直接注がれており、湯温は42~3℃くらい、一方小さな方はそれより若干ぬるめです。おそらく加水されているかと思いますが、お湯はしっかり掛け流し。浴槽傍の壁には、硫化水素中毒を防ぐ目的なのか、換気用のルーバーが取り付けられています。木造の湯屋と白いお湯とのコントラストが何とも言えないいい雰囲気です。そうです、いいお風呂なんですよ。
あれれ、さっきまで意気軒昂に虚勢を張っていた私はどこへ行ってしまったのかしら…。
ぬる湯槽の隣には打たせ湯もあり、ミルクのような硫黄のお湯を頭からかぶることができます。雲仙温泉郷の中でも小地獄は最大の湧出量(1日約440トン)を誇るだけあり、贅沢な湯使いは立派です。
火山性の硫黄泉ですが質感は結構マイルドで、口に含むと酸味が遅く舌に伝わり、頬をすぼめる収斂もゆっくりやってきます。硫黄臭もほんのりとしており、お湯を掬って周囲深く嗅いでようやくわかる程度のものでした。単純硫黄泉なので成分が少ないということもあるでしょうし、加水によって薄まっていることも当たりが優しい原因でしょう。でも無駄に濃くて刺激が強いお湯よりは、マイルドな方が誰でも支障なく入れるのですから、のんびり入浴するには向いているお湯と言えそうです。
安い鍍金はすぐにはがれるんですね。半可通な温泉ファンの私は、さっきまでの意地っ張りを捨て、お風呂の雰囲気とお湯の質感の良さに率直に白旗を上げざるを得ませんでした。施設としては鄙びているわけでもなければ洗練されているわけでもなく、特に面白い設備もないのですが、浴場としてはちゃんとよくまとまっており、そもそも掛け流しの乳白色硫黄泉に入れるのに文句を言う理由なんていないでしょう。自らの無知蒙昧を恥じるきっかけになった浴場でありました。
単純硫黄温泉(硫化水素型) 90℃ 溶存物質0.228g/kg
長崎県雲仙市小浜町雲仙500-1
0957-73-3273(青雲荘)
ホームページ
9:00~21:00
400円
ロッカー・石鹸・ドライヤーあり
私の好み:★★★