伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

東日本大震災後の放射性物質と魚 東京電力福島第一原子力発電所事故から10年の回復プロセス

2023-05-14 19:48:25 | 自然科学・工学系
 福島原発事故後の海洋と内水面(河川・湖沼)の放射性物質(主としてセシウム137)の移動と水生生物からの検出状況について説明し、福島県産の水産物にはもはや危険はないと主張する本。
 編著者である国立研究開発法人水産研究・教育機構は、水産業の活性化等を目的とする法人であるということからか、震災から復興した漁港では新たに導入されたシステムでより高鮮度な商品の出荷が可能(10ページ)などと放射能汚染問題とは全然関係ないところで安心・安全を印象づけようとし、年月が経過しても放射能汚染が提言しない湖沼等でキャッチアンドリリースによる遊漁解禁(釣った魚が食べられる水準でなくても釣り客を呼び込もう)を提言する(93ページ)など、漁業振興に前のめりの記述も見られます。
 2012年8月に原発から20km圏内で採取されたアイナメから16,000Bq/kg(出荷制限基準の160倍)ものセシウム137が検出されたことについて、水産機構では原発港外に生息するアイナメにおいてそのような個体が存在する確率は1000万分の1程度で、この放射線量は原発港湾内にいたアイナメのセシウム137分布範囲内であるからこの個体は原発港内から逃げ出したものと結論づけたと書かれています(49~50ページ:他方で58ページではアイナメは岩礁域に生息する定着性の強い底魚だとも書いていますが)。消費者の立場からすれば、原発港湾内の汚染度の高い魚が現在では操業が再開されている海域まで逃げていたとしたら、それ自体に危険を感じるわけです。汚染水が原発港内でコントロールされているなどということがあり得ないのと同じように、汚染魚もまた原発港内や操業自粛海域(10km圏内)にとどまってはいないということですから。例外的だからいいではないか、そんなことで不安をいうのは風評被害だという姿勢には、どうも違和感を持ちます。
 この本でも、現在もなお福島原発から海洋へのセシウム137の直接漏洩は続いていること、陸域に堆積した放射性物質が河川からなお供給されていることなどの記述もあります(30~35ページ)。海底堆積物について汚染物質が拡散して濃度は低くなったと言うばかりではなく、それが汚染地域が拡大していることであり、海洋での測定はごくわずかな地点・サンプルについてしか行えず、生体濃縮等の機構についても十分解明できていないことなどの限界性を踏まえて、もっと慎重な姿勢で書いてもらえたらと、私は感じました。


国立研究開発法人水産研究・教育機構編著 成山堂書店 2023年3月28日発行
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« デッサ・ローズ | トップ | 自然科学ハンドブック 恐竜... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

自然科学・工学系」カテゴリの最新記事