川内高城温泉に一晩泊まった日には、ぜひ他の湯治宿のお風呂にも入ってみたかったのですが、時間や体力の都合で一箇所だけに絞って訪うことにしました。今回訪れたのは「共同湯」に隣接している「双葉屋」です。通りの向かいには川内高城温泉第1号の湯治宿である「双葉旅館」(旧五助屋)があり、そちらでも入浴が可能らしいのですが(湯銭は今回記事の「双葉屋」にて支払う)、今回は泣く泣くパスすることに。双方とも何とも言えない渋い佇まいであり、この2棟を眺めていると、旅する巨人と称された民俗学者宮本常一の著作に載っている写真を見ているような心境になります。
玄関の扉を開けると、上がり框に笊が置かれており、そこへセルフで湯銭を納める仕組みになっていました。この奥にある座敷には、いつもでしたら宿のおばあちゃんが蝋人形みたいに微増だにせずジッと座っていらっしゃるはずなのですが、私の訪問時は座敷にどなたもいらっしゃらなかったので、この笊に100円玉2枚と50円玉1枚を置いて、中へお邪魔させていただきました。いや、誰もいないわけではなく、下足棚の上では白毛のニャンコがおばあちゃんに代わって玄関の様子をしっかり監視していましたから、無銭入浴はできませんよ。
ステップを上がって奥へ進むと、突き当たりの右手に男女別の内湯が並んでいました。いかにも昔ながらの湯治宿といった鄙びた風情で、脱衣室もシンプル且つコンパクト。プラ籠の他、ユニットタイプの洗面台が1つと腰掛けが備え付けられているばかりです。棚は見当たらなかったので、衣類や荷物を収めたカゴは床へ適当に置いておくことになります。印象的だったのが室内のゴミ箱。剥がした湿布でゴミ箱に山ができあがっていたのでした。長期にわたって湯治を続ける爺様が、あちこち痛めた体をここのお湯で癒しているのでしょう。
浴室も小ぢんまりしており、えらく年季が入っています。壁や天井などシミが目立っていて、潔癖性の人はちょっと眉をひそめてしまうかもしれませんが、女湯との仕切りにはガラスブロックが用いられていたり、全体的に明るい色のタイルが多用されていたりと、建設当時はさぞかしハイカラなお風呂として輝いていたことが想像されます。今でこそ長い年月にわたってしみこんできた疲れが大胆に表面化していますが、それでも室内の2方向にガラス窓があり、上述のように隣との仕切りはガラスブロックですので、日中は照明要らずで十分に明るい室内環境が確保されていました。
室内にはおでんの結び昆布みたいに中央部分のくびれた浴槽が設けられ、無色透明の綺麗なお湯を湛えているほか、壁に沿って洗い場があり、シャワー付きカランが2基取り付けられていました。カランの水栓金具は黒く硫化していたのですが、それもそのはず、カランからはタマゴ臭を漂わせる源泉のお湯が吐出されてきました。
窓下に据えられた2つの浴槽は、いずれも槽内は豆タイル貼りで縁は人研ぎ石という、いかにも昭和らしい造りなのですが、ご覧のように左側が小さく右側が大きいという非対称な構造であり、それぞれに湯口があって、それぞれの浴槽縁からお湯がオーバーフローしていました。
右側の大きな槽は4~5人サイズで、少々熱い湯加減です。壁から顔を出している獅子の湯口よりお湯が吐出され、ハの字型のスロープを伝って浴槽へ注いでいるのですが、この獅子の他、浴槽の底に開いた穴からも熱いお湯が供給されており、これら2箇所からの投入によって熱めの温度設定となっているようでした。獅子の湯口にばかり気をとられ、底の投入口に気づかず底へお尻を下ろしてしまった私は、尻に伝わる不意を突く熱さにビックリして思わず「ヒィッ」と情けない声をあげてしまいました。でもツルツルスベスベの浴感はしっかりと肌に伝わり、あまりの気持ちよさに入浴中は何度も肌をさすってしまいました。
これらの投入口の他、窓の脇で下から立ち上がっている配管があり、バルブで開閉するようになっていたのですが、これって何なのでしょう? 打たせ湯なのかな?
一方、左側の小さな槽はせいぜい2人入るのが精一杯。コーナーに湯口があるのですが、投入量は決して多くなく、その影響なのか、若干ぬるめの湯加減でした。湯温調整のため意図的に投入量を絞っているのかもしれません。
この湯口にあるコップで飲泉してみますと、焦げ渋のタマゴ味およびタマゴ臭が感じられましたが、苦味は心なしか控えめであり、総じて「竹屋旅館」よりマイルドだったように記憶しています。川内高城温泉では、共同管理しているお湯を各宿(一部を除く)へ分配しているはずなので、どこで入っても同じお湯であるはずですが、それでもに宿やお風呂によって体感が異なるということは、湯使いによって表情をすぐに変えてしまう繊細なお湯なのかもしれません。
私が風呂から上がって退出しようとすると、お座敷におばあちゃんが戻っていらっしゃったので、挨拶をしてからこの宿を後にしました。昭和の湯治宿風情を実体験できる貴重な存在のお風呂でした。
川内3・19号
単純硫黄温泉 52.1℃ pH9.2 溶存物質264.8mg/kg 成分総計264.9mg/kg
Na+:71.7mg(95.71mval%),
HS-:6.1mg, S2O3--:1.0mg, HCO3-:101.3mg(47.98mval%), CO3--:40.2mg(38.73mval%),
H2SiO3:31.5mg, CO2:0.1mg,
(平成17年6月30日)
※実際に館内で掲示されていた分析書は平成7年のものでした。参考までにこの分析書のデータも掲載させていただきます(いつものように抄出です)。
混合泉(湧出地:湯田町6489及び湯田町6459-8)
単純硫黄温泉 50.0℃ pH9.5 溶存物質281.9mg/kg 成分総計281.9mg/kg
Na+:74.9mg(96.74mval%),
HS-:2.1mg, S2O3--:4.4mg, SO4--:15.1mg, HCO3-:100.1mg(51.09mval%), CO3--:30.3mg(31.46mval%),
H2SiO3:49.7mg,
(平成7年3月6日)
JR川内駅もしくは西方駅より薩摩川内市の北部循環バス(南国交通が運行)「湯田西方循環線」で「梅屋前」下車すぐ
鹿児島県薩摩川内市湯田町6462 地図
0996‐28‐0018
日帰り入浴6:30~21:00
250円
備品類なし
私の好み:★★