不動産鑑定士として開業している夫光一の秘書的な業務をしながら夫が話を聞いていない、応答しない、妻との夜の接触を必要最低限にしている、寝室でも寝たふりをしている、ここ1年ほどは完全にセックスレスだという事情から夫を嫌い、マッチングアプリに登録してこっそり男と逢瀬を試みる能海まりと、古書店を経営していた夫俊生が急死し何を見ても夫を思い出して泣き暮れて1年余を過ごしようやく料理教室を再開したがなかなか立ち直れない園田実日子の2人が過ごす日々を交替に綴った小説。
亡き夫と仲良く過ごした日々を思い出し続け、夫を恋しく思い、その喪失に落ち込み続ける実日子と、同居している夫が構ってくれないことを呪い「いないも同然」として実日子より自分の方がずっと不幸だと憤るまりを並列させ、けなげな実日子とあまりにもジコチュウのまりを対照的に際立たせています。人間は、誰しも自分しか見えない、自分が一番苦労しているなどと思いたがるものではありますが、自分が思うように反応してくれない、自分の思うように相手をしてくれないというだけで、浮気もしていない、妻に対しては暴力はもちろんのこと怒鳴ることも高圧的な態度を取ることもない夫を徹底的に嫌い自分は不幸だと言い募るまりには全然共感できないし、こういう人の気持ちをわかりたいとも思えません。こういう人、いくらでもいるんでしょうけど、率直に言って関わりたくないなぁと思ってしまいます。
しかし作者は、最後にこの2人が、共通の属性を持っている、ある意味で似たものと示唆して、読者をハッとさせようとしているのでしょうか。そうすると素直でないまりは不器用な可哀想な人という位置づけにもなるのでしょうけれど、でも、それでも、ここまでジコチュウな態度を取られるとそれは自業自得、やっぱり周りにいたらお付き合いしたくないなぁという気持ちは動かない気がします。
井上荒野 角川春樹事務所 2020年7月18日発行
「ランティエ」連載
亡き夫と仲良く過ごした日々を思い出し続け、夫を恋しく思い、その喪失に落ち込み続ける実日子と、同居している夫が構ってくれないことを呪い「いないも同然」として実日子より自分の方がずっと不幸だと憤るまりを並列させ、けなげな実日子とあまりにもジコチュウのまりを対照的に際立たせています。人間は、誰しも自分しか見えない、自分が一番苦労しているなどと思いたがるものではありますが、自分が思うように反応してくれない、自分の思うように相手をしてくれないというだけで、浮気もしていない、妻に対しては暴力はもちろんのこと怒鳴ることも高圧的な態度を取ることもない夫を徹底的に嫌い自分は不幸だと言い募るまりには全然共感できないし、こういう人の気持ちをわかりたいとも思えません。こういう人、いくらでもいるんでしょうけど、率直に言って関わりたくないなぁと思ってしまいます。
しかし作者は、最後にこの2人が、共通の属性を持っている、ある意味で似たものと示唆して、読者をハッとさせようとしているのでしょうか。そうすると素直でないまりは不器用な可哀想な人という位置づけにもなるのでしょうけれど、でも、それでも、ここまでジコチュウな態度を取られるとそれは自業自得、やっぱり周りにいたらお付き合いしたくないなぁという気持ちは動かない気がします。
井上荒野 角川春樹事務所 2020年7月18日発行
「ランティエ」連載