経済なんでも研究会

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新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-11-18 07:52:26 | SF
第6章 ニッポン : 2070年代

≪59≫ 迷い = 山梨県の工場敷地内に小さな家を建て、近ごろはそこに引きこもっている。都内にいるとマスコミの攻撃に曝され、疲れてしまうからだ。いつも「あの“神の粉”は、誰がどこで造っているのか」と「貴方は宇宙で5年間なにをしていたのか」という質問ばかり。「お答え出来ません」「記憶がありません」と答える虚しさにも、耐えられなくなっていた。

当然、マーヤもここに住んでいる。マーヤがいないと、ぼくは食事にもコトを欠く。だが彼女は、ときどき東京へ出かける。ダーストニウムの発送などの仕事をこなし、食料品などを買い込んでくるらしい。自動車の運転も、慣れたものだ。

東京と違って、山梨の夜空はとてもきれいだ。その星空を見ていると、どうしてもダーストン星のことを思い出してしまう。みんな元気なのだろうか。マーヤがそっと来て、隣に座る。

――ねえ、マーヤ。君はダーストン星に帰りたいと思わないのかい?
「ええ、思いませんよ。私は人間と違って、すぐに気持ちを切り替えられますから」

――それにしても、いま考えるとダーストンという国はすごかったな。いくつも驚かされたが、特に病気でもケガでも完全に治してしまうあの医療技術は、大したもんだ。ぼくの命も助けられたし、君のように人間の思考能力と感情を持ったロボットも、あの完成された医療技術があってこそ生まれたわけだ。
やっぱりブルトン院長のような人が多くの病院にいて、ああいう手品のような手術ができるんだね。

日本でもiPS細胞の研究が進み、ガンや脳疾患の治癒率が急速に高まっている。そのせいで平均寿命も女性は90歳を超え、男性は85歳に接近した。もう100-200年もすると、ダーストン並みに完全治癒の医療体制が整うのだろうか。
だが、そうなれば地球も過剰人口の問題に直面するだろう。そのときには、やはり「寿命を人為的に100歳に決める」ような制度を導入するのかしら。それがいいことなのかどうか、ぼくはいまだに迷っていて結論を出せずにいる。

マーヤが突然、口を出した。「ブルトン院長の奥さんが言ったこと、覚えてますか」
――うん。彼女は『幼い子どもを残して事故で死ぬ親がいるような世界と、100歳まで安全に生きられる世界。どちらが幸せか』と言ったんだ。ぼくも幼いときに両親を事故でなくしたから、あの言葉は胸に突き刺さったよ。それでも、どちらの世界が好ましいか決断できない。

                                 (続きは来週日曜日)

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