生物の環境(の変化)への適応の度合いに応じた生存競争による自然淘汰、生殖機会と繁殖の度合い(子の出産数と回数)による性淘汰、進化における利他性/利己性の位置づけ(理論的にはグループ内全員が利他性であることを確保できない以上は利己性が優位)と血縁淘汰(自己の子が出生・繁殖できなくても、血族の子が繁殖すれば同傾向の遺伝子が残る→血縁者に奉仕する利他性は遺伝子継承に優位)、中立進化(生存の有利不利に結びつかない形質の偶然的継承)、形質導入/形質転換(ウィルスなどの他生物からの遺伝子の直接の取り込み)など、進化論(この本では「進化説」)についての様々な議論と研究成果を紹介する本。
この本でもそうですが、動物行動学系の本で進化論が説明される際、「繁殖戦略」という言葉がよく用いられます。この言葉は、またそれをめぐる書きぶりは、動物が自らの遺伝子を残す目的で、繁殖のための行動様式を選択していることを印象づけます。進化論は、環境適応/生き残りに有利な者が、また繁殖の機会が多かった者が、より多くの子孫を残し、結果的に多数派となっていくことを示しているだけで、個々の生物がそれを意図していることを意味していないはずです。私は、いつも違和感/疑問を持ちながら読むのですが、動物は自己の遺伝子を残そうという目的を持ち意識して繁殖行動を選択しているのでしょうか。また個々の動物にとって、その繁殖行動には選択肢(選択の余地)があるのでしょうか。例えば「イトヨという魚の雄は繁殖期になると腹部が赤く色づいて目立つようになるが、雌は腹部の赤さが異なる雄の中から、赤色の強い雄を選択し、これと生殖する。研究によると、雄の腹部は雄が寄生虫に寄生されると赤さが薄れるという。したがって雌は腹部の赤い雄と生殖することによって、寄生虫に寄生されていない雄を選んでいることになる。」とされています(130ページ)。この例も含め、著者は「雄または雌の好みや振る舞い、性的性質などが相手の繁殖行動の進化に影響を与えるのである。」(129ページ)と説明しています。このケースで、イトヨの雌が腹部のより赤い雄と生殖することは、選択が可能(腹部がより赤くない雄と生殖することも可能)なのでしょうか。もし可能だとすると、どちらでも選びうる中で腹部がより赤い雄を選択するという「繁殖行動」は遺伝するのでしょうか。つまり、言ってみれば「好み」が遺伝するのでしょうか。雌に選択が可能で、かつその繁殖行動が遺伝しないとすれば、「性淘汰」は進まないということになるのではないでしょうか。他方で、「好み」まで遺伝すると言われてしまうと、何か恐ろしい、さらに釈然としないものを感じてしまいます。少なくとも性的嗜好が遺伝するものであるとすれば、同性愛者は子孫を残せない以上、理論上は性淘汰により減少していくはずですが、事実がそうなっているようには思えませんし。このあたりの説明には、納得できないものがあります。
そういうことをまた改めて考えさせられたりすることも含めて、刺激的な本ではあります。

小原嘉明 中公新書 2016年12月25日発行
この本でもそうですが、動物行動学系の本で進化論が説明される際、「繁殖戦略」という言葉がよく用いられます。この言葉は、またそれをめぐる書きぶりは、動物が自らの遺伝子を残す目的で、繁殖のための行動様式を選択していることを印象づけます。進化論は、環境適応/生き残りに有利な者が、また繁殖の機会が多かった者が、より多くの子孫を残し、結果的に多数派となっていくことを示しているだけで、個々の生物がそれを意図していることを意味していないはずです。私は、いつも違和感/疑問を持ちながら読むのですが、動物は自己の遺伝子を残そうという目的を持ち意識して繁殖行動を選択しているのでしょうか。また個々の動物にとって、その繁殖行動には選択肢(選択の余地)があるのでしょうか。例えば「イトヨという魚の雄は繁殖期になると腹部が赤く色づいて目立つようになるが、雌は腹部の赤さが異なる雄の中から、赤色の強い雄を選択し、これと生殖する。研究によると、雄の腹部は雄が寄生虫に寄生されると赤さが薄れるという。したがって雌は腹部の赤い雄と生殖することによって、寄生虫に寄生されていない雄を選んでいることになる。」とされています(130ページ)。この例も含め、著者は「雄または雌の好みや振る舞い、性的性質などが相手の繁殖行動の進化に影響を与えるのである。」(129ページ)と説明しています。このケースで、イトヨの雌が腹部のより赤い雄と生殖することは、選択が可能(腹部がより赤くない雄と生殖することも可能)なのでしょうか。もし可能だとすると、どちらでも選びうる中で腹部がより赤い雄を選択するという「繁殖行動」は遺伝するのでしょうか。つまり、言ってみれば「好み」が遺伝するのでしょうか。雌に選択が可能で、かつその繁殖行動が遺伝しないとすれば、「性淘汰」は進まないということになるのではないでしょうか。他方で、「好み」まで遺伝すると言われてしまうと、何か恐ろしい、さらに釈然としないものを感じてしまいます。少なくとも性的嗜好が遺伝するものであるとすれば、同性愛者は子孫を残せない以上、理論上は性淘汰により減少していくはずですが、事実がそうなっているようには思えませんし。このあたりの説明には、納得できないものがあります。
そういうことをまた改めて考えさせられたりすることも含めて、刺激的な本ではあります。

小原嘉明 中公新書 2016年12月25日発行