伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

そして、バトンは渡された

2021-12-02 21:40:45 | 小説
 一流企業に勤める東大出の血の繋がらない「父親」森宮壮介と暮らす高校生森宮優子の日々の思いを、生父水戸とブラジル転勤で離れて後妻の梨花と暮らし、梨花の結婚に合わせて泉ヶ原、森宮と親が替わっていった過去を振り返りながら描いた小説。
 基本的に、一生懸命父親して料理を作り続ける「森宮さん」とその愛情をやや持て余しつつも感謝して受け止める優子ちゃんのズレながらもほのぼのとした会話で進行させ、それを読ませる作品だと思います。娘を持つ父の身には、合唱祭前夜に優子ちゃんのピアノ伴奏で歌いまくる森宮さんの場面(244~253ページ)が隠れたクライマックスのように思え、ジーンときました。
 タイトルが「そして、バトンは渡された」で、ラストが結婚式で森宮さんが早瀬くんに「自分の知らない大きな未来へとバトンを渡す時だ」(420ページ)って…映画のラストでも強く感じたのだけれど、そして結婚式という儀式ではそのような考えがはびこりまたそういう演出がなされがちだけれど、新婦は、花嫁の父から新郎に渡される「バトン」なのか。父の庇護の下から夫の庇護の下に手渡されるものなのか。幼き日は、親が替わっていくのをなすすべもなく運命に抗えずに来たという設定でありそういう描き方がなされているけれど、それは子どもだからそのとおりだと思うし、違和感はありません。しかし、成人して自分の意思で自分の選択で結婚する女性を、一人前扱いせず、さらには物扱いで「渡す」という表現はいかがなものか。せっかく型にはまらない親子関係・人間関係を爽やかに描いた作品なのに、このラストは、そしてこういうタイトルをつけるのは、私には残念に思えてなりません。


瀬尾まいこ 文春文庫 2020年9月10日発行(単行本は201年2月)
本屋大賞受賞作
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「これからの世界」を生きる君に伝えたいこと

2021-12-02 00:08:33 | エッセイ
 マリ(アフリカ)出身で1991年に来日し、空間建築学(建てる前にどういう建築にするかの建築計画を考える)を専門とし、2018年から京都精華大学学長をしている著者が、若い人に向けてこれからの世界で生きていくための考え方を論じた本。
 日本人は空気を読むことを重視していると言うが、日本の若い人はそもそも空気を読めていないのではないか、空気を読んでいるようで、実際には読んでいるフリをしているだけ、本当に空気を読むのであれば、先ずは周囲の人が考えていることを理解する必要があるのに、ただ「主張しない」ことを空気を読むことと勘違いし、主張し合う(それにより理解と協調に達する)ことを最初から諦めつつ、しかし気持ちの中では納得していない(100~103ページ)とか、「以心伝心」と言うけれども一方的に推測して分かったつもりになっていることが多く、間違って推測して行き違いになることも多い、行き違って本音でぶつかり合えば最終的に理解できるかと思えば、日本人はコミュニケーションを諦めて「キレ」、誤解されたことに気づいても解消しないままにする(104~107ページ)など、なるほどと思いました。
 メディアリテラシーとは「自分の価値観を持つこと」(130ページ)というのも、なんかストンと落ちる感じがします。
 合コンで「自分は京大の学生である」と強調したがる人に辟易させられた、彼らは聞かれてもいないのに何かにつけて京大をアピールします(68ページ)って…京大生はそういうふうに見られてるのね (-_-;)


ウスビ・サコ 大和書房 2020年7月5日発行
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