伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

ヴァンパイレーツ9 眠る秘密

2011-06-19 16:21:03 | 物語・ファンタジー・SF
 海賊船(海賊アカデミー側)と吸血海賊船ヴァンパイレーツ(ノクターン号)とそれらに命を救われた双子の兄弟コナーとグレースの運命で展開するファンタジー。
 9巻は原書の4巻を小分けして翻訳した2冊目ですが、最後の中途半端さから考えて原書3巻と同様日本語訳では3分冊にしたみたい。
 日本語版9巻も8巻と同様に、母サリーの霊と共にノクターン号に戻ったグレース、8巻からの新たな登場人物ローラ・ロックウッドら女性ヴァンパイレーツグループの襲撃とシドリオの悪役グループの合流・集結、海賊アカデミーで新たに新造船タイガー号の船長と認定された門出に海賊アカデミーの幹部クオ提督を殺害されて憤ると共に海賊アカデミーから重大な任務を課せられるチェン・リーとその乗組員となったコナーの3グループで話が展開します。9巻の読みどころは、8巻に続きサリーの霊の話でグレースとコナーの両親の過去が明らかにされることと、チェン・リーとコナーが海賊アカデミーからヴァンパイレーツ暗殺の任務を課せられたことからコナーがグレースと行動を共にするノクターン号との敵対に思い悩みチェン・リーとの思惑のずれを生じていくあたりにあります。
 例によって原書1冊を小分けにして数ヶ月おきに出版する販売政策のおかげで読み終わっても中途半端ですっきりしませんから、8月刊行予定の10巻が出てからまとめ読みした方がいいかと思います。


原題:VAMPIRATES:BLACK HEART
ジャスティン・ソンパー 訳:海後礼子
岩崎書店 2011年5月10日発行 (原書は2009年)

8巻は2011年1月23日の記事で紹介しています
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貸し込み 上下

2011-06-13 21:09:15 | 小説
 バブル期に銀行が脳梗塞で倒れた大企業幹部に巨額の融資をしてその大半を両建て預金にさせて利息差額分だけ損をさせ(銀行が儲け)たあげくに不必要な住宅ローンの借り換えをさせていたことで裁判となり、退職した元銀行員が自分が日本にいないことをいいことに濡れ衣を着せられていたことを知り、被害者側の証人となるというストーリーの経済裁判小説。
 銀行が融資や払戻の際に作成する書類やその保管、それについての銀行の不正やごまかしのテクニックが詳しく書かれているのが興味深いところです。
 作者の実体験に基づいて書かれた(と裏表紙や解説に書かれています)だけに、裁判の場面での駆け引きや裁判官の態度、そして判決の行方など、創作では考えにくい現実感があります。
 キーパースンとなる被害者の夫宮入治の人格設定も、弁護士をやっていると、「いるんですよね、こういう困った依頼者」としみじみ感じるパターン。
 私がさらに感心したのは、作者が裁判上第三者的な位置にいたためかとは思いますが、登場する弁護士に対する冷静な観察と描写です。(当然に)銀行実務の裏側は知らないけれど話をよく聞いて理解し入念な準備をして手堅い進行をするが、依頼者の気まぐれで自己満足的な主張をいなして依頼者からは熱意がないと評価される佐伯弁護士、人の話をあまり聞かず傲慢だが依頼者の自己満足にもつきあいはったりとテクニックには長けて依頼者にアピールする有塚弁護士、記録をよく読み堅実で、自己主張の極端に強い依頼者に困りながらも自分ではそうは言えない角田弁護士、会社サイドに準備してもらって十分に理解していないために尋問で切り返しに対応できない棗弁護士など、弁護士の目からは、うん、いるいると、納得します。
 民事裁判の被告を「被告人」と書いたり民事訴訟法の条文の引用を間違えたり(上巻39ページ:この趣旨なら引用すべきは87条、161条)のミスはありますが、全体としては特に無理を感じる場面はありませんでした。むしろ、一番最後の「本作品はフィクションです。登場する人物・組織等はすべて架空のものです。」という断り書きが一番しらじらしい感じです。


黒木亮 角川文庫 2009年10月25日発行 (単行本は2007年)
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鉄のしぶきがはねる

2011-06-12 02:36:58 | 小説
 工業高校に通うたった一人の女生徒三郷心が、工業技術を競う高校生ものづくりコンテストに挑む青春小説。
 九州に三郷ありと言われるほど腕のいい職人だった祖父が経営していた町工場で、こつこつと書きためた秘伝のノートを若い職人が盗み出して失踪し、取引先の倒産や祖父の病気が重なって工場が閉鎖された経験を引きずって、手作業の技術を否定し、コンピュータでの制作技術の習得に打ち込んでいた心が、先輩の原口や風来坊の職人小松さんの確かな技術に裏打ちされた旋盤の音の美しさや作品の美しさに惹かれ、職人の技術の魅力に取り込まれていく過程は、お約束の展開とはいえ、引き込まれます。
 旋盤技術のマニアックな部分はついて行けませんが、技術の世界の厳しさ、微妙さを感じさせます。
 青春小説ですから恋心の部分もありますが、全般的には、地味な世界での地道な努力を扱った小説で、そこに読み味があると思いました。


まはら三桃 講談社 2011年2月24日発行
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日本断層論 社会の矛盾を生きるために

2011-06-12 00:05:27 | ノンフィクション
 戦前の朝鮮で開明的な教育者の父の下で生まれ、植民地の入植者という原罪意識を持って日本に渡り、炭鉱町で理論先行型の運動家で詩人の谷川雁とともにサークル村を立ち上げるが、運動の中でも女性、炭鉱労働者の女性の声を取り上げないことに違和感を持ち、女性、在日朝鮮人、沖縄、からゆきさんなどの底辺労働者、マイノリティとともに生き描いてきた森崎和江のこれまでを対談で振り返った本。
 一枚岩と捉えられがちな日本社会や、その中での運動にも様々な分裂とマイノリティがあること、そこにこそ目を向けるべきことを、「断層」と表現しています。でも、いくら何でも未曾有の大地震に思い惑うこの時期に出す本に、そういうミスリーディングなタイトルを付けるのは不見識じゃないかなぁ。
 テーマがテーマなので、対談形式の文章なんだけど、重くて、量のわりに読むのに時間がかかりました。植民地の原罪意識と日本に挟まれてのアイデンティティの喪失の話や、運動家の谷川雁が同居人の著者には他の人に会うことを禁じていたとか、炭鉱労働者から自分たちをネタにして食っていると批判された話とか、いろいろ考えさせられました。


森崎和江、中島岳志 NHK出版新書 2011年4月10日発行
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ハートビートに耳をかたむけて

2011-06-11 22:18:02 | 小説
 フィギュアスケート選手のイーガンが、大会で転倒して死亡し、その心臓が、内気で馬の絵を描いて育った少女アメリアに移植され、アメリアはイーガンの記憶の一部を受け継ぎ・・・という展開の青春小説。
 フィギュアスケートでオリンピック代表の座に近づきながら、スケート漬けの生活に不満を感じ、スケート最優先の母親に反発を感じるイーガンと、内気で母親の庇護の下にいつつも心臓移植に不安を感じ実は心臓移植なんていやだと思い自分のこだわりを持ち続けるアメリアの姿を、ある意味で対比的に、親からの自立を図る場面では通底させて、描いています。
 イーガンの視点とアメリアの視点から交互に描いていますが、物語の構成上、アメリアは手術後の展開があるのに対して、イーガンは基本的に過去を振り返るしかなく、そのあたりが双方向に話が伸びていかず窮屈な感じがしました。


原題:IN A HEARTBEAT
ロレッタ・エルスワース 訳:三辺律子
小学館 2011年3月8日発行 (原書は2010年)
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白い月の丘で

2011-06-01 23:13:52 | 物語・ファンタジー・SF
 平原の中央に位置するトール国の靴屋の娘マーリィが、トール国を征服した強国アインスから尋ねてくる貧乏貴族と称する青年で実はアインスの第1王子カリオルと、10年前にトール王がアインスに攻め滅ぼされたときに死んだといわれていた幼なじみの元トール王子ハジュンの間で思い惑いながら、国や政治、民族の文化を考える恋愛ファンタジー。
 舞台設定は「碧空の果てに」のものそのままで、ユイの馬使いメイリン、シーハンの首長ターリら「碧空の果てに」の主人公たちも登場します。平原シリーズ第2弾というところでしょうか。
 征服された人々の無念、哀しみ、特に文化を奪われることの屈辱、支配者の目をかいくぐって生きる者たちのしたたかさ、民族の文化への誇りといったものが心に染みます。また武力に劣る側が知略と交渉でいかに平和と独立を勝ち取るか、民主主義への憧憬と現実主義の折り合いといった深みを持たせているのも、児童文学では白眉と言えましょう。
 「碧空の果てに」と比べると自立志向の主要女性キャラがリーファくらいというのが寂しいですし、基本的な設定が笛の名手ではあるものの普通の少女が2人の王子に思われるといういかにも少女漫画的展開でちょっと気恥ずかしいのが私には玉に瑕でしたが。


濱野京子 角川書店 2011年1月30日発行

「碧空の果てに」は2009年11月8日の記事で紹介しています。
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