ダヴィッド・オイストラフというヴァイオリニストの名は私などの世代にはとりわけ有名であったと思う。旧ソヴィエトの出身のヴァイオリニストでソヴィエトを代表する演奏家であり、多くのファンを持っていた。1908年生まれで1974年に亡くなっている。年齢的にはまだまだ期待されていたが、持病の心臓病で亡くなったと記憶している。私がCDを購入するようになってからもCDはいくつも発売されていたが、どういうわけか購入する機会が無く、そのままになってした。
このCDのベートーベンのヴァイオリン協奏曲の録音が1958年、他の4曲は1956年とかなり古い。第1楽章のところでもマスターテープの具合が悪く少しだけだが音が飛ぶ。それはやむを得ないものなのだと思う。
演奏は録音が古い割には鮮明だと思うがそれでも音はこもり気味である。しかしその左指の細かな動きには驚く。特に第一楽章の長い音符で続くトリルの場面など驚くべきものがあると思っている。カデンツァなどで旋律が浮かび上がってくるように演奏されるのは心地よい。端正な演奏という風に思える。テンポはそれほど速くない。私はそれが気に入っている。
全体的に強弱のコントラストが強めで、3つの楽章の内第2楽章に少し線の細さを感じてしまうのは、私の聴き方がいけないのかもしれない。私のこの曲のスタンダードがヨゼフ・スーク、フランツ・コンヴィチュニー指揮、チェコフィルの演奏であるので、第2楽章がことのほか音の深みと透明さをたっぷりと聴かせてくれるのでついそちらと比較してしまう。
一見線の細そうな第2楽章の高音域、これはオイストラフ特有の高音の響きだと私は想像して聴いている。失礼な言い方かもしれないが、あの太そうな指からこのような繊細で美しい音が紡ぎ出されるかと思うと不思議な気がしてしまう。
指揮のクリュイタンス、フランス国立放送管弦楽団の演奏、いづれも有名だが私は聴いた記憶がない。