伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

海を照らす光

2017-05-06 12:08:34 | 小説
 孤島の灯台守と3度目の流産をしたばかりの妻のもとに男の死体と乳児を乗せたボートが流れ着き、妻は報告の信号を送ろうとする灯台守を制止し、流れ着いた乳児を自分の子として育て、2年後に本土を訪れて夫と乳児を失いあきらめきれずにさまよう材木商の娘の存在を知り、逃げるように孤島に戻る妻と良心の呵責に耐えきれない灯台守の言動とその行く末を描いた小説。
 偶然に自らの手元に流れ着いた乳児を育てるという人道的な行為に始まった育ての親子関係が、数年の時を経たのちに、生みの母の存命と生みの母がなお乳児を探し求めているといった状況を知った場合、人はどうすべきか、子どもにとってはどうすることがよいのか、育ての親と生みの母の心情と人生観からはどうかという、重いテーマを投げかけています。
 あわせて、子の生死、子を手放すことと夫婦の愛情/関係、夫婦関係の強さと脆さもまた、さらに重いテーマとなっています。
 数週間とか数か月程度であれば、単純に生みの親に戻せばいいと思いますが、数年を経て育ての子としっかりとした関係/絆ができてしまうと簡単ではなく、私はむしろ血縁よりも共に過ごした月日の重さの方を尊重したくなります。そこは再会した生みの親側の子との関係の作り方もあって、この作品で言えば祖父セプティマス・ポッツと叔母グウェンの懐の深さで子の心を開いていく過程の大切さが沁みるところでもありますが。
 逆に、他の者たちの狼狽しながらも相対的に落ち着いた言動に比して、育ての母(灯台守の妻)イザベルと生みの母ハナの頑なで気短なふるまいは、女性/母をステレオタイプに貶める描き方とも見えます。
 提示された重いテーマについて、「決断」に至るまでの葛藤は描かれますが、「決断」したのちの苦しみ、葛藤はあっさり飛ばされています。あまり引きずって重苦しくしたくなかったのかもしれませんが、そこももう少し描いて欲しかった気がします。
 この作品を原作とした映画「光をくれた人」が2017年5月26日から公開されます。そのために原作を読んだのですが、夫婦で見に行くのが重い作品だなぁと思いました (-_-;)


原題:The Light Between Oceans
M・L・ステッドマン 訳:古屋美登里
早川書房 2015年1月25日発行 (原書は2012年)
コメント
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