伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

コロナ狂騒録

2021-12-13 00:16:33 | 小説
 「チーム・バチスタの栄光」に始まる「田口・白鳥シリーズ」とも「東城大学シリーズ」とも「桜宮サーガ」とも呼ばれるシリーズの体裁と登場人物を使った新型コロナウィルス感染拡大とそれに対する安倍政権と官僚・医療専門家たちの対応のまずさ・無策ぶりをあざ笑う政治小説「コロナ黙示録」の続編。
 安倍晋三の辞任から東京オリンピック開会までが描かれています。作者としては、オリンピック中止を期待して書き続けてきたがどうも強行されそうだというところで見切って出版したというところでしょうか。これも、菅首相の辞任直前に出版された(前作は安倍首相の辞任直前に出版された)のは、狙ったものだったのでしょうか。
 前作よりもさらに東城大学関係はどうでもよくなった感じで政界官界の話に集中しています。
 登場する人物の中で、白鳥の暗躍の一つの場である「政策集団・梁山泊」の総帥村雨弘毅の描き方に疑問を感じます。作者は、村雨を浪速府で医療最優先の行政システムの構築(医療立国)を目指した浪速の風雲児と位置づけ、安倍政権打倒のために活動し、公文書偽造を命じられて自殺した官僚の無念を晴らすために「梁山泊」の活動をする人望がある元浪速府知事と描いています。村雨は、「ナニワ・モンスター」(2011年)からの登場人物だそうで(私は読んでいません)、その経歴から橋下徹を指していると一般に受け止められています。ところが、作者は前作の「コロナ黙示録」以来、「弁護士で、人気テレビ番組『注文が多い法律事務所』出演で知名度を上げ、2008年に第17代浪速府知事になり、2010年に白虎党を結党して、代表に就任」した(64ページ)というより明確に橋下徹を示す人物「横須賀守」(前作・コロナ黙示録では「橋須賀守」でしたが…:「コロナ黙示録」43ページ、246ページ等)を登場させた上で浪速府の医療を破壊し府民を騙した政治家としてこき下ろしています。期待を寄せて持ち上げた人物が、裏切って変節・堕落したり、あるいはその人物はもともと信を寄せるに足りない人物で以前の評価が誤っていたという場合、作家はどうすべきなのでしょうか。以前書いたキャラクターは維持したままで別人物だったことにするというのは、スッキリしない感じがします。ここは村雨が実は見下げ果てた人物だったとして悪役で登場させるか、もう登場させないかではないかと思うのです。そこを過去に持ち上げた幻想のキャラは架空の人物にすり替えて登場させ今でも理想的だとするのは、無理が出てくるように思えます。結局、前作でも今作でも、「梁山泊」は重要な位置づけがあるように見えながら、実際には大したことは行わず、別に梁山泊も村雨もいなくても作品が成り立つように、私は思います。作者の村雨へのこだわりは、空回りし、何のために村雨が出てくるのかわかりません。作者はさらに続編を書いてそこでは村雨が何かを成し遂げるという構想を持っているのかも知れませんが。


海堂尊 宝島社 2021年9月17日発行
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