父親を刺殺したとして逮捕されたアナウンサー志望の女子大生聖山環菜について出版社の依頼でノンフィクションを書こうとしている臨床心理士の真壁由紀が、環菜との交流と確執、大学での知人であり義弟でもある環菜の弁護人庵野迦葉との過去と現在を行き来しながら環菜の裁判に臨むという小説。
幼少期からの性的なトラウマを抱えて、父親との関係、周囲の男との安易でもあり自傷的でもある関係とそれをある場面では他罰的にある場面では相手をかばい自虐的に捉え揺れ動く環菜を、ある種類似のトラウマを持つ由紀が分析し、カウンセリングし、自覚させて行くという展開が読みどころです。
朝井リョウの解説が「特に男性の読者の中には、『このシチュエーションでこれほどの精神的ストレスが生まれ得るものなのか』『その振る舞いをもってして、同意や好意の表明ではないと言うのか』と、狐につままれるような気持ちになる人もいるかも知れない」(356ページ)と書いているように一般化した挙げ句に男にはわからないという読み方をするのが適切かは、私にはわからないけれど。
人助けに興味ないという迦葉に対して我聞が「人助けしたいやつはたいてい同情できる人間しか助けたがらない。助けたくない人間まで助けなきゃいけないのが医者と弁護士だ。だから迦葉ぐらい引いてる人間の方が向いてる」という場面(205ページ)。わかるような気もしないではないですが、弁護士ってボランティアじゃなくて自営業者でして、同情できる人間の依頼しか受けなかったら商売にならない/生活できないからイヤでも同情できない人の事件もやらざるを得ません。そういう実情からすれば、少しでも共感力や熱意のあるところから始めた方がいいんじゃないかと思うんですが…
オチは、大岡昇平の「事件」を意識しているかなという印象もありますが、そういう目で見てしまうと「事件」の方が圧倒的に重みがあるので比較しない方がいいでしょうね。
島本理生 文春文庫 2020年2月10日(単行本は2018年5月)
別册文藝春秋連載 直木賞
幼少期からの性的なトラウマを抱えて、父親との関係、周囲の男との安易でもあり自傷的でもある関係とそれをある場面では他罰的にある場面では相手をかばい自虐的に捉え揺れ動く環菜を、ある種類似のトラウマを持つ由紀が分析し、カウンセリングし、自覚させて行くという展開が読みどころです。
朝井リョウの解説が「特に男性の読者の中には、『このシチュエーションでこれほどの精神的ストレスが生まれ得るものなのか』『その振る舞いをもってして、同意や好意の表明ではないと言うのか』と、狐につままれるような気持ちになる人もいるかも知れない」(356ページ)と書いているように一般化した挙げ句に男にはわからないという読み方をするのが適切かは、私にはわからないけれど。
人助けに興味ないという迦葉に対して我聞が「人助けしたいやつはたいてい同情できる人間しか助けたがらない。助けたくない人間まで助けなきゃいけないのが医者と弁護士だ。だから迦葉ぐらい引いてる人間の方が向いてる」という場面(205ページ)。わかるような気もしないではないですが、弁護士ってボランティアじゃなくて自営業者でして、同情できる人間の依頼しか受けなかったら商売にならない/生活できないからイヤでも同情できない人の事件もやらざるを得ません。そういう実情からすれば、少しでも共感力や熱意のあるところから始めた方がいいんじゃないかと思うんですが…
オチは、大岡昇平の「事件」を意識しているかなという印象もありますが、そういう目で見てしまうと「事件」の方が圧倒的に重みがあるので比較しない方がいいでしょうね。
島本理生 文春文庫 2020年2月10日(単行本は2018年5月)
別册文藝春秋連載 直木賞