2050年の日本のロボットメーカーで企画された外国メーカーとのアンドロイド共同開発を通じて、生産管理のプロジェクトリーダー水沢依奈が、天才的な能力を持つが気まぐれなオタクエンジニアと交流し共感を深める未来ロボット物SF。
読み物としてみたとき、全体としてそこそこの水準ではありますが、前半で用意した材料と期待のタネを後半で展開しきれずどこか不発に終わります。
とりわけ、最初の掴みで見せた、能力とガッツのある28歳派遣上がりにしてまるでプロジェクトX世代(って言葉さえ通じない世代が増えてるか)のような水沢依奈のキャラ、この魅力的なキャラが、オタクエンジニアたちを叱咤激励するうちに元気よさがどんどん薄れ、最後はアンドロイドと痴呆症の父親とそしてオタクエンジニアの幼児退行したような姿への母性愛に落とし込まれていきます。はっきり言って、もったいない。元気のいいねえちゃんをまっすぐ突っ走らせても行き詰まると思ったのかも知れませんが、オタク坊やへの母性愛で終わらせるのなら、わざわざこういうキャラを設定しなくても、と思います。バリバリ働ける能力を持っていても、女であれば母性愛に目覚めるのが正しい道と示唆するような、こんな作品を男性作家が書けば、差別的作品と評価されるかオタクの身勝手な妄想と片付けられると思いますが、主人公と同世代女性となると・・・。
それに共同開発の相手企業の正体が米軍と来れば、中盤・終盤でアクションか陰謀との闘いを期待しますが、せいぜいがバイクでの追いかけっこで終わります。
主人公がエンジニアではなくてプロジェクトマネージャーのため、アンドロイド開発がテーマでありながら、ロボット技術面のディテールはあまり登場しません。まぁその方が、技術用語が飛び交う文章よりよほど読みやすいのですが、開発の技術的な困難がヤマにならずにあっさりスルーされる感じで、そこも不完全燃焼感が残ります。
そして、ラストになって、突如観念的な展開になり(唐突に「ラカン:フランスの哲学者」ですって)、水沢依奈がオタクエンジニアへの母性愛に目覚める展開と併せ、オタクっぽいエンディング。
それぞれの場面で見ると悪くないんですが、なんかせっかくの材料やアイディアが十分に生かし切れていないような、ちょっと残念感が残る読後感です。この先に期待しましょう。
第9回小松左京賞受賞作。受賞時のタイトルは「エスバレー・ポワンソン・プティタ」(ラカンの引用)。このあたりの衒学趣味がエンタメとして突っ走れない要素でしょうか。
森深紅 角川春樹事務所 2009年2月8日発行
読み物としてみたとき、全体としてそこそこの水準ではありますが、前半で用意した材料と期待のタネを後半で展開しきれずどこか不発に終わります。
とりわけ、最初の掴みで見せた、能力とガッツのある28歳派遣上がりにしてまるでプロジェクトX世代(って言葉さえ通じない世代が増えてるか)のような水沢依奈のキャラ、この魅力的なキャラが、オタクエンジニアたちを叱咤激励するうちに元気よさがどんどん薄れ、最後はアンドロイドと痴呆症の父親とそしてオタクエンジニアの幼児退行したような姿への母性愛に落とし込まれていきます。はっきり言って、もったいない。元気のいいねえちゃんをまっすぐ突っ走らせても行き詰まると思ったのかも知れませんが、オタク坊やへの母性愛で終わらせるのなら、わざわざこういうキャラを設定しなくても、と思います。バリバリ働ける能力を持っていても、女であれば母性愛に目覚めるのが正しい道と示唆するような、こんな作品を男性作家が書けば、差別的作品と評価されるかオタクの身勝手な妄想と片付けられると思いますが、主人公と同世代女性となると・・・。
それに共同開発の相手企業の正体が米軍と来れば、中盤・終盤でアクションか陰謀との闘いを期待しますが、せいぜいがバイクでの追いかけっこで終わります。
主人公がエンジニアではなくてプロジェクトマネージャーのため、アンドロイド開発がテーマでありながら、ロボット技術面のディテールはあまり登場しません。まぁその方が、技術用語が飛び交う文章よりよほど読みやすいのですが、開発の技術的な困難がヤマにならずにあっさりスルーされる感じで、そこも不完全燃焼感が残ります。
そして、ラストになって、突如観念的な展開になり(唐突に「ラカン:フランスの哲学者」ですって)、水沢依奈がオタクエンジニアへの母性愛に目覚める展開と併せ、オタクっぽいエンディング。
それぞれの場面で見ると悪くないんですが、なんかせっかくの材料やアイディアが十分に生かし切れていないような、ちょっと残念感が残る読後感です。この先に期待しましょう。
第9回小松左京賞受賞作。受賞時のタイトルは「エスバレー・ポワンソン・プティタ」(ラカンの引用)。このあたりの衒学趣味がエンタメとして突っ走れない要素でしょうか。
森深紅 角川春樹事務所 2009年2月8日発行