宮崎に戻った離婚事件の元依頼者が再婚した谷口大佑と名乗る男が死んだ後、それが別人が実在する谷口大佑になりすましていて谷口大佑は行方不明とわかり、真相の調査を依頼された横浜の在日3世の弁護士城戸章良が、谷口大佑の兄、元カノらと面談し、真相を探り、戸籍を交換する者、それを仲介する者らの生き様に思いをはせる小説。
自分の過去を捨てて他人として生きる、自分の人生を振り返ってのノスタルジーと「あり得た別の人生」への憧憬を、排外主義がはびこる現在と関東大震災時の虐殺の歴史的記憶の狭間で異邦人として生きるという側面はあるものの基本的には恵まれた境遇にある中年の弁護士を通して描くところに、「それが人生」ふうのほのかな諦念とかすかなわびしさを感じさせます。
高校生のときに弟の彼女に欲情していた兄が既婚者の今言い寄ってくることに、「その頃から、わたしのこと、ずっと好きでいてくれたとかって、そういうきれいな話じゃないんですよ。とにかく、わたしとやりたいんですよ。もうこんなおばさんになってるから、何にもいいことなんかないのに、今のわたしがどうとかって関係なくて、一回でもやったって事実がないと、収まりがつかないって感じで。」(308ページ)という美涼に対し、「…理解を絶してる、とも言えない」と応えつつ、会話の展開によってはという夢想を烟らせながら結局は受け流す城戸の心情に、中年を過ぎての出会いの着地点を見てしまいます。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/kaeru_yodare1.gif)
平野啓一郎 文春文庫 2021年9月10日発行(単行本は2018年9月)
読売文学賞受賞作
自分の過去を捨てて他人として生きる、自分の人生を振り返ってのノスタルジーと「あり得た別の人生」への憧憬を、排外主義がはびこる現在と関東大震災時の虐殺の歴史的記憶の狭間で異邦人として生きるという側面はあるものの基本的には恵まれた境遇にある中年の弁護士を通して描くところに、「それが人生」ふうのほのかな諦念とかすかなわびしさを感じさせます。
高校生のときに弟の彼女に欲情していた兄が既婚者の今言い寄ってくることに、「その頃から、わたしのこと、ずっと好きでいてくれたとかって、そういうきれいな話じゃないんですよ。とにかく、わたしとやりたいんですよ。もうこんなおばさんになってるから、何にもいいことなんかないのに、今のわたしがどうとかって関係なくて、一回でもやったって事実がないと、収まりがつかないって感じで。」(308ページ)という美涼に対し、「…理解を絶してる、とも言えない」と応えつつ、会話の展開によってはという夢想を烟らせながら結局は受け流す城戸の心情に、中年を過ぎての出会いの着地点を見てしまいます。
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平野啓一郎 文春文庫 2021年9月10日発行(単行本は2018年9月)
読売文学賞受賞作