伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

さようなら窓

2008-08-08 00:45:45 | 小説
 寂しがり屋で人見知りする働けない、でも家事も巧くない大学休学中の女子大生築と、家出した築が転んだところに手を差しのべたことから同棲する流れになった美容師の祐亮のカップルに適当に人を絡ませた短編連作集。
 特に取り柄もなく性格もよくないダメな女が自己嫌悪に陥ると優しい男が無理しなくていいよって言って包容してくれるというパターンがずっと続きます。まぁこういうのを読んで癒される需要があるからこういう話があるのでしょうし、そういう話があっていいんですが、なんか最近そういうの多すぎません?それで自分も生きていけるって勇気づけられるのならいいですが、今の私でいいのって向上心持たなくていいよって方向に進みそうで、いいのかなぁって思います。むかしあった「小さな恋の物語」のより高年齢向けって感じがしました。
 でもさすがに「an・an」連載でそれじゃまずいかって思ったのか、最終話で突然、祐亮が僕が無理しなくていいよって言い過ぎて築をダメにしたかもしれないなんて自立志向が出てきます。最後だけ浮いてる感じもするけど、最後にようやく成長の兆しが見えてホッとします。


東直子 マガジンハウス 2008年3月21日発行
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エヴリブレス

2008-08-07 21:50:49 | 小説
 金融工学を専攻し証券会社での商品開発から研究者への道を歩んだ杏子とその子どもたちの人生を軸に、サイバーワールドで参加者の情報を取り込んで分身が自律的に行動するパラレルワールドを形成する「BRT」の開発に携わった杏子の先輩・知人との過去・現在・未来の関係を語る近未来小説。
 パソコンから携帯、そしてウェアラブルを通じて脳からとサイバーワールドへのアクセスが進み、サイバーワールドの広がりと深まりも進んでいく様子と、それに自然と対応していく子ども世代が描かれ、他方開発者から知っているけど先輩への思いを分身に自律的に展開・変化させられることへの違和感から敢えてアクセス(共鳴)することをやめた杏子が対比的に描かれることでサイバーワールドの進化のあり方を少し考えさせられます。現実世界の時間軸とサイバーワールド内の展開が錯綜し、少し読みにくい。
 ラジオ小説の原作ということもあり、サイバーワールドがいかに進化してもラジオはなくならず旧式の鉱石ラジオがいつまでもシンボルの役割を果たしたり、サイバーワールドでは杏子も先輩もラジオのパーソナリティだったりと、ラジオ局に絡むところだけ近未来じゃなかったりするのがご都合主義的に感じます。
 BRTは参加者のパソコンのデスクトップの情報をスキャンして分身のキャラクター・行動を形作っていくということですが、公共の端末から共鳴してるのに参加者の情報を深めていく様子なのはちょっと不思議でした。


瀬名秀明 TOKYO FM出版 2008年3月25日発行
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ファイアー・フライ

2008-08-03 12:49:16 | 小説
 大手IT企業の社長と間違われて誘拐された研究員が、誘拐犯と駆け引きするうちに、横領疑惑を押し付けられ妻からも裏切られというストーリーの中年サラリーマンの悲哀を感じさせる企業ものミステリー。
 主人公の研究員が、頭が切れるが地味できまじめなところが、好感を持たせるとともに読者にフラストレーションを残しもします。妻に裏切られ、犯人の女性と気持ちを通じ合わせれば、まあ普通は関係を持つという展開が予想/期待されるのですが。
 ミステリーとしての犯人は、まぁおおかた予測されるところで謎解きの楽しみはほとんどないですが、忠実な従業員だった主人公が会社と闘うために変貌していく様子や会社側との駆け引きが読ませどころでしょう。


高嶋哲夫 文藝春秋 2008年5月15日発行
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ブラックホールを見る!

2008-08-03 01:05:28 | 自然科学・工学系
 大質量のためそこから光も脱出できない天体ブラックホールについて最近の研究成果を解説した本。
 ブラックホールが論じられ始めた頃は、大質量のイメージから中に入れば当然に圧死するというイメージでしたが、大規模なものだと境界での重力は大きくなく、むしろ気がつかないうちにブラックホールに取り込まれて出られなくなる可能性があるという(44頁)のは、それはそれで怖い。それくらいの規模のブラックホールってそれ自体が1つの宇宙/銀河みたいですね。
 最近の議論ではブラックホールからのジェット放出が言われ、この本でも論じていますが、ずっと不思議に思っていたなぜブラックホールからジェットが放出されるのか(され得るのか)は、その点についていくつか仮説はあるけど結局はまだよくわからないそうです(74~82頁)。そこを知りたくて読んでるんですが・・・


嶺重慎 岩波科学ライブラリー 2008年5月8日発行
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囚われちゃったお姫様

2008-08-02 03:12:59 | 物語・ファンタジー・SF
 お姫様らしいことが嫌いでハンサムなだけの王子様と結婚させられるのを避けるために家出した王女シモリーンが、ドラゴンの囚われの姫となって魔法使いの陰謀と戦うというファンタジー。
 カバー見返しの紹介や訳者あとがきには、型破りなお姫様とか、「ちょっぴり(?)気が強くて明るく賢いお姫様、ニューヒロイン」なんて紹介されているので、「女の子が楽しく読める読書ガイド」紹介候補と期待して読みました。
 シモリーンは確かに気が強くて明るくて賢く型破りではありますが、自らドラゴンに囚われた上でドラゴンの下ですることといったらもっぱら料理と掃除です。剣術も習っていたのに、剣術で倒すのは鳥1匹だけ(160~161頁)。お城ではお転婆に見えても大半のシーンではむしろおしとやかです。賢いはずなのに家出の時持って出るのはきれいなハンカチ5枚と一番いい冠だけ(26頁)って・・・。能力があるって設定なのに自ら志願してしもべとなって料理や掃除で奉仕するのって、「タッチ」で浅倉南が能力がある女も「たっちゃんのお嫁さんになるのが夢」っていうのと同じ路線。暗い感じがしなくて軽く読めるだけに、こういうのいやだなって思ってしまいます。


原題:DEALING WITH DRAGONS
パトリシア・C・リーデ 訳:田中亜希子
東京創元社 2008年6月25日発行 (原書は1990年)
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もう殺さない ブッダとテロリスト

2008-08-02 03:03:01 | 物語・ファンタジー・SF
 アウトカースト(不可蝕民)に生まれ虐げられて殺人鬼となって多くの罪もない人を殺害し続けたアングリマーラがブッダと出会い、暴力のむなしさを悟り暴力を捨てブッダの弟子となりアヒムサーカ(非暴力の人)と名乗り、改心して修行するという仏典のエピソードを元に再構成した訓話。
 もちろん、アングリマーラが改心したといっても殺害された人の遺族は収まらず、国王はアングリマーラに裁判を行うこととなり、遺族と賢者が呼び集められます。私としては仕事柄この裁判の場面に目が行きます。最初遺族が被害者の非業の死や残された者の悲惨さを語りアングリマーラを極刑に処すことを求めます。アングリマーラは罪を認め反省を語り、賢者が暴力の連鎖では解決しないことや寛容を説き、これに対して律法家(検察官でしょうね)が法秩序の立場から処刑を求め、王は確信が持てない状態になります。ここに夫を殺され幼子とともに残された遺族スジャータが、アングリマーラの犯罪を憎み処刑を求める気持ちと本当に悔い改めた人間を処刑することに意味があるのかという気持ちに悩んだ上で単なる復讐を求めることに身を落としたくない、アングリマーラの例が誰でも救われうるのだという希望の灯となってくれればいいと語り、流れが一気に傾き国王が特赦を与えるに至ります。
 スジャータの思い悩む姿と赦しには心を打たれますが、同時にそれを他の遺族に求めることやスジャータの意見をアングリマーラを許せないと思う多くの遺族に優先していいのかという点には違和感も残ります。


原題:The Buddha and The Terrorist
サティシュ・クマール 訳:加島牧史
バジリコ 2008年6月16日発行 (原書は2004年)
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