温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

湯之尾温泉 鵜泊温泉

2016年02月19日 | 鹿児島県

鄙び系を好む温泉ファンから支持を受けている湯之尾温泉の公衆浴場「鵜泊温泉」へ立ち寄ることにしました。周囲には特に温泉浴場の存在を示す案内看板等はないので、事前に仕入れた情報と普段の温泉巡りで鍛えた自分の勘を頼りに探していたところ、集落を2周ほどグルグルしたところで、ようやく目標となる「南日本新聞」の看板を発見しました。とはいえ、相当古い看板なのかすっかり退色しており、遠くからですと視認が難しく、はじめからこの看板をあてにするのは厳しいような状況です。こういう所はやはり勘が一番頼りになるみたいです。


 
なぜ「南日本新聞」の看板が目標になるかといえば、こちらの本業は新聞販売店なんですね。このため新聞休刊日が浴場の休業日になるという、ちょっと変わった営業形態です。私が建物に近づくと黒い番犬がけたたましく吠え立てて、一見客の私を懸命に威嚇してきました。こちらを利用するお客さんのほとんどは地元の常連客なのでしょうから、明らかな余所者である私を見て警戒する番犬は、ちゃんと自分の仕事をしている立派な忠犬なのであります。でもオイラってそんなに怪しい人物に見えたのかな?



外見だけでは決してここにお風呂があるように見えませんが、出入口の脇にはきちんと「鵜泊温泉公衆浴場」と表示されていました。私の訪問時は無人でしたので、窓口に湯銭を置き、番犬の威嚇から逃げるかの如く足早に館内へおじゃましました。


 
フローリングの脱衣室は、棚と扇風機があるだけで至って簡素。サッシの向こう側からお湯の音が響いていました。


 
相当年季の入った浴室は、昼間なのに薄暗く、しかも全体的に黒っぽく染まっているような印象を受けます。男湯の場合は浴室の右手に洗い場があり、お湯と水のカランのペアが3組並んでいました。配管剥き出しのカランからは温泉のお湯が出てきます。かなり熱いので火傷注意。細かなことですが、一般的にお湯と水のカランが並んでいる場合、お湯が左で水が右という配置にしますが、なぜかこの浴場ではその逆、つまりお湯が右で水が左という配列になっていました。ま、どうでも良いことですけど…。


 
浴室内を独特の雰囲気になっている大きな要因は、浴室一面を覆い尽くす千枚田状態の石灰華でしょう。足元は元々石板張りだったと思われるのですが、その素材が全くわからなくなるほど、分厚くベージュ色を帯びた石灰華の凸凹で覆いつくされており、しかもその表面が全体的に黒ずんでいるため、室内が黒っぽく見えたのでした。


 
浴槽は目測でおおよそ3m×4mの四角形。4つある角のうちお湯をオーバーフローさせる切り欠けのあるコーナーとその対角は角が取れてRを描いており、そのお陰か、一般的な長方形の浴槽よりも優しい印象を受けます。石灰華は床のみならず浴槽の周りでも分厚くコーティングされており、浴槽の湯面ライン上には庇状の析出として現れ、浴槽の左側の縁はサンゴのようなトゲトゲがびっしりとこびりついていました。析出を好む温泉ファンには垂涎の光景が広がっていました。


 
温泉の供給口は2本あり、メインの湯口はタイルで囲まれている箱状のもので上を向いており、もう1本はその左側からまっすぐ横に突き出た塩ビのパイプ。いずれの湯口周りにも石灰華がビッシリ付着しています。投入量は多く、浴槽内のお湯の鮮度も良好です。


 
投入量が多ければ当然ながら溢れ出す量も多く、浴槽に3つある切り欠けから惜しげも無くオーバーフローしていました。しかもお湯の排水溝をカバーするグレーチングにも、石灰華がこんもりとこびりついています。こりゃスゲー。

さて肝心のお湯に関してですが、見た目は薄い山吹色の笹濁りで、槽内に付着する石灰華の影響で若干緑色を帯びているようにも見えます。お湯を口に含むと、ほんのりとした塩味に石膏を主とする土類味、そして清涼感を伴うほろ苦味が感じられました。匂いに関しては、土類っぽい匂いがあったはずですが、あまり印象には残っていません。基本的には塩化土類的なフィーリングですが、金気は少なかったように記憶しています。キシキシと引っかかる浴感と、全身にまとわりつくようなシットリ感が心地よく、とてもよく温まります。

ところで湯之尾温泉は長い歴史を有する温泉地ですが、伊佐市東部で現在も操業している日本最大の金鉱山「菱刈鉱山」の掘削が進むにつれ、坑道から温泉が湧き出ちゃう一方、昔からの湯之尾温泉の源泉が枯渇したり、地盤沈下が発生するなどの問題が発生するようになりました。このため、現在の湯之尾温泉は温泉地の場所をまるごと数百メートルほど移転し、お湯も鉱山採掘の際の副産物として大量湧出する温泉を引湯して使っています。今回取り上げた「鵜泊温泉」でも鉱山からのお湯です。ご近所の方にお話を伺いましたが「昔は間欠泉があって、天下一品のお湯だったのに、いまはイマイチだ」と嘆いていらっしゃいました。その一方、私の後からやってきた地元の常連さんは、「(近所にある公営の)公衆浴場は150円で狭いけど、こっちは100円で広い。しかも金山からのお湯は(以前より)熱いので良くなった」とポジティブに捉えており、人によって評価が分かれているようでした。


 

グーグルマップで「鵜泊温泉」を探そうとした私の頭脳を混乱させたのが、浴場前を横切るこの湿地です。おろらくかつては川の本流だった跡かと思われ、対岸とをつなぐ立派な橋も架かっているのですが、現在は淀んだ水が溜まる沼地のようになっており、ネット上の地図ではそうした沼や橋、そして川筋らしきものが描かれていません。しかもこの低地のすぐ南に川内川の本流が流れているため、初めて当地を訪れた者としては、地図に表示されている内水面がどちらを指し示しているのかわからなくなったのです。ちなみに帰宅後、改めて国土地理院の地図でその箇所を調べ直したら、ちゃんと水路として描かれていました。やっぱりちゃんとした地図で調べないといけませんね。この湿地の対岸にはバス通りが走り、その沿道には公営の公衆浴場や菱刈鉱山から引いてくるお湯をストックするタンクの姿が見られました。



貯湯タンクは上述の他、「鵜泊温泉」のすぐ裏手にある高台にも設置されていました。複数のタンクで貯湯や中継を行っているのでしょう。ところで「鵜泊温泉」の館内に掲示されていた温泉分析表には湧出地が2箇所記載されていたのですが、そのうちの一箇所は浴場の所在地と全く同じでした(川南1109)。これって、浴場の敷地内にも源泉があって、そのお湯をブレンドさせているという意味なのでしょうか。あるいはこのすぐ裏手にあるタンク(源泉というより分湯槽)を指しているのでしょうか。
そのあたりの事情がよくわからないまま、モヤモヤした気持ちを抱きながら、当地を後にしました。


混合泉(※1)
ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物温泉 46.5℃ pH6.8 溶存物質2076mg/kg 成分総計2257.7mg/kg(※2)
Na+:523.1mg(83.70mval%), Ca++:56.7mg(10.41mval%), Mg++:10.8mg,
Cl-:355.5mg(38.46mval%), SO4--:86.3mg(6.90mval%), HCO3-:862.3mg(54.18mval%),
H2SiO3:123.2mg, HBO2:31.4mg, CO2:181.7mg,
(平成8年12月27日)
(※1)湧出地:菱刈町前田字大山口3850-ロ、川南1109、
(※2)分析表には4334mg/kgと印字されていましたが、この数値は誤記載かと思われますので、ここでは分析表の数値をもとに私が計算したものを掲載しました。

JR肥薩線・栗野駅または吉松駅より南国交通バスの大口方面行で「湯之尾橋」バス停下車
鹿児島県伊佐市菱刈川南1109  地図

早朝~18:30(入場18:00まで) 新聞休刊日に休業
100円
備品類なし

私の好み:★★+0.5
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湯之尾温泉 民宿ガラッパ荘

2016年02月17日 | 鹿児島県
 
5月のうららかな陽気のもと、川面を煌めかせる川内川を遡る形で、鹿児島県伊佐市の東部へとクルマを走らせます。


 
目的地である湯之尾温泉の「民宿ガラッパ荘」に到着です。ガラッパとはご当地の言葉でカッパのことなんだそうです。付近にはガラッパ公園と称する施設もありますから、カッパと縁が深い土地なんですね。


 
今回は宿泊ではなく、立ち寄り入浴での利用です。玄関入って右手に帳場があり、そのカウンターに料金入れが置かれていました。この時は無人でしたが、セルフで湯銭を納めるようです。お風呂はワンコインの100円で利用できる男女別の内湯と、貸切で利用する500円の家族湯があるようですが、今回は前者のみの利用です。


●内湯
 
帳場の先にある階段を1フロア下り、暖簾をくぐり脱衣室へ。正直なところかなり草臥れた建物であり、随所からB級感が漂っているのですが・・・


 
脱衣室内には人生訓や老人の生き甲斐に関する言葉など、メッセージ性の強い文言がたくさん張り出されており、これが余計にB級感を強くしていました。同じく室内に掲示されている張り紙によれば、500円の貸切風呂(家族湯)は露天風呂であり、施錠されているとのこと。


 
川に面した浴室は、まるで古い学校の教室に浴槽を据え付けただけのような、渋くて実用的な造りなのですが、窓から陽光が降り注いでいるため、くすんでいながらもまずまずの明るさが確保されていました。足元はタイル敷きなのですが、後述するように温泉の影響で石灰華のこびりつきが著しく、お湯が触れる部分は千枚田のような凸凹やサンゴ礁のようなトゲトゲで覆われており、元々の色調が完全にわからなくなるほど濃いベージュ色に染まっていました。



窓の外には河原が広がり、川内川が泰然と流れていました。この雄大な景色を眺めているだけでも心が癒されます。天気の良い日でしたら、窓を全開にすることにより、露天風呂さながらの開放感が得られるでしょう。


 
古いお風呂だからか、洗い場にはシャワーなど無く、昔ながらのお湯と水の水栓ペアが2セット設けられているだけなのですが、このカランのコックを開けて出てきたのは熱い温泉のお湯でした。


 
浴槽は2m×3.5mの長方形で、洗い場や床などと同じく浴槽縁にも石灰華がビッシリこびりついていますが、私の訪問時は槽内にコケらしき緑色のものが付着しており、ややヌメリもあって、いささかお手入れ不足が否めない状態でした。また槽内にはステップ代わりに1つの石材と2つのコンクリブロックが沈められているのですが、このブロックがちょっと不安定で、しかもヌメっているため、滑りやすくてヒヤヒヤしました。私の訪問したタイミングが悪かったのかな。
壁から突き出たパイプよりお湯が投入されており、縁の切り欠けからオーバーフローさせています。湯使いは完全放流式でしょう。お湯は薄っすら山吹色を帯びた笹濁りですが、槽内に生えるコケのために若干緑色を呈しているようにも見えます。お湯を口に含むとほんのりとした塩味のほか、石膏感をはじめとする土類の味、微かな金気味、そして清涼感を伴うほろ苦みが感じられました。また湯面からは土類泉らしい匂いもわずかながら放たれていました。浴室中を石灰華だらけにしているお湯だけあり、入浴中はキシキシ引っかかる浴感があるとともに、湯中ではしっとりとしたフィーリングと力強い温まりに包まれ、湯上がりにはしっかり火照って、温浴効果がいつまでも続きました。


●宿泊者専用露天風呂
 
この「民宿ガラッパ荘」は温泉ファンの間で全国的に有名であり、拙ブログをご覧の方にもご存知の方がいらっしゃるかと思いますが、知名度を全国区たらしめているのは、鯉のぼりのシーズンに目にできる名物の露天風呂であります。私が訪れた2015年の時点で、この露天風呂は宿泊者専用となっていましたので、入浴のみ利用の私はお店の方に許可をもらって見学させていただくことにしました。川の両岸に渡されたロープに約250匹の鯉のぼりが括り付けられ、湯之尾滝の水しぶきを浴びながら皐月の風に乱舞していました。1984年から続く恒例行事なんだそうですが、鯉の大群が悠然と泳ぐその景色は壮観そのもの。圧巻です。


 
露天風呂がある河原へ降りてゆく階段のそばには、ベージュ色の石灰華で覆われた円筒形の温泉設備が立っていました。館内に温泉分析表が見当たらなかったので詳しいことはわかりませんが、どうやらこのお宿においては、菱刈鉱山から湯之尾温泉の各施設へ配湯されている混合泉のほか、自家源泉もブレンドさせているらしく、となれば、この円筒は自家源泉に関係する設備なのかもしれません。


 
露天風呂は滝下の河原に設けられており、目の前で落ちる大迫力の湯之尾滝は滝飛沫で辺りを白く煙らせながら、露天風呂の傍に立つ私の臓腑を揺らすほど重い瀑声を轟かせていました。そして露天風呂の真上には数多の鯉のぼりが悠然と大空を泳いでいました。


 
この露天風呂の一部にはスノコが敷かれて洗い場になっているほか、すぐ脇を流れる用水路の真上に足場が渡されており、その上が脱衣小屋になっていました。でも万が一この足場が外れたら、用水路の奔流に飲み込まれそうでちょっと怖い…。この温泉には本当にカッパが棲んでいるんじゃないかしら。


 
広い浴槽にパイプから温泉が注がれており、そのお湯は内湯と同じものかと思われます。でも吹きさらしの環境だからか、正直なところ、潔癖な人にはおすすめできそうない状況だったように見えました。いや、多少の不純物なんて気にしない、開放的な環境のもとで鯉のぼりを仰ぎながら湯浴みをしたいという方には最高のロケーションですね。
鯉のぼりは毎年5月中旬まで実施されており、おそらく今年も催されるはずですので、当地を訪れる予定がありましたら、立ち寄ってみてはいかがでしょうか。


温泉分析表見当たらず

鹿児島県伊佐市菱刈川北2713-11  地図
0995-26-2696

日帰り入浴時間は現地へお問い合わせください
100円
備品類なし

私の好み:★★
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白木川内温泉

2016年02月16日 | 鹿児島県
 
 
半端じゃない鄙び方をした温泉宿として知られ、その佇まいが一部の温泉ファンから熱い支持を得ている、出水市の白木川内温泉で立ち寄り入浴してきました。出水市街から国道447号線を東進し、途中から県道48号線に入って、長閑な山村を奥へ奥へと入って行きます。途中に「温泉入口」と称する何の捻りも無いシンプルな名称のバス停が立っており、その前で分岐している車一台しか走れない狭い道へと入って行きます。


 
細い道ですが、大した距離はないので、狭隘路が苦手な方でも心配ご無用。この道はどん詰まりの手前で二手に分かれていました。当地には2つのお宿があり、この分岐の手前側に入ると「白木川内温泉山荘」、そのまま真っ直ぐ進んだ突き当たりにあるのが「旭屋旅館」なんだそうです。どちらでもよかったのですが、この時は手前側に入って「白木川内温泉山荘」の方へ車を駐めました。どれだけ太陽が高く昇ろうと、深く切れ込んだ谷間に位置するこの場所は陽が当たりにくいのか、宿の建物は聞きしにまさる古色蒼然とした外観で、つげ義春が窓から顔を覗かせていそうな佇まいです。人によっては肝試しレベルの不気味さかもしれず、日没後にこの建物を目にしたら、私も訪問を躊躇してしまうかもしれません。


 
谷頭の奥まった場所で、肩を寄せ合うように複数の棟が軒を連ねており、その様は東京の環七周辺に見られる木賃ベルト地帯、特に板橋区の大谷口上町を連想させます。もし山が崩れたらこの場所はひとたまりもないんじゃないかな…。玄関だけは綺麗にしている「白木川内温泉山荘」にて湯銭を支払い、早速入浴させていただくことにしました。


●1号泉

こちらの温泉には1号泉と2号泉の2つのお風呂があり、2つの旅館で2つの浴室を共用しているんだとか。まずはお隣「旭屋旅館」の直下にる1号泉のお風呂から。お風呂は男女別に分かれており、男湯は手前側です。


 
脱衣室は棚があるばかりで、かなり草臥れており、細かなゴミも散らかっているので、人によってはこの雰囲気だけで及び腰になってしまうかもしれません。しかも室内に1脚だけ置かれた事務椅子の背もたれには、この椅子は旭屋の所有であり山荘とは別であるという旨が手書きされていました。なぜわざわざそんなことを書くのかな…。


 
お湯が自噴する岩盤の上に湯屋を被せて部分的にコンクリで固めたような造りをしているお風呂。カランなどはなく、その被せ物である上家も至ってシンプルです。洗い場には桶や腰掛けが用意されているのですが、脱衣室の事務椅子と同じ字体で、それらの一つ一つに旭屋の所有物であることが手書きされていました。極め付けは壁に書かれたストレートな表現…。どのような文言が書かれているのかは、敢えて明らかにしませんが、同じ温泉を共用しあっている2つのお宿は相当難しい関係になっているらしく、当事者のどなたかがその実情をお客さんへ訴えたいようでした。鄙びすぎてボロボロな建物はただでさえ不気味な雰囲気なのに、そんな険悪なムードを漂わせる文言を目にすると、どんな明るい日中でも不安を抱かざるを得ません。上方漫才コンビ「コメディーNo.1」は、坂田利夫と前田五郎の2人が同じステージに立ちながら決して目を合わせようとしないことで有名でしたが、この白木川内温泉の2つのお宿は温泉界の「コメディーNo.1」と言えるかもしれませんね。


 
岩盤から自噴するお湯をコンクリで堰き止めて湯船にしている1号泉のお風呂は、6~7人同時に入れそうなキャパを擁しています。岩の表面は自然のままの姿なのか、あるいは鑿で穿ったのかよくわかりませんが、槽内の岩肌は荒削りでゴツゴツ&ギザギザしており、ちょっとでも足を滑らせようものなら、ザクッと切創を負ってしまいそうです。
お湯は岩肌の複数箇所から湧出しているようですが、特に気泡などの噴き上がりは確認できず、岩を触れたところで、湧出する勢いを感じることもできません。でも浴槽から溢れ出るお湯の量はとても多いので、全体的な湧出量は相当多いのでしょうね。
男湯には飲泉のお湯を掬うための小さな囲いがあり、そこに赤いコップが備え付けられていました。男湯ではこの囲いからお湯を掬えば良いのですが、女湯にはこの囲いが無いらしく、その代わり、男湯と女湯の仕切りに小窓が設けられているので、女湯で飲泉したければ、男湯にいる客にコップで男湯の囲いからお湯を掬ってもらい、小窓を通じてコップを手渡してもらうことになります。でも男湯に誰もいなかったらどうするんだろう…。

お湯は無色透明ですが、岩肌の色の影響なのか、青白い色を帯びているようにも見えます。細かな浮遊物がチラホラしていましたが、湯の花なのか不純物なのかは判然としません。ちょっとぬるくて長湯したくなる湯加減のお湯に入ると、まるでローションの中に浸っちゃったかのようなヌルヌル感に包まれ、お湯自体にもトロミがあり、大変滑らかなツルスベ感が夢心地のバスタイムをもたらしてくれました。またお湯を飲泉すると、マイルドですがはっきりとしたタマゴ感(味と匂い)が感じられました。お風呂の雰囲気は決して宜しくありませんが、さすが湧きたてのお湯は上質で素晴らしく、私は目を瞑りながら湯に浸かって、お湯の良さを感じることに専念しました。


●2号泉
 

つづいて2号泉へ。1号泉は「旭屋旅館」が管理しているお風呂でしたが、2号泉は「山荘」の管轄らしく、「山荘」の縁側の真向かいに男女別の入り口が並んでいました。



2号泉の脇にはこのようなお湯汲み場があり、岩肌から少量のお湯がチョロチョロと湧出していました。でも量は少なく温度も低いので、使い途が無いらしく、そのまま捨てられていました。



男女別の扉を開けたら、いきなり目の前に棚が現れました。しかも、そのすぐ下には浴場らしい空間が姿を覗かせています。この2号泉は1号泉よりも相当小さいようです。目の前の棚には新聞紙が敷かれていますが、どうやら靴置きではなく、衣類や荷物を置くためのもののようです。ということは、ここで着替えろということか…。


 
1号泉のお風呂は脱衣室と浴室とを仕切るパーテーションがありましたが、こちらはそのような仕切りがなく、両室が一体になっていました。左(上)画像がその全景であり、ご覧のようにかなり狭いお風呂です。幅が狭い上に滑りやすいコンクリのステップを下って入浴ゾーンの床に立ち、後ろを振り返ると、そのステップや入口がすぐ目の前に迫っていました。
1号泉のお風呂と同じくカランはなく、備え付けの桶などで掛け湯することになります。


 
こちらも岩盤から温泉が自噴しており、岩の手前をコンクリで固めてお湯を堰き止めて浴槽にしていました。そしてその上に仕切りを立てて男女に分けていました。でもそのキャパは1号泉よりも小さく、せいぜい2~3人入るのが精一杯。しかも1号泉より更にぬるく、お湯の透明度も些か劣っているように見えました。もっとも、浴室の窓は女湯側にしかなく、男湯側は日中でも薄暗いので、明瞭に目視できずクリアに見えなかっただけかもしれません。余談ですが、薄暗くてお湯があるという環境ゆえ、蚊の絶好の棲み家となっており、入浴中に数ヶ所刺されてしまいました。
入浴しながら湯中を凝視していると、お湯がユラユラ揺れている箇所があり、時折岩肌から気泡が上がっていることが確認できました。ちゃんと足元の岩盤から自然湧出しているんですね。見た目は無色透明で、1号泉と同じくマイルドながらもはっきりとしたタマゴ感(味と匂い)が伝わってきました。ヌルヌル感を伴う滑らかなツルスベ浴感も同様です。

谷を流れる沢からはカジカ蛙の鳴き声が聞こえ、周囲の環境はとってものどかです。足元の岩盤からぬるいお湯が湧出する温泉といえば、同じ出水市の湯川内温泉「かじか荘」が連想されますが、どなたにもおすすめできる「かじか荘」と異なって、こちらは人によって心理的な障壁を乗り越えなければならず、好き嫌いが分かれてしまう難しい施設かと思われます。でも足元湧出の温泉が好きな方や鄙びた風情を愛する御仁には堪らないお宿でしょうね。


1号泉
単純硫黄温泉 42.0℃ pH9.2 溶存物質357.5mg/kg 成分総計357.6mg/kg
Na+:95.3mg(97.42mval%),
Cl-:13.1mg(7.66mval%), HS-:5.6mg, S2O3--:0.9mg, HCO3-:141.0mg(47.83mval%), CO3--:49.2mg(33.95mval%),
H2SiO3:38.7mg,
(平成18年11月8日)

2号泉
単純硫黄温泉 44℃ pH不明
Na+:91.6mg(98.52mval%),
Cl-:11.0mg(6.98mval%), HS-:14.7mg, S2O3--:0.2mg, HCO3-:140.3mg(51.58mval%), CO3--:33.0mg(24.78mval%),
(昭和60年7月1日)

鹿児島県出水市上大川内5002
白木川内温泉山荘0996-68-2314
旭屋旅館0996-68-2812

6:00~21:00
150円
備品類なし

私の好み:★★
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川内高城温泉をお散歩

2016年02月14日 | 鹿児島県
江戸時代以前からの長い歴史を有し、湯治場として人々に愛されてきた川内高城温泉は、山間にレトロな街並みがひっそりと佇む小さな温泉街。まるごと時空の狭間に迷い込んで、そのまま時代の流れに取り残されたかのような集落に、昔ながらの鄙びた湯治宿が軒を連ねています。拙ブログでは数回連続でこの温泉に関して取り上げてまいりましたが、温泉宿を擁するこの集落はとても小さく、温泉街の隅から隅まで歩いても数分で歩き切ってしまい、湯浴みする以外に楽しみが無いようにも思われます。でものんびり歩いてみたら、随所に目を惹く光景が散見されましたので、一泊した翌朝に散歩してみることにしました。


 
これが温泉街のメインストリート。車一台分の幅員しかないこの細い一本道に沿って、小規模の湯治宿や商店が軒を連ねているわけです。


 
斜陽どころかすっかり日が暮れちゃったかのように渋く鄙びた温泉街ですが、その中でもこの酒屋さんは一生懸命華やかに当地を盛り上げようとしていました。


 
温泉街の西の端には、湯に浸かる西郷さんの大きなモニュメントがあるのですが、夜中に見たらちょっと不気味かも。この西郷さんの更に西には、当地唯一の旅館且つ高層建築である「ホテルマル善」がそびえ立っているのですが、ネット上の情報によれば、どうやら現在は旅館営業ををやめてしまったらしく、入浴のみ受け付けているとのこと。本当なのかな?



私はレンタカーでこの地へやってきたのですが、もし公共交通機関で訪れる場合は、JR川内駅などから薩摩川内市の北部循環バスでアクセスすることになります。市のコミュニティーバスですが、実際の運行は南国交通に委託されているようです。上画像がそのバスの車両ですが、この一般的な車両の他、ボンネットを擁するレトロタイプの車両も運行されるんだそうです。


 
この温泉街はとにかくニャンコが多い。私が宿泊した「竹屋旅館」の前では、人懐っこい三毛猫が体をすり寄せて甘えてきましたし、その近所でウロウロしていた白いネコも甘ったるい鳴き声でこちらに媚びてきました。場所柄、他所者に甘えることに慣れているのでしょうね。


 
車道から離れて、川沿いの細い路地へ入ってみることに。路地に立ち並ぶ民家のうち、数軒はいまにも崩れ落ちそうな陋屋でした。ただでさえ哀愁たっぷりの集落なのに、こうした家屋が余計に悲哀を強くしていました。


 
このの細い路地を上がってゆくと、どことなく他の民家を雰囲気が異なる仕舞た屋に遭遇。壁に「理容」の2文字が掲げられているので、おそらくこの民家は床屋さんなのでしょう。玄関の引き戸には「厚生大臣認可 Sマーク理容店」と印刷されたステッカーが貼られていましたが、カーテンが下ろされており、いまでも営業しているかは不明です。


 
細い川を更に遡ると、公民館に行き着きました。注目すべきは玄関前に立つ、苔むして古びた二宮金治郎像。いまどき二宮金治郎の像は珍しいですよね。台座には「勤勉正直」と彫られているのですが、ここってかつては学校関係の施設だったのでしょうか?



公民館のすぐ近くで工事中の建物を発見。私が訪れた時には、あとちょっとで竣工というような感じでしたが、案の定、その後まもなくしてこの建物は「高城の湯 ゆすら」としてオープンしました。温泉の内湯はもちろん、サウナも設けられており、客室は和室の他にベッドの洋室も用意されているという、現代ニーズにあったファシリティとなっているようです。しかも素泊まりの他、別途申し込めば夕食や朝食もいただけるそうですから、これまで自炊するか街中へ出て食事する他なかった当地において、とても利便性の高いお宿が生まれたことになりますね。
こちらの他、昨年は「癒しの湯宿 しもぞの」もオープン。いままで時計の針が止まっていたこの温泉街に、俄然2軒の新しい宿が誕生したことになります。新風が吹き込むことにより、古き良き佇まいと現代的なサービスが上手い具合に調和する、素敵な温泉街に昇華してほしいですね。あくまで個人的な見解にすぎませんが、日本の昔ながらの光景を好むアジア圏の観光客に、こうした温泉街はウケそうな気がします。


 
こちらは温泉街の集落の鎮守である熊野神社。狛犬の台座には「皇紀二千六百年記念」と彫られていますので、昭和15年に設けられたものなのでしょう。もちろん神社自体の歴史はそれよりはるかに古く、創建は江戸時代の貞享2年(1685年)なんだそうです。


 
神社は集落を見下ろす小高いところに本殿があり、境内に立つと温泉街を一望できます。山間の狭い集落に瓦屋根が櫛比している様子がわかります。またその奥に聳える「ホテルマル善」だけが妙に目立っているのも一目瞭然です。

この神社の上の方に温泉の貯湯槽があり、2つの源泉を集めてその貯湯槽にストックし、下に広がる各宿や共同湯などに配湯しています。右(下)画像に写っている、神社下の駐車場と思しきスペースにある小屋は、2つある源泉のひとつです。ちなみに、もうひとつの源泉は「川内岩風呂」の裏手にあるんだそうです。

このようにぶらぶら散策しても面白いこの川内高城温泉。公式サイトにはイラストマップも用意されていますので、この温泉に一泊したら、スマホ等に表示しながらレトロでほのぼのとした温泉街を散策するもの一興かと思います。
 
 川内高城温泉公式サイト
 (上の絵地図サムネイルをクリックしても公式サイトへ飛べます)

川内高城温泉はひとまずこれにておしまい。
次回以降の記事も鹿児島県の温泉を取り上げます。
コメント (3)
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川内高城温泉 共同湯(元湯)

2016年02月13日 | 鹿児島県

前回記事で取り上げた「双葉屋」に隣接しているのが、西郷さんも湯浴みしたと言われている「共同湯」(元湯)です。当地に来てここに入らないわけにはいきません。


  
昭和から時が止まったかのような鄙びた外観はとてもフォトジェニック。以前「共同湯」の通り側では食堂や商店を営んでいたようですが、私が訪れた日は終日カーテンが閉まっており、商いをしているような気配は見られませんでした。浴場の入り口はこの商店部分からちょっと奥へ入ったところにあり、初見の旅行者を迷わす隠し扉のような感じですが、それを見つけるのもまた観光の楽しみです。


 
実際に入浴したのは日没後。夜の「共同湯」も味わい深い風情です。カウンターがある小店舗の右側に浴場の入口があり、一応お店と隣り合わせですが、実質は無人浴場みたいな構造で、入ってすぐ目の前に括り付けられている料金箱へセルフで湯銭を納めます。無人に近い施設ゆえ、無銭入浴が相次いでいるのか、料金箱のそばには「金を払わない人間は来るな」と強い語調で注意書きが貼り出されていました。


  
入口から右手に伸びる細い廊下に沿って男女別の浴室が並んでおり、手前側が女湯で奥が男湯。この狭い廊下に休憩用のベンチが置かれています。浴場は全体が大広間のような造りで、各空間をパーテーションで区切られており、視線こそ遮られているものの音は丸聞こえです。また入浴ゾーンは廊下よりも低くなってるため、男湯のドアを開けたら浴槽の様子も丸見えでした。古い公衆浴場の典型的な構造です。この浴場では今でこそ共同管理の混合泉を引いていますが、浴槽が低い位置に設けられているということは、かつてはこの地で自噴する源泉が使われていたのでしょうね。


 
レトロな趣きたっぷりの浴室は、九州の古い共同浴場でよく見られる、脱衣室と浴室が一体になっている造りです。更衣ゾーンは廊下とほぼ同じ高さで、入浴ゾーンより高くなっているのですが、この段差の境目には、最近増設されたと思しきアルミのパーテーションが立てられていました。これによって転倒防止が図られているのですが、反面で更衣できるスペースは大人一人がやっと身動きとれるほど窮屈。昔の建物を現代的なニーズに合わせようとすると、いろいろと難しい点が表面化してしまうのでしょう。


 
入浴ゾーンの真ん中にタイル張りの浴槽が据えられており、女湯との仕切り塀に温泉が吐出されるシャワー付きカランが1基取り付けられています。もちろん以前はシャワーなんてものは無かったはず。室内には数個の桶が用意されていますので、掛け湯をするならシャワーではなく、これらの桶で直接湯船からお湯を汲んじゃう昔ながらのスタイルの方がてっとり早いですね。ただ洗い場ゾーンも狭いため、掛け湯した後のお湯や石鹸の泡などが湯船に混入しやすく、洗い場を利用の際にはその点に気をつけた方が良さそうです。実際に私もできるだけ隅っこで掛け湯をして、混入しないよう気をつけました。


 
 
浴槽は角が取れた「日」の字型をしており、中央の仕切りを挟んでそれぞれ2~3人サイズに分割されています。豆タイル貼りの浴槽縁は蒲鉾の表面みたいに滑らかな曲線を描いており、その造形の美しさに昭和の職人さんの心意気が垣間見えました。私が湯船に入ると浴槽のお湯がオーバーフローしますが、それ以外の時に溢れ出しは見られず、槽内に穴があいていましたので、おそらく常時その穴から排湯されているものと思われます。

一方、お湯の供給は隅っこにある湯溜まりから配管を経由して行われており、この配管にはバルブが付いているため、お湯の投入量を適宜調整することも可能です。私の訪問時には熱々のお湯が注がれており、2つに分かれている槽のうち、湯口側はとても熱くて入浴できるような温度ではなかったのですが、もう一方の更衣ゾーン側は気合を入れたら肩まで疲れる程度の温度にまで落ち着いていましたので、今回は更衣ゾーン側の槽だけで湯浴みしました。浴室内には水道の蛇口もあるのですが、加水できるようなホースはなく、そもそも壁に「水を入れるな」との貼り紙も掲示されていましたから、バルブで湯量を調整するとともに、桶で懸命に湯揉みをして、湯加減をできるだけ自然に落ち着かせるほかありません。

こちらに惹かれているお湯は他の宿と同じく共同管理している混合泉であり、見た目は無色透明で、マイルドな苦味を伴うタマゴ味やタマゴ臭などの知覚的特徴、そしてツルツルスベスベの滑らかな浴感など、諸々の特徴は当地の他宿にあるお風呂と同様です。でもお湯の熱さはここが図抜けているかもしれません。湯使いは完全かけ流し。加水などなく、お湯は新鮮そのものですから、熱いお湯が却って体をシャキッと引き締めてくれ、ツルスベ浴感も相まって、心身をリフレッシュさせてくれました。西郷さんが愛したと言われているこの共同湯で、お湯の熱さに耐えつつ、肩まで浸かって瞑目して、昔日の様子に想いを馳せました。昭和どころか明治にまでタイムスリップできちゃう、歴史好きにはたまらない一湯でした。


川内3・19号
単純硫黄温泉 52.1℃ pH9.2 溶存物質264.8mg/kg 成分総計264.9mg/kg
Na+:71.7mg(95.71mval%),
HS-:6.1mg, S2O3--:1.0mg, HCO3-:101.3mg(47.98mval%), CO3--:40.2mg(38.73mval%),
H2SiO3:31.5mg, CO2:0.1mg,
(平成17年6月30日)

JR川内駅もしくは西方駅より薩摩川内市の北部循環バス(南国交通が運行)「湯田西方循環線」で「梅屋前」下車すぐ
鹿児島県薩摩川内市湯田町6763  地図
0996-28-0117

6:00~21:00
200円
備品類なし

私の好み:★★+0.5


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