前回記事の姫川温泉から更に列車を乗り継いで日本海を北上し、新潟県下越地方へとやってまいりました。
越後線吉田駅から弥彦線に乗り換えて弥彦駅へと向かうと、線路の先には霊峰弥彦山がそびえていました。
弥彦線のどん詰まりである弥彦駅に到着です。越後の一宮である弥彦神社へ参詣するために敷設された鉄道ですから、線路は弥彦山の麓でプッツリと途切れており、駅舎も神社を模したようなどっしりとしたスタイルです。
私は弥彦駅で降りたのは神社にお参りするためではなく、地元で人気を博している温泉施設を利用するためです。
駅前のバス停から弥彦村と燕市で共同運行されているコミュニティーバス「やひこ号」に乗りこんで、その目的地へと向かいました。
駅からバスに揺られること14分で日帰り温泉入浴施設「桜井郷温泉 さくらの湯」に到着しました。バスは施設の玄関前まで乗り入れてくれるので、とっても便利です。弥彦山の麓に広がる田圃の真ん中に黒塗りのシックな棟がいくつも並んでおり、目的別に別れた各棟が廊下で繋がっているような構造が外からも見て取れます。私はオープンの10分前に到着したのですが、その時点で玄関前には開店を待つお客さんが列をなしていました。それだけ人気の温泉なのですね。
ここでお得な情報をひとつ。
下車時にバスの運転手さんからバス運賃の領収証をもらい、これを施設の受付に提示すると、定価1,000円の入浴料が800円に割引されます。バス「やひこ号」でアクセスする場合は是非とも領収証を入手してくださいね。
こちらの施設は、土地を村が提供して上物を民間企業「聚楽」が運営しています。「聚楽」といえば、上野の西郷さんの下にある「レストランじゅらく」のほか、福島県飯坂・群馬県万座および水上・静岡県熱海で温泉ホテルを運営していることで有名であり、長年にわたって蓄積されたノウハウがこの施設においても活かされています。
受付では前払いで入浴料を支払って下足箱のキーを預け、引き換えにバーコード付きのロッカーキーを受け取り、更にその左隣のカウンターでタオル(大小1枚ずつ)と館内着のセットも受け取ります。女性用の館内着にはいくつかの種類(色や柄)あり、好みのものを選ぶことができます。館内着が選べるだなんて、まるで旅館に泊まっているかのようですね。
いくつか棟に分かれている館内はかなり広く、ソファーが並んだラウンジルーム、大座敷の休み処、食事処、マッサージ、岩盤浴など、いろんな設備が用意されています。このほか、入館客なら自由に利用できる足湯もあり、温泉が張られた足湯槽からは温泉由来のタマゴ臭が香っていました。
さて前置きが長くなりましたが、お風呂へと向かいましょう。ここから先は混雑および機器類使用禁止のため、公式サイトに掲載されている画像を拝借しながら、文章でご紹介してまいります。
この浴場が開業した当初の脱衣室は狭くて混雑していたそうですが、利用客の増加に対応して増設を行い、明らかに後付けしたことが一目瞭然な空間が奥へ広がっていました。こまめに清掃されている室内は綺麗で清潔。アメニティーも揃っており、使い勝手もまずまずなのですが、ロッカーの一つ一つの幅が狭く、しかも上下段に分かれているため、場合によっては他のお客さんと干渉してしまうかもしれません。
【画像は公式サイトより転載】
浴室に入った瞬間、室内に充満する温泉由来の芳醇なタマゴ臭が香り、お湯への期待に思わず胸が膨らんでしまいます。
室内は大きく分けると、(男湯の場合は)右手に洗い場、左手に各種浴槽類が配置され、奥の窓際に主浴槽が設けられています。洗い場にはシャワー付きカランが計17基並んでおり、半数近くには袖板が取り付けられて隣のブースとセパレートされていました。各シャワーにはボディーソープ・シャンプー・コンディショナーが用意され、また脱衣室には(髭剃りなど)各種アメニティー類が揃っていますので、本当に手ぶらで来店しても全く問題ありません。
洗い場と反対側に配置されている各種浴槽類は、脱衣室側から上がり湯・サウナ・水風呂(タイル張りで1人サイズの円形浴槽が2つ)・薬湯という順に並んでおり、この日の薬湯はレモングラスのハーブ風呂でした。また洗い場のシャワーが取り付けられている仕切りの反対側には座湯が設けられ、石造りの高い背もたれに温泉のお湯がチョロチョロと這わされていました。
後述する露天風呂に面して左右に長い窓ガラスがあり、その窓に接して内湯の大きな主浴槽が据えられています。窓の左右幅とほぼ同じくらいに長いこの主浴槽は左右に2分割されており、左側が小、右側が大となっていたのですが、双方にお湯の投入口や循環用吸引口があり、見た感じでは大きさ以外に違いはみられず、私が実際に入ってみても双方のお湯にこれといった違いがあるわけでもなく、何を以て分けているのかちょっとわかりませんでした。お湯は槽内吸引のみならず、窓下の溝にも結構な量のお湯が溢れ出ていましたので、この溝への流下が排湯だとしたら、循環と同時にかなり多い量の新鮮源泉が投入されている(そして捨てられている)のではないかと思われます。
【画像は公式サイトより転載】
露天風呂ゾーンも広々としており、周囲を目隠しの塀で囲まれているものの、かなり開放的であり、とても静かでゆったり寛げます。敢えて難を言えば、塀のすぐ外に立っている電柱や電線がちょっと邪魔かもしれませんが、こればかりは公共のものですので致し方ないでしょうね。また露天ゾーンに立っているときには右手に弥彦山を眺めることができるのですが、お風呂に入って視界が低くなってしまうと山が塀で隠れてしまうことも少々残念なところです。
露天風呂ゾーンにも多様な浴槽が設けられています。
内湯の主浴槽とガラス窓を挟んで接するように据えられている浴槽は、1.5m×4.5mの大きな長方形で、暖色系のタイルが張られ、40〜41℃前後の、長湯したくなるような絶妙な湯加減となっていました。あくまで私の主観ですが、内湯露天の全槽の中ではこの浴槽がお湯のコンディションが最も良く、無色透明でクリアに澄んでおり、お湯の鮮度感も良好でした。
その長方形の浴槽の隣には、同じく長方形ながらひと回り小さくさせたような浴槽があり、若干浅い造りながら湯加減はやや強め(熱め)に加温されていました。この浅くて熱い浴槽のお湯は、さらに隣に設けられた深い浴槽へと流れ込み、深い浴槽のお湯は、またまた更に奥に位置する東屋下の浴槽や寝湯(4人分あり)へと流下していました。このようにお湯が隣へ隣へと流れてゆく各浴槽では、お湯が鈍って潮汁のような弱い白濁を呈しており、上流の熱い浴槽以外は長湯仕様の湯加減になっていたものの、お湯の鮮度はあまり感じられませんでした。でも寛ぎやすくぬるめのお風呂であるため、時間を忘れてのんびりと湯浴みしたいお客さんにはウケが良く、中には文庫本を持ち込んで風呂に浸かりながら読書するというヨーロッパのスパみたいな楽しみ方をなさっている方もいらっしゃいました。
露天風呂ゾーンにはこの他、壺湯が3つ並んでいるのですが、完全な循環湯であり、入った途端に強いカルキ臭が鼻を突いてきたので、私はほとんど利用しませんでした。
こちらの施設で使用している温泉は、近所にある「高齢者総合生活支援センター」の浴場で以前から使われている源泉のお湯を、800mほど引湯したものです。数年前までこの「高齢者総合生活支援センター」でも外来入浴を受け付けていましたが、近年は施設対象者以外の利用を謝絶しており、外来者が桜井郷温泉に入りたければ「さくらの湯」以外に選択肢はありません。内湯の大きな主浴槽や露天の大きな長方形浴槽ではお湯が無色透明に澄んでおり、循環装置を稼動しつつ新鮮源泉も投入する放流式を併用した湯使いであることが推測されますが、その他の(温泉を使用している)浴槽では循環メインであるためか、若干の潮汁的な濁りが見られ、お湯がちょっと疲れているような印象を受けました。お湯のコンディションが良い上述の2浴槽からは芳醇なタマゴ臭が漂っており、その芳香は浴室内に充満するほどはっきりと香っています。湯口のお湯を口に含んでみますと、甘塩味と茹で卵の卵黄味が感じられ、ちょっとしたエグミも含まれていました。また湯口においてのみ、僅かながらアブラ臭のような香りも確認できました。
湯中ではツルスベの滑らかな浴感が得られ、しかも全体的にぬるめの湯加減にセッティングされているため、瞑目してのんびりと長湯したくなります。でも、ぬるめとは言え立派な食塩泉ですし、硫黄による血管拡張効果も加わるためか、湯上がりには身体の芯からしっかり温まり、冬だというのにいつまでも汗が引かなくなるほど力強く火照る熱の湯であるというのが、この温泉の真の実力です。
なお温泉分析書には泉質名として「ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉」と表記されていますが、上述のようにイオウ感が強く、分析書のデータによれば総硫黄は2.8mgですので、れっきとした硫黄泉を名乗れるはずです。つまり泉質名の頭に「含硫黄」という語句を加えるべきではないかと思われます。
お風呂から上がった後は館内着に着替えて、食事処でお店オススメの「究極の親子丼」なるものを注文しました。肉厚ジューシーで表面を香ばしく炙ってある鶏肉は「にいがた地鶏」。黄身が濃厚なタマゴは県内の五泉市産。つまり親子ともに新潟産なんですね。ちょっとお高めでしたが、究極を名乗るだけあって、とても美味しかったですよ。なおこうした食事やマッサージなど、入館後に発生した支払いに関しては、ロッカーキーのリストバンドに付帯しているバーコードで、退館時に一括精算します。
完全掛け流しの浴槽が無いのは残念であり、加温した上で循環し、消毒剤も使用しているという湯使いなのですが、同時並行で新鮮源泉を投入してコンディションを保っている浴槽があるため、決してお湯は悪くなく、むしろ湯面から漂うタマゴ臭は、温泉ファンなら誰しもが興奮すること必至です。綺麗で使い勝手が良く、静かでゆったり寛げるため、開店前からお客さんの列ができるほど人気を集めるのも十分頷けます。弥彦周辺では「多宝温泉 だいろの湯」が群を抜いて素晴らしい温泉ですが、次点に位置する良い温泉かと思われます。
ちなみに、往路は路線バスでアクセスしましたが、バスは本数が少ないため、帰りは30分強で弥彦駅まで歩きました。
源泉名:やひこ桜井郷
ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉 43.5℃ pH8.6 溶存物質1516mg/kg 成分総計1516mg/kg
Na+:446.9mg(76.75mval%), Ca++:111.6mg(21.99mval%),
Cl-:789.8mg(89.98mval%), Br-:3.1mg, I-:0.5mg, SO4--:76.3mg, HCO3-:17.7mg, CO3--:2.5mg, HS-:2.7mg, OH-:0.1mg,
H2SiO3:32.9mg, HBO2:10.8mg, H2S:0.1mg,
(平成23年6月27日)
加水なし
一部加温あり(入浴に適した温度を保つため)
循環あり(衛生管理のため一部循環)
消毒あり(衛生管理のため塩素系薬剤を使用)
JR弥彦駅もしくは吉田駅から弥彦燕広域循環バス「やひこ号」(平日運行)で15分。あるいはJR弥彦駅より徒歩30分強
新潟県西蒲原郡弥彦村弥彦大字麓1970 地図
0256-94-1126
ホームページ
10:00〜22:00 年に数回休業あり
1,000円(路線バス利用者は割引あり。詳しくは当記事本文をご参照ください)
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★★