愛知県の東の端、静岡県天竜(現:浜松市天竜区)に隣接する高原の町、そして林業の町、東栄町。
愛知県で生まれ、愛知県で育ち、愛知県で毎日を過ごしている僕ですが、東栄町は今までに一度も行ったことのない町でした。「テーホヘ、テホヘ」のかけ声で鬼が舞う「花祭り」が有名で、秋から冬にかけて各地区ごとに、一晩中鬼の舞いなどが行われ、多くの観光客が訪れ
るそうです。毎年、花祭りの見学に出かけようとは思うのですが、同じ県内でありながらあまりにも遠く、なかなか行く機会をつくることができませんでした。写真や映像で見る限り、それはそれは魅力的な祭りで、一度は見てみたいと思えるお祭りです。
東栄町のもう一つの目玉が「全国チェーンソー・アート大会」です。太さ5~60㎝、人の背の高さくらいの丸木を、チェーンソーだけを使って芸術的な作品に仕上げていくのです。ノミや彫刻刀などは一切使わず、チェーンソー1つを振り回してすてきな作品を作り上げていく過程は、絶対に見る価値があるものと思い、大会が行われる日をネットで検索して出かけました。
6月1日の日曜日の朝、クラシック・ミニを駆って三河高原へと向かいました。もっとも楽な道は、遠回りになりますが、東名高速・豊川ICで降り、R151を1時間ほど北に向かうコースです。しかし、三河高原を横切るルートは、距離は豊川ICコースの2/3程度なのですが、なんと言っても山岳ルート。全日本ラリー選手権新城ラリーに使われてるのではないかと思える山岳路で、狭くてくねくねした山道をひたすら走り続けることになります。それで、小さな小さな
ミニ・クーパーの出番となったのです。
R301で新城作手に出て、県道35号線に入って北に向かいます。数㎞も走れば、菅沼川沿いの1.5車線の狭い道になります。その後のR420も狭いくねくね山道。R257のよく整備された道路から県道389伊那街道に出たところで、山のてっぺんにある田峯観音で休憩しました。実は、1時間半ほど
走ったら、トイレに行きたくて行きたくて・・・。大きな観音様があるくらいだから、きっと駐車場にはトイレがあるはずと考え、立ち寄ったのですが、これがまた立派な観音様が階段の上に。下界を見渡せば三河高原国定公園の美しい景色。でも、今回は先を急いでいたので、トイレだけ済ませて再出発。
伊那街道から県道32号線に入ると、再び山また山の峠道。小さなミニの得意とする道です。ゴーカートのようなコーナリングを繰り返しながら山道を登って行きました。すると棚田の絶景が。「四谷の千枚田」という看板と、ライトアップのお知らせのポスター
が目につきました。帰りに絶対に寄って行こうと心に決め、さらにミニを進めました。
峠を越えると、新城市から東栄町に入りました。豊田からかれこれ2時間が過ぎています。
山を下るとR473に合流し、のどかな山村の風景を見ながら東栄町の市街地に入りました。チェーンソー・アート大会の会場へのコースは、要所要所に案内のボランティアさんがいて、分かりやすく親切に駐車場に誘導してくださいました。
着いた時、ちょうど制作活動が始まったばかりでした。プロ・アマ合わせて20人あまりの
芸術家たちが、チェーンソーを巧みに操り、大きな丸木を作品の形に彫り進めていました。木の粉が激しく飛び散り、チェーンソーのエンジン音が響き渡り、周りの山々にこだまし、それはそれは独特の豪快さが感じられました。大きなテントには商工会の人や、役場の人、町のボランテイアの人たちが各
ブースで焼きそばやソーセージなどを振る舞っていました。まさに町全体が一つになって盛り上げている、そんな感じが伝わってきました。全国各地から集まった芸術家の選手たちは、頭に手ぬぐいを巻き、Tシャツの腕
を肩までまくり、体じゅうから汗を流し、丸木の向こう側へ行ったり、こちら側に来たり、少し離れて制作途中の作品を眺めたり、時折、しゃがみこんでチェーンソーに燃料を補給したり、せわしそうに動きながら作品を仕上げていきます。
会場脇の広い駐車場はほぼ満車。チェーンソー・アート制作の周りも、商
工会のブースも「ここは本当に山の中の過疎の町?」と思えるくらい大勢の人でごった返していました。
チ
ェーンソー・アート大会は、前日の土曜日に2時間、翌日曜日に2時間の4時間で行われます。11時の終了の合図で、エンジン音がぴたっと止みました。そこからは、作品の近くに行って自由に鑑賞することができます。どれもみな、見事なものです。エンジンのこぎり1本で、写真のような芸術作品ができてしまうのですから、ただただ感心するばかりです。
お昼が近づいてきたので、商工会のブースで焼きそばとソーセージで昼食を
とりました。ベンチはほとんど空いてなかったので、愛車ローバー・ミニに積んである折りたたみ椅子を出し、腰を下ろして食べました。
その後ぶらぶら歩いていると、見たことのある顔が!
かつて、僕がみよし市の某小学校の教務主任をしてた時
に、同じ学校にいたG先生です。彼女が故郷の町に戻ったことは知っていましたが、まさかここで出会えるなんて、跳び上がるくらいうれしかったです。アトラクションの小学生のダンス・チームの引率で来たそうです。教員の世界は、遠くの町に異動すると、ほとんどの場合が「永遠の別れ」になってしまうのです。みよし市にいた頃のG先生は、常に前向きに子どもと向き合う素敵な先生でした。こうして故郷に戻っても休日にもかかわらず子どもたちと行動を共にしている姿を見て、相変わらず頑張り屋さんだなあと思いました。
お昼のアトラクションの後は、スピード・カービングという種目で、わずか1時間で丸木を芸術作品にしてしまうという速さと芸術性の両方を競う競技でした。これまたすごいのなんの。本当にチェーンソー1つでどんどん削り、素敵な作品に仕上げてしまうのですから驚きです。
イベントはまだまだ続きましたが、温泉にも入りたいと思っていましたし、また、往路で見た四谷の千枚田をゆっくり見たいとも思い、少し早めに会場を後にしました。
東栄町役場に近い東栄温泉「花祭りの湯」は、広い駐車場に充実した施設で、地域の
方々の憩いの場のように感じました。温泉独特のにおいとつるつる感を楽しみ、い~い気持ちでした。いつもなら湯上がりのコーヒー牛乳を飲むところですが、暑い日だったのでアイスクリームにしました。
帰り道も三河山中のくねくねした狭い高原道路。往路で体験しているので小さなミニですいすい走りました。もちろん、四谷の千枚田でミニを停め、ゆ
っくりと眺めました。一つ一つが石垣で囲まれ、山の斜面一面に棚田が組まれている風景は、大袈裟に言えば「日本の美」を堪能することのできるのです。
次は、冬の花祭りです。「テーホヘ、テホヘ」のかけ声で有名な鬼の舞
も絶対に一見の価値があります。
奥三河の山里の町東栄町は、過疎地と思えない活気に満ちた町でした。