死亡場所・・いきなり物騒なタイトルで恐縮ですが、日本人の死亡している(する)
場所が、この半世紀で大きく様変わりしているのです。
昔は、といっても戦後の話ですが、自宅で亡くなっている人は 82.5%(83万9千人
のうち69万2千人)で、病院、診療所で亡くなっている人は1割強(11.7%)であっ
たのですが、2005年には、まるで逆転しています。 つまり、自宅死亡が12.2%、
病院死亡が 82.4%(108万4千人のうち 86万4千人)となっています。
(厚労省データから作図しました。)
しかし、その後病院死がやや減少し、施設死が増える傾向にあります。2016年の
厚労省の発表では、全死亡者130万7748人の中、病院と診療所を合わせた医療機関で
亡くなった人は99万630人で、全体に占める割合は 75.8%(前年比0.8ポイント減)
と減少しているのです。75.8%は1991年と同率で、約30年前の水準に戻ったことに
なるのです。
DIAMOND onlineの浅川澄一氏(福祉ジャーナリスト)によれば、『病院死の急激
な増加は、奇しくも経済の高度成長期と重なると指摘し、家電製品、マイカーの普
及は生活が一気に便利となり、家族の誕生と死亡も家庭内で手を掛けることなく、
より便利なサービスを求め、病院に任せる。それが豊かな暮らし方であると思い込
んでしまった。』とあり、さらに国の老人医療費の無料化政策も加速の一因とされ
ています。
また、小堀鷗一郎氏(社会医療法人堀之内訪問診療医、国立国際医療研究センター
名誉院長)の講演録にある氏の体験談からもいくつかの事例が示されていました。
自宅死から病院死への変化として、家族、医師、行政、社会が自宅死を許さない
からだと・・。すなわち、80歳男性末期前立腺がん、老々世帯で、妻が息子と相談
したら“そんな状態ならすぐに入院させた方が良い”。 間質性肺炎の89歳男性の
場合、仕事から帰宅した嫁が、義父が廊下で倒れているのを発見しすぐに病院へ。
医師が許さない事例として、“死にそうな患者を家に帰す”という発想は、患者
にも医師にもないということ。 さらに行政の立場から「死が近づいた患者の“自宅
に留まりたい”という思いを尊重することよりも、徘徊する認知症患者や火の不始末
から火事を起こす恐れのある独居高齢者を施設に入所させる傾向にある」と。
そして、社会が死を認めない風潮にもあります。賃貸住宅では、“死ぬ前に入院
させるという条件”や“ここから出棺するのは止めてほしい”などや、最期の場所
を提供する施設『看取りの家』の開設に近隣住民の反対があるなどの風潮があると
述べられています。
このように、自宅死から病院死が急激に増加していますが、最近になって病院死
がやや減少傾向にあるのです。病院死が自宅死に戻るのではなく、施設死が急増傾
向にあるのです。
( DIAMOND online より)
ここでの施設とは、特別養護老人ホーム(特養)と有料老人ホーム、養護老人ホ
ーム、軽費老人ホーム(ケアハウス等)です。(認知症高齢者のグループホームは、
統計上では自宅に含められているそうです)
施設死が増加している理由には2つあると浅川氏は述べています。一つは、厚労省
が2002年以来力を入れてきた「ユニット型個室」の広がりだという。見ず知らずの
4人が一部屋に入居する従来の相部屋(雑居部屋)ではプライバシーは全く守られず、
家族が来ても落ち着かない。それが、個室となれば、自宅で長年使っていた愛着の
ある家具や食器、身の回りの備品を持ち込み、「わが家」に近い設えを施すことが
できるので、「最期は病院でなく、この特養の居室で」と本人や家族が思うように
なるというのです。
もう一つの要因は介護保険制度で、施設で亡くなると新たな報酬として「看取り
介護加算」が2006年度に設けられたことも後押ししていると。
因みに外国ではどうかといえば、DAIAMOND online によれば、欧米諸国ではほぼ、
50%が病院死で、自宅死、施設死が残りを2分している感じのグラフが掲載されて
いました。ただし、ここでいう施設は個室で自宅と似た感じであるとあります。
一方、最期はどこで迎えたいか? の問いに対して、2017年に実施された厚労
省の「人生の最終段階における医療に関する意識調査」では、65歳以上の高齢者の
約70%が「自宅で死にたい」と願っているようです。小堀氏の2005年の調査(長野
県原村の65歳以上へのアンケート)でも、ほぼ同じような結果でありますから、お
およその人は、自宅死を望んでいるのでしょう。
しかし、上に見てきたように、この半世紀のうちに、約8割が病院死であり、それ
が当たり前のように(最も安全で確かである)と思われてきているのです。
平成4年(1992年)医療法の改正によって、医療を提供する場所が病院、診療所な
どの他に「医療を受ける者の居宅等において」が付加されたことによって、在宅
医療が認められるようになりました。
在宅医療とは、「加齢や病気などにより、通院が困難になった患者さんの自宅を
医師や看護師が訪れ、診察や治療、生活指導などの医療行為を行うこと」で、病院
での病棟(入院)医療、外来(通院)医療に次ぐ、「第三の医療」として注目され
ています。
在宅医療は、「訪問診療」と「往診」を組み合わせながら、24時間365日、自宅で
の療養生活が支えられ、さらに、ケアマネジャーや訪問看護、訪問介護、訪問リハ
ビリなどの介護サービスと連携し、チームを組んで自宅での生活を支援するという
ものです。
費用の点などから、種々のバリエーションがあると思いますが、先ずは、最期を
迎える大半の人たちの願いが実現されるようになってきたといえるのかもしれません。
それが、ここに来て新型コロナ禍で少なからず影響が出てきているというのです。
小堀氏の体験でも、コロナによって「訪問診療」の利用が減少しているそうです。
埼玉県新座市で、訪問診療の対象家庭150軒のうち、昨年(2020年)春頃より
2割ほどの家庭から『コロナに感染するのが怖いから、来ないでください』という
のです。 患者本人ではなく介護する家族の意見なんだそうです。 確かに3密で
あるし、多くの高齢患者は耳が遠いのでマスクも出来ないような状況なんですね。
しかし、自宅にこもるうちに身体を動かす機会が減り、ADL(Activity of
Daily Living)が低下し、重症化して行く危険性があります。
自宅療養中の高齢者や末期患者の容態が急変した時、どこへ電話してよいかわか
らない。救急車もすぐに来てくれるかどうか分からない・・。 最近では、コロナ
患者が自宅療養中容態が急変して死亡する事故が起こっていますが、これなどは医
療崩壊の一つの現れでしょうか。
しかし『新型コロナが在宅医療の現場を変えた』とも小堀氏は述べられています。
コロナ禍の中で、有名人や若い力士などが亡くなると、若者を含む多くの人が死を
身近に感じるようになり、その結果「自宅で死にたい」という終末期の患者が叶う
事態も起こるようになったとあります。 白血病末期の男性は、病院からコロナを
理由に家族との面会が禁じられ、自ら退院し、最期の日々を自宅で家族と過ごすこ
とができたのでした。また、ホスピスを希望していた男性は、コロナで面会が制限
されていることを知り、在宅療養にしたなどがあげられていました。
お疲れさまでした~。
北の漁場 北島三郎
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