伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

灰色猫のフィルム

2009-03-15 11:20:44 | 小説
 母親を刺し殺した青年が、髪を切り落として痣を作り容貌を変えて漫画喫茶や公園を転々とし、ホームレスに拾われて生活するが、拾ってくれたホームレスとも暴力沙汰になって飛び出して行き場がなくなり、通りすがりの人に母親殺害を告白するが相手にされず警察に電話をしているうちに通りすがりの高校生に因縁をつけて殴り合うという、どうにも救いようのない小説。
 動機も心情も語られず、ただ殺伐とした暴力が繰り返され、人間関係を結べそうでうまく結べない様子が、事実の流れとして綴られています。
 主人公は将来への洞察力がなく、対人能力にも欠け、何かを努力するということもしない、身勝手で恩知らずな人物と感じられますが、内面がほとんど描かれていないので正確にはわからない、そういう人物設定になります。
 殺伐とした人間関係と理由なき暴力といったところがテーマなんでしょうか。何十年か前なら、それ自体が文学のテーマとして活きたのでしょうけど、今時は、ワイドショーでもつければありきたりになったエピソードを動機も心情も正面から描くことなく羅列されても、だからどうしたの?と思うだけです。
 したり顔で動機を解説しないところがいいという評価なのかも知れませんが、こういうのに文学賞が出るって私には理解できませんでした。


天埜裕文 集英社 2009年2月10日発行
第32回すばる文学賞
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サリー・ロックハートの冒険2 仮面の大富豪 上下

2009-03-15 00:45:55 | 物語・ファンタジー・SF
 1878年のイギリスを舞台に、ケンブリッジ大学を出て財政コンサルタントとして独立開業した22歳の女性サリー・ロックハートが、顧客からの相談で、優良企業を食いつぶして隠れて武器商人として政界に画策する外国人実業家の陰謀に巻き込まれ、戦うというストーリーの小説。
 サリーは、16歳だった1巻から成長し、当時の女性にはかなり珍しく大学を出て独立開業し、自立心と正義感にあふれ自信に満ちています。サリーだけでなく女性の教師がコツコツと貯めた財産を投資したり、芸人やインチキ霊媒としてしたたかに稼ぐ女性も登場しますし、深窓の令嬢が政略結婚に抵抗して失踪したり、奇術師を恋い慕うお針子が意外な強さを見せたりします。
 お針子さんの性格設定が今ひとつしっくりこず、ストーリー展開の都合でテキトーに動かしている印象ですが。それと悪役サイドが、残忍なのに、会って話せば正直に何でも話してしまうし、行動にもスキが多すぎて、都合のいい展開と感じるところがあるのが難点です。
 全体としては娯楽読み物としてはそこそこの線だと思います。1870年代の設定にした理由は今ひとつわかりませんけど。


原題:The Shadow in the North
フィリップ・プルマン 訳:山田順子
東京創元社 2008年10月30日発行 (原書は1986年)

第1巻は2007年7月28日の記事で紹介しています。
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