電力などのエネルギーは、必要なだけ与えられるもの、つまり、供給から需要への一方向の流れ
を前提として考えられてきました。災害で停電が起こった時でさえ、供給側に問題があるのでは
ないか などとも思いがちです。 電力不足などを含むすべての問題の解決は供給側に委ねられて
きたと思います。 普段、それが当たり前だという感じがしていました。
しかし、これから先 いつまでも、現在のような高いサービス水準、すなわち、停電が無く、
周波数も維持された高品質の電力が供給される保証はありません。 今後も、より高度な技術を
駆使して、所々の問題を克服して行くことになるのでしょうけれども、ここで、いったん立ち
止まって、供給側に全てを任せるのではなくて、需要側においても、供給の不安定さをある程度
受け入れ、敢えて共存することで、経済面、環境面で優れたエネルギーシステムが実現できるかも
しれない と提言している人がいました。
先ごろ手元に届いた会報に、需要と供給のバランスを見直した、新しい視点の提言がありました。
「需要から考えるエネルギー問題」(岩船由美子氏、東大生産技研特任教授)と題した論文記事
からその内容について、以下に抜き読みで紹介します。
タイトルの“デマンドレスポンス”は、需要調整(DR)の意味で、需要側でも調整することで、
よりバランスの取れたエネルギーシステムが構築できるのではないかとの視点から、いくつかの
提言がなされています。 エネルギー問題を論じるとき、重要となるのは 3E+S すなわち、経済性、
環境性、供給安定性そして安全性を満足するシステムを構築することであり、そのためには、
太陽光や風力などの再生可能エネルギーを大規模に導入する必要があり、かつ、それを上手に
調整する必要があるが、その一つの可能性が需要家側のデマンドレスポンスだと言っています。
再生可能エネルギーの出力変動に合わせて需要が変わることができれば、経済的で環境にやさしい
エネルギーシステムが構築できる・・としています。
この目的に沿って需要側でできることは、大きく3つあるとしています。すなわち、省エネルギー、
再生可能エネルギー対応のための調整(デマンドレスポンス)そして、CO₂排出量の少ない燃料への
転換あるいは再エネ(燃料転換)の導入です。
省エネといえば、“我慢”イメージが強いですが、具体的には ①エネルギー利用効率の改善、
②無駄の減少、そして最後に ③我慢の省エネ があり、①は例えば家電・給湯器などのさらなる
高効率化がありますが、もはや限界に近いところまで改善されていると思われ、今後は建物の
断熱性向上が有力である。無断熱住宅が4割も存在しているとのデータがあり、新築住宅でも住宅
断熱基準が義務化されていないなどの問題がある。(新築住宅への義務化は、2020年をめどに
実施される予定。) ②の無駄を減少させるのは意外と厄介だとしています。使っていない部屋の
照明を消す、過度な空調を避ける などがあげられるが、消費者が効用に見合うエネルギーを
消費しているかどうかを判断するためには、情報が必要であり 家庭用エネルギーマネジメント
システムによる“見える化”だと提言されています。③については、基本的には実施対象としなく
てもよいけれども、たとえば、東日本大震災後に取り組んだ節電対策によって、消費者意識も
変化した面もあり、これらを習慣化することも重要ではある。 論文では、家庭用エネルギーの
国際比較の図が引用されています。
図1 家庭用エネルギー国際比較
((株)住環境計画研究所 会長 中上英俊氏講演資料より)
図から、日本の家庭は比較的省エネであり、暖房用エネルギー消費量は圧倒的に少ないが、
給湯は浴槽入浴が主体の日本がヨーロッパに比べて多目である。
次に、本提言のメインであるデマンドレスポンス機能について、図2にそのイメージが示されて
います。すなわち、今後太陽光発電等の再生可能エネルギーが増加するにつれ、電力系統の需給
バランスを維持するために、さまざまな柔軟性資源が必要になり、その一つが需要端における
DR機能であり、需要と供給が協調するエネルギーマネジメントの概念図です。
図2 協調分散エネルギーマネジメントの概念
(岩船氏論文より)
たとえば、料金がお天気によって毎日変動するような仕組みがとられ、翌日が晴れと予想された
場合、太陽光発電が たくさん電気を供給すると見込まれるので、翌日の昼は安い電気料金が提示
され、そのような料金シグナルに対して、その時刻に給湯機が動作するといった具合に家庭内の
機器を最適化する。これによって、系統全体の需要が供給側の変動に連動して調整され需給バラン
スの緩和に貢献する というものなんですね。 家庭内の機器にどれほどの調整余地があるかは、
居住者の選択・許容に依存するが、さしあたりの対象は、居住者の効用を阻害しないヒートポンプ
給湯機、電気自動車用電池、定置式蓄電池などと見込まれています。さらに、空調機器なども
DRの対象となり得るとされています。
最後の燃料転換については、やはり、一般家庭の屋根置き太陽光発電が、大きくCO₂を減らす
重要なアイテムだとしています。この際、自家消費を増やすために2割もロスする電池を導入する
のではなく、系統と連携した全体最適な視点を取ることが重要であると述べられています。
「原子力は減らしたい、CO₂も減らしたい、エネルギーコスト増加も嫌や ということであれば、
蓄電コストが無視できるほど安価にならない限り、需要側が変わるしかない。省エネはもちろん
のこと、たとえば、太陽光発電の発電量が増える時間に電気給湯機のお湯を作ったり、早寝早起き
をしたり、洗濯を晴れた日にするなどと、供給に需要を合わせていくことが、ゆくゆく必要になる
かもしれない。需要家にとって本当に必要なサービスと、それを実現するための対価のバランスに
ついて継続的に考えて行く必要がある。」と結ばれています。
明日から、蓼科農園に行ってきます。関東はこのところ大変涼しい毎日でしたが、明日からは
本格的な夏となるようです。 日中は猛暑でも、日が落ちると高原の涼しさが楽しみです。
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