福島原発事故の際に福島第一原発所長として事故対応をした故吉田昌郎氏を幼少期から東京電力への入社、本店でのコストカット(原発の安全対策の削減)、ひび割れ隠し(虚偽報告)問題などの福島第一原発所長となる前の経緯も含めて描いた小説。
「本作品には、一部実在の人物や団体が登場しますが、内容はフィクションです」と断ってはいますが、ノンフィクションまたはモデル小説として、踏み込みにくいということなんでしょうけれど、福島原発事故前の担当部署で当然関わったはずの様々な問題での吉田昌郎氏の対応は、少なくとも吉田氏自身は手を汚さず筋を通したという記述になっています。東電の裏側/闇の部分を担う同期の総務畑の人物を配することで、東電の不正を匂わせてはいますが、主人公である吉田昌郎氏に関する限り、「英雄」の裏側をも描いたとは言いにくく、全体としては吉田昌郎氏の主張が正論であるという印象を持ちます。
そうすると、福島原発事故時の対応は首相の器ではない菅首相は非常識で邪魔をしただけで、東電は全員撤退など一瞬たりとも考えたこともなく朝日の吉田調書報道は誤報であるという主張、また日本には運転中に配管等にひび割れが生じてもそのまま運転を続けることを認める維持規格がなかったことが不合理だ、東電のひび割れ隠しの発覚を契機に維持規格が採用されたことこそが合理的だという主張が、正しいものと印象づけられます。
私は、自民党政権ならあの事故にも冷静に対処できたなどとはまったく思いません(同レベルのあたふたぶりでしょうし、少なくとも情報は民主党政権より隠されたと思います)し、撤退問題については何故かそのあたりの時間帯はテレビ会議の音声がないとされていることや吉田調書でも初期の調書では微妙な言い方もあり疑問を持っています。また電力会社側は維持規格があった方が都合がいいでしょうしまた技術者レベルでは維持規格が合理的なのだとしても、原発導入の際にはそのようなことはおくびにも出さず絶対安全と言い続け、ひびはまったくない前提で計算上の安全が確認される条件で法的に許可されている以上、そのルールを守ることこそが当然で、維持規格があって当然などと後から言うのはちゃぶ台返し・後出しじゃんけんで、卑怯なことだと思います。
著者は、そこは私とは違う考えということになるのでしょうけれども、それにしても「週刊朝日」に連載した小説で、主人公に東電の立場を代弁させる、しかも遡ってみれば、原発裁判を扱い青法協や青法協にシンパシーを持つ裁判官(や弁護士)に正義があるように描いた「法服の王国」を「産経新聞」に連載した著者は、ずいぶんとひねくれ者のように見えます(私は、「法服の王国」の事前調査で取材を受けましたが、そのときは飄々とした印象だったのですが)。
黒木亮 朝日新聞出版 2015年7月9日発行
「週刊朝日」2014年1月3/10日号~12月26日号連載
「本作品には、一部実在の人物や団体が登場しますが、内容はフィクションです」と断ってはいますが、ノンフィクションまたはモデル小説として、踏み込みにくいということなんでしょうけれど、福島原発事故前の担当部署で当然関わったはずの様々な問題での吉田昌郎氏の対応は、少なくとも吉田氏自身は手を汚さず筋を通したという記述になっています。東電の裏側/闇の部分を担う同期の総務畑の人物を配することで、東電の不正を匂わせてはいますが、主人公である吉田昌郎氏に関する限り、「英雄」の裏側をも描いたとは言いにくく、全体としては吉田昌郎氏の主張が正論であるという印象を持ちます。
そうすると、福島原発事故時の対応は首相の器ではない菅首相は非常識で邪魔をしただけで、東電は全員撤退など一瞬たりとも考えたこともなく朝日の吉田調書報道は誤報であるという主張、また日本には運転中に配管等にひび割れが生じてもそのまま運転を続けることを認める維持規格がなかったことが不合理だ、東電のひび割れ隠しの発覚を契機に維持規格が採用されたことこそが合理的だという主張が、正しいものと印象づけられます。
私は、自民党政権ならあの事故にも冷静に対処できたなどとはまったく思いません(同レベルのあたふたぶりでしょうし、少なくとも情報は民主党政権より隠されたと思います)し、撤退問題については何故かそのあたりの時間帯はテレビ会議の音声がないとされていることや吉田調書でも初期の調書では微妙な言い方もあり疑問を持っています。また電力会社側は維持規格があった方が都合がいいでしょうしまた技術者レベルでは維持規格が合理的なのだとしても、原発導入の際にはそのようなことはおくびにも出さず絶対安全と言い続け、ひびはまったくない前提で計算上の安全が確認される条件で法的に許可されている以上、そのルールを守ることこそが当然で、維持規格があって当然などと後から言うのはちゃぶ台返し・後出しじゃんけんで、卑怯なことだと思います。
著者は、そこは私とは違う考えということになるのでしょうけれども、それにしても「週刊朝日」に連載した小説で、主人公に東電の立場を代弁させる、しかも遡ってみれば、原発裁判を扱い青法協や青法協にシンパシーを持つ裁判官(や弁護士)に正義があるように描いた「法服の王国」を「産経新聞」に連載した著者は、ずいぶんとひねくれ者のように見えます(私は、「法服の王国」の事前調査で取材を受けましたが、そのときは飄々とした印象だったのですが)。
黒木亮 朝日新聞出版 2015年7月9日発行
「週刊朝日」2014年1月3/10日号~12月26日号連載