伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。今年も目標達成!

倒産法入門 再生への扉

2021-05-10 21:25:14 | 人文・社会科学系
 破産、民事再生、会社更生、特別清算の手続とそれらの手続を通じて生じる債務者、債権者、その他の利害関係人との法的な関係について解説した本。
 前半は、破産(個人、法人を通じた清算型手続)、民事再生(個人、法人を通じた再生型手続)、会社更生(株式会社のみを対象とする再生型手続)、特別清算(株式会社のみを対象とする清算型手続)の4種類の法的整理について、概説し、その共通点と相違点を説明しています。簡潔な説明で、これくらい簡潔に説明できるのかと感心しましたが、破産の免責/免責不許可事由の説明では、実務上は免責不許可のポイントになりやすい破産管財人に対する説明義務違反には言及して欲しかったと思いますし、破産免責(個人だけが対象)の説明を続けた後で続く民事再生で個人再生の話がまるまる省略されたのはちょっとはしごを外された感じがしました。やはりそこは個人の場合の破産と個人再生(民事再生)の関係(共通点、相違点)を説明して欲しいと思いました。
 後半で、手続全体を通して債務者と管財人等の手続主宰者の関係、法的手続が開始されることが持つ意味、契約関係への影響(継続させることの価値と債権者平等/保護の価値)、債権者を害する行為の法的な評価とその効果を否定する手段(否認権等)、担保権者の扱いと相殺を許す範囲などを論じていて、こちらは、実定法だけではなく立法論も含めて、倒産に当たって、債務者と債権者、その他の利害関係人の関係の利益考量、優先順位、あるべき姿を考えさせています。著者としては、こちらの方が書きたかったのでしょうね。企業活動、経済活動をめぐり、金貸しやその世界で儲けを図る者たちが編み出すさまざまな実質的な担保・優先権を得る法的な枠組みについて、公正・公平を図る観点から、少し苦言を呈しています。
 倒産法制全般についての簡潔な解説とそういった老学者の示唆も含めて有益な読み物と思います。ただし、著者はできるだけ平易に解説したといってはいますが、やはり法律用語が飛び交い、詳しくは専門書をという部分が多いため、易しく読めると感じるのは業界人だけかとも思いますが。


伊藤眞 岩波新書 2021年1月20日発行
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