伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

実践的eディスカバリ 米国民事訴訟に備える

2010-12-09 22:22:56 | 実用書・ビジネス書
 アメリカの民事訴訟において正式事実審理(トライアル)前に行われる関連情報の開示(ディスカバリ)が近年電子情報にも及び、それをeディスカバリと呼んで、そのルールと実情を解説し、日本企業においても日頃から準備しておくべきことを提言する本。
 以前から、アメリカの民事訴訟手続に関する本を読む度に、大企業と戦う側の弁護士にとってうらやましく思うのが、ディスカバリ、陪審制、懲罰的賠償の3点セット(クラスアクションを含めて4点セットでもいいですが)。現在のeディスカバリでは、特定の人物の電子メール全部とか特定のキーワードを含む電子メール全部とか、コンピュータのハードディスクをコピーしてミラーイメージを作成して弁護士の監視の下で検索して情報を抽出したり削除されたファイルの復元・提出を求めるとかも可能だそうです。しかも、アメリカのディスカバリでは裁判上必要な証拠自体だけでなく証拠を発見するための情報も対象となる上に、開示しない場合にはかなり厳しい制裁(高額の賠償金の支払の他に、訴訟上の主張や立証活動の制限など敗訴につながる制裁やさらには直接裁判の終結や敗訴ということさえある)があり、現実に命じられています。読んでるとため息が出ます。企業側の弁護士は反対の意味でため息が出るでしょうけど。
 日本にこういう制度が導入されれば、一市民が大企業や国に裁判で勝つ可能性がグッと高まると思うのですが、百年河清を待つ、でしょうね。マスコミが好意的な近年の「司法改革」は財界主導のものですから、大企業に不利な制度は絶対に導入されませんからね。「裁判員」が素人だけで職業裁判官が入らない「陪審」を避けるために考案されたものである上に、民事裁判での導入は拒否されたことに典型的に見られるように。大マスコミは、司法修習生に給与を払うのは税金の無駄遣いで、貸与制への切替に反対する日弁連は司法改革に反するなんてつまらないことを言っている暇があったら、こういうディスカバリのような訴訟に関係する手持ち情報をお互いに開示して共有しようというとてもフェアなやり方なのに大企業や国が損をするから導入できずにいる制度をこそ後押しすべきだと思うのですが。
 前半はアメリカでの制度やルール、実情が解説されていて、弁護士としては、強い関心を持って読めました。後半は、アメリカの裁判手続に巻き込まれて開示を求められたときにすぐにかつ正しく対応できるように日頃から文書管理をきちんと行っておけという話が中心で、抽象的になるのと、監修者のデジタル・フォレンジック研究会とかの企業向けの売り込みっぽく感じられたので、眠くなりました。


町村泰貴、小向太郎編著、デジタル・フォレンジック研究会監修
NTT出版 2010年3月18日発行
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海のプロフェッショナル 海洋学への招待状

2010-12-07 21:35:45 | 自然科学・工学系
 海洋の生物や生態系、環境問題、海洋そのものの物理化学的解明、気象との関係、深層水循環や海洋底、プレートテクトニクスと地震、海底火山など様々な分野が複合する海洋学についての紹介と、研究者リクルートのためのガイドブック。
 第1部は幅広い分野から海と地球について解説していて勉強になります。私としては、深海の熱水噴射域での硫化水素や重金属から有機物を合成する生物による化学合成生態系(地表や浅海での光合成生態系に対置して)の存在(40~42ページ)や海洋底堆積物からの地球の歴史の分析(65~70ページ)、プレート境界でのマグマの挙動と火山や地震(71~85ページ)などに興味をそそられます。
 第2部から第3部は研究者、特に女性研究者の生活や研究スケジュール、職場の様子が書かれていて、研究者の生活がイメージできます。この本は、女性研究者グループが主として女性に研究者を志してもらうために書かれたもので、この部分に重点が置かれています。紹介されている職場は多くが政府関係で、民間企業が2人、水族館とフリーランサーが1人ずつ。安定感はあるけど寄らば大樹でないと研究が難しいという印象も残り、フリーランサーの健闘はありますが収支が書かれてなくてたぶん大変だろうなと思ってしまいます。また研究者となると予算獲得や研究費助成を得るために1年単位でのスケジュールで動く必要があることも実感させてくれます。部外者からは、研究者の研究生活を垣間見させてくれる本ともいえます。


窪川かおる編 女性海洋研究者チーム著 東海大学出版会 2010年11月5日発行
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もの忘れと認知症 “ふつうの老化”をおそれる前に

2010-12-03 22:49:37 | 自然科学・工学系
 認知症や類似の病気についての説明と高齢者の生活、介護、終末医療等について解説した本。
 前半は、アルツハイマーを中心に認知症に至る各種の疾病についての説明が続いています。「パンチドランカー」なんて、「あしたのジョー」世代には懐かしい言葉も出てきます(16ページ)。「パンチドランカー」って今でいうと認知症なんですね。あぁ、カーロス・・・。
 それも含めてずいぶん様々な病気から認知症に至るのだと、知らなかったことがわかりますが、このあたりは素人には難しい感じですし、老化によって当然に記憶障害が生じたりするわけではない、老化だと考えずにとにかく早く医者に診せろという話が多い。
 ただ、医療関係者の宣伝っていうのでもなくて、多剤併用による副作用のリスクを強調していて、医療側の問題も指摘されています(アルコールやハーブやサプリメントと薬の併用の危険も強調していますから、結局は医者に何でも打ち明けて相談しろということではあるんですが)。
 認知症の予防についても、解明されておらず効果が確認はされていないとしながらも、知的活動の継続、果物、野菜、穀物を食べ飽和脂肪は減らす、定期的な運動等を勧めています。
 後半は、認知症のみならず、高齢者のケア、生活と介護について、参考になりますし、考えさせられます。
 全体として同じ事実の繰り返しが多く、読んでいてちょっとくどいなぁという印象を持ちます。


原題:Forgetting
J.C.ブライトン 監訳:都甲崇
みすず書房 2010年8月5日発行 (原書は2008年)
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ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。

2010-12-02 22:07:00 | 小説
 仲のよかった母親の死体を残して失踪し重要参考人として行方を追われている望月チエミを探して友人や恩師を訪ね歩く幼なじみのフリーライター神宮司みずほと関係者の共感と確執を描く青春ミステリー小説。
 神宮司みずほが行方不明の望月チエミを追う長い長い(ページ数の8割近くを占める)第1章と短い第2章で構成されています。
 ミステリーとしては強い緊迫感はなく、といってだれない程度には緊張感が維持されていて、手頃な読み物というところだと思います。
 ストーリーよりも、登場する女性同士の互いにバカにしたり嫌う中でのさや当て、嫉妬、冷たさ、意地悪と、しかしそれでも良くも悪しくも維持される友情という人間関係の複雑さというか難しさの方が読まされる感じがしました。こういうことで驚いてしまうのは、女性に対する幻想を持ちすぎということなのかも知れませんけど。
 タイトルの意味は最後に明かされますが、最後に持ってくるほどのネタだったかはちょっと。私自身は、このタイトルを見たとき、これは読んでおかねばと思って読んだのですが。なんせ、事務所の私の専用電話の番号なものですから。


辻村深月 講談社 2009年9月14日発行
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僕の明日を照らして

2010-12-01 21:28:26 | 小説
 幼いときに父が死にスナック経営者の母に女手一つで育てられた中学2年生陸上部の隼太の、学校生活や母の再婚で同居することになった歯科医の優ちゃんとの関係を描いた青春小説。
 何事もそつなくこなし、人望もそこそこある隼太の鬱屈した部分や苛立ち、友人やガールフレンドとの間合いの取り方などが、お気楽でもなく暗くもなくほどよい読み具合です。
 しかし、この作品の人間関係の中心は、二重人格ともいえるふだんは朗らかで優しい優ちゃんが2人きりの夜に突然キレて隼太を殴りつけ、しかしその後正気に返って後悔しこのうちを出て行くというのを隼太が止めるという義理の父子の屈折した関係にあります。DV被害者の隼太が、もちろん優ちゃんがキレなくなる方策を考えながらですが、加害者の優ちゃんを許すのみならず母に話すというのを口止めし一緒にいたいと言い続ける様子、またDV加害者の優ちゃんのふだんの優しさの描写は、ちょっと異様です。隼太のような考えを持つDV被害者もいるかも知れませんが、それはかなり少数派だろうと思います。このような描き方は、DVをステレオタイプで捉えるのではなく、様々なあり様をイメージさせる、あるいは加害者とともにあることで克服するという方向にも読めるかも知れませんが、現実的にはDVを相対化し容認する、当事者でないまわりの者が介入せずに傍観し、結果としてDV被害者の孤立を招くような方向性を持っているようで、ちょっといやな感じがしました。


瀬尾まいこ 2010年2月10日発行 筑摩書房
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