伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

最新派遣業界の動向とカラクリがよ~くわかる本[第5版]

2020-10-19 00:02:17 | 実用書・ビジネス書
 労働者派遣の仕組み、法制度と最近の改正、派遣会社の業務と注意点などを専ら派遣会社側の視点で説明した本。
 タイトルにある「カラクリ」という言葉から、内部告発的な、あるいは業界の暗部・恥部等の実態についての記述を期待すると、まったく期待はずれに終わります。派遣会社の実務については、基本的に型どおりの建前が説明されていて、ところどころ法を守らない悪質な業者もいる(それでまっとうな派遣会社も一緒くたにされて迷惑だ)ということが抽象的に示唆される程度です。
 労働者派遣が「労働者供給」とは違うもののように説明し、「誤解する人も少なくない」などと書いています(20~21ページ)。派遣業界の人はそう思いたいのでしょうけれども、職業安定法第4条第7項は、労働者供給を「供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させること」と定義しており、性質から見れば労働者派遣は「労働者供給」そのものです。性質上は「労働者供給」そのものなんですが、労働者派遣は派遣法ができたときに適法とされているから、職業安定法第4条第7項が定義において派遣法の労働者派遣に該当するものは含まないとして、職業安定法にいう「労働者供給」からは除外しているというだけです。それをそもそも違うもののようにいうことは誤りで、それこそ誤解を招く表現だと思います。
 著者は、派遣労働者を「非正規労働者」と呼ぶことを非難し、「不当な差別のにおいを感じます」とまで述べています(186ページ)。派遣労働者は、無期契約でない限り、どれだけ更新を繰り返して長期間働いていたとしても、短く区切られた契約期間が来たときにはいつでも何の理由もなくても雇止めができる、法的には絶望的に不安定な雇用形態です。期間を決めずに雇われたアルバイトよりも不安定な雇用です。「非正規」という言葉がなくなれば、不安定な雇用形態が改善されるわけではありません。「非正規」という言葉を使わないようにすることは、派遣労働者が非正規労働者の中でもとりわけ不安定な、弱い立場にあることを、一つも改善しないままにそこから目を背けさせるだけです。「セクハラ」という言葉で名付けられた故に被害女性が声を上げることができたことを見てもわかるように、「非正規」という言葉を使わせまいとすることは派遣労働者が不安定な雇用の実態を直視して声を上げることを抑え込むものです。
 そういった派遣会社側の思惑・利害と、基本的に建前・きれいごとに終わっているとは言え派遣会社の業務や派遣先・派遣労働者への対応に際して派遣会社が考えていることを知ることができるという点では役に立つかなぁと思いました。


土岐優美 秀和システム 2020年8月6日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする